第四十九章
「く、間に合わなかったか!」
途中、幾度となく足止めの部隊に襲われていた。人数こそ少ないものの、流石は皇国軍の精鋭部隊。城の留守を任されるだけあって、予想外に苦戦させられた。こっちは、ほぼ全員が満足に動けなかった、ってのもある。軍港に着いた時、軍艦は出航してしまった。ほんの数秒の差、それが一番悔しいんだよな……。
「残っている船は、全部外交用か。リーエ、本当にあれ以外に軍艦は停泊してないのか!」
「ええ。そもそもここは、大陸の東やエルフ領と外交を行う際、あれらを留めておく場所です。そのような事情もあり、軍艦と呼べる規模の物は―――」
途方にくれる俺達の前に、一隻の船が現れた。義姉さんが言うには、エルフの使う魔導船とかいう代物。魔石―――文字通り、魔力を含有する石―――を核に動く船で、速度は軍艦と同じかそれ以上。もし、あれを借りられるなら、間に合うかもしれない―――!
「やっほ、レイル君。皆、乗って乗って!事情は一応聞いてるから、最大速度で行くよー!」
接岸した船には、リュージュとナギ、そして数人の船員が見えた。ほぼ全員がエルフで、しかも本職の船乗り。動力源に魔石を使っているとはいえ、基本的に舵取りは人力のようだ。
「今回ばっかりは助かる!貸し一つ、ツケといてくれ」
「私ばっかり助けられてちゃ、顔が立たないでしょ?今まで助けられる側だったし、今回位はね」
話を聞いてみると、船員は全員がエウ・ラカイの出身で、今はアークラから更に南にある村で暮らしているという。ミーアの故郷がすぐ近くにあり、人や物の交流が盛んなんだとか。産業のエルフと、狩猟のミーア達。二つの村が対等な交易を結ぶのは、自然なものだったんだろう。
冥界の門がある島まで、軍艦でも半日は必要となる。当然レイルらの乗る船も同様であり、彼らは思い思いの休息を取っていた。束の間とはいえ、戦争を終わらせる為の、最後の休暇。必然的に、幾つかのグループに分かれる格好となっていた。
「私は皆さんに、この薬を配ってきます。即興のレシピで作ったポーションですが、コプシル位の効果はありますよ?」
学園時代、ナギの評価はその戦闘能力よりも、後方での支援能力が高かった。同じ素材から作り上げる薬は、どれも市販のそれを大きく上回り、且つ同程度の品質を量産する事が出来た為だ。大抵の薬師は素材の採取を他の傭兵らに依頼するが、彼女は単独でも十二分にそれを行う事も出来る。その有り余る才と弛まぬ努力の結晶が、その薬。万能薬とされる薬を、効能に劣るといえ、単独で作り上げる事に成功していたのだった。
「ナギって、製薬が好きだよね。学園でも暇さえあれば何か作ってたし、楽しそうな顔だった。レイル君の薬もなかなか良いんだけど、材料がね~」
「悪かったな。薬草も生えてない環境で、素材って言えば、あんなのしか思い浮かばなかったんだよ……」
レイルとクロハが共に行動していた頃、彼が作る薬は決まって、獣の骨や虫の死骸が素材となっていた。レイルが知らずにいただけであり、実は薬草として利用出来る物は、多種多様に自生していたのだが。
ミネルバとユーリ、ジェノスの三人は、船の最後尾にいた。そこは高台になっており、他の全員を見渡せる場所。
「教え子に、ここまで優秀な子が多いと……。先生としての自信、失くしそうね」
「筆頭はやはり、彼ですか?我々三人を掛け合わせた存在のようで、嫉妬さえ覚えますが。あれ程の才が野に埋もれていたとは、驚く外にありませんね」
「あれは別格で規格外だ。ミネルバが言っているのは、その隣にいる方だろう?複合式の障壁を持ち、しかも魔力量はそこらの魔族と同等、若しくはそれ以上だ。正直、一番敵に回したくないコンビだな」
大陸最強の名が認めた、クロハという才能。その言葉は、一人の戦士としては最も栄誉ある賛辞であった。その言葉が、次代の最強に対して送られなかったのは、彼なりの皮肉である。有り余る才に寄りかかり、貪るように得た知識のみで戦ってきた少年に対する、激励の一つでもあった。
各々の会話が一段落した頃、船の行く先に一つの島が見えた。冥界の扉、そこへ繋がる洞窟のみがある、小さな孤島。世界の命運は、辿り着いた彼らの手の中に。




