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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第一部
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第九章

 千日手のような攻防は終わりを告げ、今では一方的な攻勢となっていた。多数が少数をでなく、多勢に対する、単独からの蹂躙。平野という地理的状況と人数差を完全に無視した、規格外の戦闘。彼の言葉を借りるならば、全てを飲み込む津波。たった一つのきっかけを手にしただけで、状況を完全に覆す程の素質。これをミネルバが目にしていれば、背筋が凍る程の期待感を得ていたであろう。

「古の契約に従い、その身をここへ。我は高殿の王、汝はそれに従う者。来たれ、巨神の雷霆。百重の雷、千の軍勢」

「契約に従い、我に従え。氷の女王、闇夜の皇帝。咲き乱れるは氷の棘、咲き誇るは黒き庭園。共に在れ、永遠の牢獄」

 並行詠唱。無詠唱魔法と並ぶ難度の、上級魔法行使。戦闘と、そして他の魔法とを両立させつつ詠唱していくという、ある種では究極の戦闘術。

 本来、魔法詠唱というのは、世界と自身を繋げる為の物である。自然現象に対して魔力で干渉し、本来有り得ない現象を引き起こすというのが、魔法が持つ本来の姿であった。そのイメージを具体化させるモノが詠唱文であり、個人による多少のアレンジはあるものの、基本的に同一の物が多いと言われる。

 詠唱、魔法行使にはかなりの集中力が必要とされる。初級魔法ならまだしも、上級となれば前衛ではなく、後衛にいる専門の魔術師がそれを担当する。前衛の役目とは、その詠唱を途中で止めさせる事なく、安全に発動させる事に尽きるのだった。つまり、前衛としての機能と魔法行使は、対極の行動と言って良いだろう。

 レイルが使用している魔法は、《ライジング・サンライズ》と《アイス・ゲヘナエ》。共に雷、氷属性における、最上級の物。今のレイルに知る由も無いが、この二つを合成した魔法であれば、その効果範囲はあらゆる魔法を凌ぐ、最大規模の破壊範囲を誇る。


「これで、もう魔力も空だぞ……?」

 立ち上がる程度の魔力を残し、全力を出し尽くした。目の前では雷鳴が響き、足元は氷で覆われている。もしこれで生き残ってるのがいたら、危険すぎる。

 十分も経過した頃、ようやく土煙が収まり、視界が明らかになってきた。ゴーレムの姿は一つも残っておらず、ようやく一息つける。

「さすがに、疲れた……。早く戻って、ユウを安心、させないと―――」

 そこで意識が途切れた。直前に見たのは、一体のドラゴン。おいおい、そりゃ無いだろ?


 崩れるように倒れるレイルを支えたのは、ミネルバだった。虚脱直前の彼を抱きかかえ、大剣を構える。その顔は誰も見た事の無い、完全な怒りの表情。薙ぎ払った剣はドラゴンの体を貫き、消滅させる。たった一撃、それによりモンスターは姿を塵と化していた……。


「―――君、レイル君!」

 誰かの呼ぶ声。薄らと目を開けると、そこにはユウの姿があった。見覚えのある天井は、寮の自室。俺、どうやって戻ってきたんだっけ……?

「起きたわね?訓練場からあなたを運んでくるのは、ちょっと手間だったわ~。レイル君、見た目の割に筋肉量が多いから、重くて重くて。虚脱状態のあなたをね、ユウちゃんがずっと看病してくれたのよ?」

 声がした先には、教官とユーリ試験官の姿があった。ていうか俺、生きてた……?

「まだ起き上がらない方がいいですよ?だいぶ回復したとはいえ、魔力はほぼ空で、死んでも不思議ではなかったのですから。ドールマンさん、あなたはそろそろ女子寮へ。学園の正門は閉まっていますから、外にいる事務員と共に、誰か友人の部屋へ泊ると良いでしょう」

 優しいが、どこか強制を感じる声。ユウはそれに頷き、部屋を出て行った。空気が一瞬引き締まり、一瞬の静寂が訪れる。

「結論から言えば、犯人は不明。ただ、試験場でのボスクラスを召喚出来るのは、試験官か教官だけなのよね。以前のワイバーンといい、今回のクリスタルゴーレムといい。狙われているのは、どう考えてもレイル君ただ一人。何か心当たりはある?」

 咎めるでなく、諭し聞かせるような口調。高等部の一年相手に仕向けるには、余りに強力すぎる敵は、明らかに相手を殺害する事が目的だった。当然、レイルは首を横に振っている。

「まあ、学園にいる知り合いはユウちゃんだけだって、前にも言ってたわよね。一応教官のリストを持ってきたけれど、この中に見知った顔はいる?」

 広げたのは、該当する時間にアリバイの無い、学園に籍を置く教官達の一覧表。中には旧帝国軍出身の者もおり、知る人が見れば豪華と言える顔ぶれに、驚く者もいる程の物だった。

「この人、あとこっちも。何処だったか、討伐隊に参加した時に見たような覚えがあります」

 レイルが指したのは、二人の試験官。どちらも進学科とは無縁の、槍術科を担当していた。

「グリン・マッコネンと、リエン・ネッテスハイム?ユーリ、確かこの二人って……」

「ええ、どちらも帝国軍の元将軍ですね。確か何年か前、皇国からの指令で西側の山賊討伐に行っていたような?」

 レイルが二人と出会ったのも、実はその時であった。時期はほぼ三年前、その時にレイルは、自身の出生に関して二人に話をしていた。それが後に、何を意味するかを知らないまま……。

予定通り、ここで一度、話の区切りとなります。

何度も書き直していたせいか、投稿が遅れて申し訳ありません……。


明日、そして月曜日とちょこっと更新続ける予定です。


「正式タイトル募集!」

どうにもセンスがないのか、これというタイトルが決まりません……。

読者の方、もし良ければ一緒に考えてくださいませ。

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