第四十五章
「またあれかよ……。クロハ、突っ込むぞ。初級魔法でいい、手数であの護衛を牽制してくれ。俺が突入後、十秒で射撃終了。後は結界の中に。片っ端から潰してくる」
眼前に広がる魔導砲の群れ。本来は自然の魔力をその源とするが、それは違っていた。無数のケーブルが伸び、繋がれているのはかつて人間であっただろう肉塊。魔力の精製源として心臓だけを残し、他は切り捨てられた無残な物体であった。
「外道が……!戦争だったとしても、それは踏み外しすぎだろうが!」
レイルの怒りが大気を震わせ、魔導砲の照準を狂わせていく。一人が持つには、強大すぎる魔力。それが暴走した結果、その周囲に巻き起こるのは破壊と衝撃波の嵐。全ての封印が解かれた今、かつてのそれとは規模の違う破壊が、ここに巻き起こる。
巻き上げられた砂塵や石は、空中で塵となり消え失せる。量る事さえ愚かなまでの魔力が、その場に高密度で展開されている。結果、誰もがそこへ立ち入る事を許さず、中心の人物のみが存在を許されていた。
そもそも、レイルの『強さ』とは、何なのだろうか、とかつて学友らが語っていた。魔力量は言うに及ばず、魔法知識や剣術までも、学生当時でさえ高水準にあった。それでも足りなかったのは、実戦経験のみ。その経験も獲得した今、彼を圧倒し得る人材が存在するであろうか。
答えは、否。魔族数十人を束ねた程に匹敵する魔力、稀有なまでの魔法知識。そして何より、彼を支えるのは、一本の信念という柱。自分が信じる道を、守りたいと思う人と共に歩む、その事がレイルの背中を強く後押ししていた。
「『時の覇王よ、雷鳴となり走れ。百の迅雷、千の咆哮。未来を渡り、過去を統べろ。時空を制し、高らかに笑え』」
かつて一度使用した、《タイム・アルター》。その時は瞬時に大量消費される魔力に体が追い付かず、倒れるという結果に終わっていた。しかし今はその兆候は無く、彼の周囲は時が停止させられ、その場に凍り付いていた。
「『契約に従い、その力を示せ。来たれ、永久の闇。全てを飲み干し、全て滅ぼせ』」
闇がレイルの周囲に現れ、魔導兵器と周囲のあらゆる物質を飲み込む。強大な威力の魔法を主にする彼にとっても、最大級の威力を持つ《ダークネス・ヘヴン》。《タイム・アルター》や《アポカリプス・エッジ》と違い、数少ない両親から教えられ、習得した魔法でもあった。それをまともな形で使う相手が、その両親の細胞を持つ存在であるというのは、一種の皮肉か。
「アルターの効果は、もってせいぜい三分。それまでに、全部纏めて叩き壊す!」
崩れそうになる膝を、全回転させた魔力で動かしていく。震える体は体力の限界を予感させるも、彼は止まらない。この次に待つ戦いこそ、大陸、そして自身最後の物と決めていた為に。




