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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第四十六章

「追い付いたぞ、外道。大人しく捕まるか、動けない体にさせられるか。好きな方を選べ」

 ライラを視認出来たのは、魔導砲の配置場所から十分は走った所だった。護衛は数人の将軍のみで、人形の姿は見えない。その中にリエンらしい姿もあり、帝国軍の中枢部分は全員だろう事が見てとれた。

「レイル・トルマンか……。貴様の父親といい祖母といい、つくづく我らの邪魔をしてくれる。貴様ら、さっさと奴を始末しろ!あれさえいなければ、皇国軍など恐れる事はない!」

 前に見た時と比べて、小物臭さが目立っていた。っていうか、あいつはこの戦況を見てないのか?とっくに人形兵は壊滅して、首謀者探しに躍起になってる程度には、結果が見えてきているのに。それだと困るから、クロハを置いて一人、ここまで出張ってきたんだけど。

「我が主の命だ。グレン殿を破ったその力、ここで見させてもらおう」

 前に進み出たのは、ライラのすぐ隣にいた男。んー、何処かで見た気はするけど。思い出せないって事は、大した相手でもなかったか?

「多勢に無勢など、騎士の道義には反するが、致し方あるまい。バレンシュタインの名に懸けて、二度も主を失う訳にはいかん」

 バレンシュタイン……。ああ、レイミアだったか、確かそんなのがいた気がする。編入初日に喧嘩を売られて、あの後は学園から姿を消してたっけか?父親っぽい雰囲気はないし、兄とか親戚とか、って所か。

「お、全員でかかってくれるなら、それが一番嬉しいね。いちいち部隊を分けられたら、作業の手間が増えるからな。かかってこいよ、そいつを逃がすつもりは無いんでな」

 立ちはだかる将を一瞥もせず、ライラは走り去っていく。あの野郎、部下を囮にするつもりか?

 その背中を見る間に、周囲に人の壁が出来ていた。一部の隙も無い、ほぼ完璧と言っていい程の包囲。

「追われても面倒だ。全員潰すしかないな」

 全員、かなりの手練れだ。目配せ一つで連携を指示し、こっちにパターンを掴ませない。一人が退けば穴を別の誰かが埋め、しかも動く人員は毎回異なる。長文の詠唱をするだけの時間が取れず、下手をすればこっちが叩き潰されそうな程に重い一撃が続いた。

「『光よ、闇を照らし―――』、っ、駄目か!」

 試しに短文詠唱をしてみた所、即座に短剣が飛んでくる。《ホーリー・レイ》程度の詠唱さえ駄目なら、魔法は殆ど使えない。そのくせ、全員の剣捌きは一段と冴えていて、俺程度の剣術では勝ち目が薄い。互いに致命傷となる手傷は無いものの、正直に言えば俺が不利。そんな中だった、急に目の前が青く照らされ、地面から槍が生えてきたのは。

「えへへ、やっと追い付いた!皆、やっと出番だよ!」

 現れたのは、振り切ったはずの過去。リュージュを始めとしてナギやテリー、ゲイルの姿まであった。シャルにレミーまで、どうやってここが……?

「レミーの特技、忘れたわけじゃないだろ?平原一帯に使い魔を放って、ここを特定したのさ。あれだけの数の魔導符、一晩で作るとは思わなかったけどな」

 包囲を無理矢理に突き抜けてきたゲイルが、背後に立った。そういや、魔道具作成はレミーが学園一番だったっけ……。シャルやリュージュ、テリーは包囲の外側にいて、一部の注意を引き付けていた。

「レイル、後で一発、思いっきり殴らせてもらうからな!クロハ、あいつに付いてってやれ。あたいらは、ゴミ掃除で手一杯になりそうだ」

 シャルの後ろには、クロハの姿があった。結界を抜け出して、更にこの面子に追い付くか。俺の肉体強化を模倣してるにしても、かなり速いよな……?

「うん、任せて!さ、行こう!」

「ああ、約束する。また、後でな……」

 いつ、誰が決めたのか分からない、俺達なりの挨拶。ただ拳を前へ突き出し、相手もそれを真似するだけの、簡単な別れ。この仲間内だけで通じる、それだけのものだった。多分俺には、その『後で』は来ないかもしれないが……。


 ライラとリエンは、そこからすぐに追いついた。時間がある程度経過していたが、谷間となっていた地形が災いしたのだろうか。生身である二人は、深い崖の下を走っていた。

「まだこっちには気づいていない、か。邪法だけで身を守っていた奴らだ、肉体的な能力はそう高くないって、自分から言いふらしてたも同然だな」

 二人の戦闘力は彼らからすれば、赤子にも等しかった。最低限の結界すら持たず、まして剣術に関してはミネルバやジェノスよりも格段に劣る。警戒するべきは、リエンの魔法のみである、はずだった。

