第四十七章
「報告、第三師団帰投!ライラ・ルーカス、及びリエン・ネッテスハイム共に発見出来ず!」
皇国軍の各部隊が、続々と本陣へ帰還していた。半数が既に戻ったものの、人員は大きく減らしていた。首謀者らの捜索に残存兵の大多数は投じたが、未だに足跡さえ確認出来ていなかった。リーエの焦りは、周囲に伝達する。腹芸を苦手とする彼女にとって、自身の内心を隠しきる事はとても難しい事だった。ましてや、前大戦から行動を共にしてきた、一部の将に対しては。
「全部、こっちに呼び戻して構いませんよ?二人共、ひっ捕らえてきましたから」
やってきたのは、レイル一人。大人二人を抱えているにもかかわらず、彼の速度は誰よりも速かった。残る体力を注ぎ込み、全力で魔力を回してきたが故に。肉体、精神への負担は相当なものでも、今の彼は全て無視していた。
「おっと、引き渡すのはまだですよ?先にやる事をやらないと、描いてきた計画が全部ご破算ですから、ね!」
抜いた剣を、全力で振るう。目指すべきは、リーエ・ファントムの首、そのすぐ手前。皮一枚さえ斬る事なく、彼はその手を止めていた。
「この戦争は、全部俺一人が計画・実行したもの。そういう事にしてくれませんか?」
「そのような話、飲める訳が……。開戦初期から、我らに助力していた。それも、数少ない血縁を……」
「だからこそ、ですよ。この戦争では、多くの民間人が犠牲になってきた。首謀者の名前や顔なんて、俺達や軍属以外に知ってるのはいない。だったら―――」
ここでもし、ヒト側の連中が仕掛けた、大規模な反乱だなんて言えば、嫌でもその憎しみや恨みは、ヒトへ向けられる。首謀者が魔族で、しかも皇国のトップへ対する逆恨み、という事にすれば。確証は無いが、また種族間での諍いが起きる可能性は、ほぼ無いと思う。そしてそれが出来るのは、現時点では俺しかいない。母さんと約束したのは、争いの無い世界を目指す、ただその一点だったから。
「確かに、現時点での最善策と言える。軍人として答えるならば、賛成しよう。だが、一個人としては反対だ。友をつまらぬ妬みで殺し、その息子まで時代の犠牲にしては、主に顔向けが出来ないのでな」
重苦しい鎧に包まれているせいで、その顔は見えない。それでも声には怒りの色があり、纏う空気も刺々しさがあった。流石に、怒らせたか……。
「盛り上がってる所、悪いけど。さっき伝令が来てね、首都の防衛に入っていた将軍が、兵士を数人連れて出て行ったそうよ?」