「嘘、だろ……?」

 気取られないよう、レイルは魔力を圧縮した弾丸を、指先から放っただけ。障壁を持たないライラであれば、それだけで昏倒させられる。が、首筋への直撃が確実と思われていたそれは、ライラの背後で弾け飛んだ。

「ふむ、ネズミが追い付いたか。計算外だが仕方ない、私自ら葬ってやろう」

 炎の柱が地面に現れ、その全てがレイルへ向けて放たれる。火属性の中級にある《フレイムウォール》だが、明らかにライラ本来の魔力量を超えていた。それも無詠唱で放たれており、威力は損なわれていない。誰から見ても異常な事態に、レイルも戸惑いを隠せずにいる。

「聞いた事がある……。大量の魔力を体に注入して、強化を永続させるって邪法。でもそんなの、昔に帝国軍が実験しただけで、成功例は無いはず。やだよ、こんなの……。何百って人の悲しみが、魔力から伝わってくるなんて……」

 ライラの気配に、クロハは怯えていた。放たれる魔力からは、強化の犠牲となった民間人の嘆きと苦しみが滲み出ており、彼女の心を蝕んでいく。ライラが逃走したのは単に、その法が体に馴染む為の時間稼ぎにすぎなかった。

「って事は、あいつの中には数百人分の魔力がある、って?ならそんな物、最後の一滴まで枯らしてやるよ!」

「『全てを焼く冥府の炎よ、この地に舞え。一時の安らぎを与え、闇に還せ。《ダーク・ブレイズ》』」

 漆黒の炎は、飲み込んだ物全ての魔力を奪う。かつて魔王と呼ばれた存在さえも忌み嫌った、支配する為の魔法。結界や障壁による防御も意味を成さず、本来であれば飲み込まれる以外の選択は出来ないはず、なのだが。ライラはその場から動かず、ただ笑っていた。そして彼に触れた炎は、その瞬間に消え去っていく……。

「無駄だ。我が魔力は、全ての術式を奪う。よって、貴様の魔法は全てが無意味だ。そう、これさえあれば、私一人でも魔族程度ならば相手に出来るのだよ!」

 彼が軍という形に拘ったのは、自身の欲求を満たし、露払いをさせる為。ヒトに対する魔族の有利な点とは、突き詰めてしまえば扱う魔力量のみとなる。身体能力の強化をはじめ、攻撃や補助等、魔力を必要とする場面は数多くある為だ。その魔法を封じる術があれば、戦闘の結果は大きく変わっていく。

「マジかよ……。なら、純粋に剣での勝負って事か?悪いけどな、俺は急いでるんだよ。あんたの首をさっさと持ち帰って、戦争を終わらせないといけないからな」

「ふ、良いだろう、相手をしてやる。こちらも未だ、完全に慣れた体ではない。奴らの前に、貴様で肩慣らしをさせてもらう」

 二人の足元から、爆発にも似た音が上がる。剣が衝突する度に火花が散り、二つの影が交錯する。クロハは既にどちらがレイルか判別が出来なくなっており、ただその場に立ち尽くしていた。一方は天賦の才、片やもう一方は、邪法により肉体を強化してきた。天秤は均衡を保ち、動く気配も無いままに。

 そもそも、レイルにはそれ程、剣術の技能があるわけではなかった。稀有な魔法技術、そしてそれを行使する為の魔力を持っていた為に。純粋な魔法使いとしてであれば、彼が歴史の表舞台に立つ事は無く、単独で戦闘を行う事も無かったであろう。彼が剣を選んだのは、かつてたった一人の少女を守れなかった事が原因にあった。

 守りたい、そう思った人を背に、自身が前へ出る事を彼は選んだ。槍や斧では、戦闘の際に魔法を併用する事が出来ない。それならばと、常に傍らにあった剣が良い、と少年はそれを手に執った。その選択が、茨の道である事を知りながら。

「よもや、この身に付いてくる魔族がいるとはな!良い、実に良い!血沸き肉躍るとは、まさにこの事!」

「意外だな、あんたみたいな外道でも、そんな言葉が出てくるなんて。それでも俺には、まだやらなきゃいけない事があるんでね。ここらで倒れてもらう!」

 高濃度の魔力を纏い、レイルは突撃していく。迎え撃つのは、同等の魔力を持つ者。当たり所が悪ければ間違いなく、どちらかは立っていられなくなる、それだけは間違いはなかった。共に体力は有り余っているものの、等しく時間に追われている。そして、それが導く結果とは……。

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