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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第四十四章

「ち、囲まれたか。楽ばかりするのは性に合わないが、どうにも俺は毎度、恰好がつかんな」

 ジェノスがいるのは、皇国軍の中心部だった。数十もの兵に囲まれ、その全てが彼に照準を合わせている。あるいは剣や槍を、あるいは弓、そしてある者は魔法を。その全部が一斉に放たれれば、いかにジェノスとて防ぎきる事は容易ではない。しかし、周囲にいる兵士も焦っていた。挑みかかった十数名が悉く、彼の一撃によって地に伏せているのだから。

「やれやれ、俺も鈍ったもんだ。来い、『剣帝』の名が伊達や酔狂で務まるものではない、という事を教えてやる」

 『剣帝』、それはかつての帝国が発行した、当代随一の剣士と認める称号。その実力、名声を誰もが認める存在となった時、時の帝王が与えていた名であった。

 十八歳、当時の彼は学園を卒業したばかりの事であった。帝国軍が主催する格闘技戦において、当時の将校らを打ち倒し、優勝という栄誉を与えられた青年がいた。その場で彼は帝国軍最精鋭、インペリアル・ガードとして取り立てられ、翌年にはその筆頭となる。第二次ユークランド大戦の勃発後は、各地を転戦するものの連戦連勝。率いる兵は皆、その指揮下にある事が一種の勲章とまで言い始めていた。

 そんな彼が、『剣帝』の座に相応しくない、と誰が言うであろうか。戦時下であるにも関わらず、広げられた宴席において、出席した誰もが青年の偉業を褒め称える。曰く、『彼に剣を握らせれば、山をも貫く』。曰く、『勝る者はおらず、大戦の勝利は揺るぎない』と。


 風が吹き、一人の体が宙を舞う。押し寄せる人波がそれを追い、手に持つ剣を振るい、槍を突く。風に舞う花弁を掴む事は出来ないように、彼の体がそれらを受ける事は無い。地面に立てば衝撃波が周囲を襲い、跳べば瞬く間に複数の人影が倒れていく。手に執る剣は特段、書き記す事柄は存在しない。ただし、一流の鍛冶師が、採算や他の仕事を一切顧みず、持てる技術の全てを注ぎ込んだ物ではあるのだが。強度を上げる為に鋼材の量を増やし、切断力を上げる為にその重量を上げる。通常の剣三本に匹敵する重量故に、他の誰もがそれを扱えず、ある城に何年もの間仕舞い込まれていた物。それを掘り起し、愛用した。伝説と言われる彼が、歴史の表舞台に立つのはそれからの事であると、知る者は最早数少なくなっていた。


「全くもう、無茶してるわね。って、私も他人の事は言えないかしら?」

 女性から見れば背丈のあるミネルバは、その丈に匹敵する大剣を手にしていた。学生時代から、彼女はその剣を使い続けていた。別段、思い入れのある装備というわけではない。ただ、人目ぼれ。鍛冶屋の軒先で自分の武器を選んでいた際、一番にその手にした物が、それだったというだけ。自分の戦闘スタイルを考えた時、頭に思い浮かんだのが大剣だった、と彼女は後に語っていた。

 その切先に、複数の顔が映る。生気を感じない、張り付いただけのような表情が。それを一瞥もせず、彼女は剣を振り下ろす。が、それは空を切るだけ。互いに一歩動けば、取り囲む全ての人形が呼応して動く。彼我の距離は変わらぬまま、その状況が延々と続いていた……。

「どうやら、私を足止めしたいみたいね?まあ、ここに来るまで大暴れしちゃったし、それも仕方ないかしら」

 ミネルバの足跡を辿れば、そこには無数の肉塊が転がっていた。その射程圏内に入れば、触れる物全てが跡形も無くなるまで、微塵に切り裂かれる。そうして辿り着いたのは、帝国軍本陣の目前であった。

 舞台は着々と、終焉に向けて動き出す。それぞれの思惑を秘めたまま、歯車は刻一刻と回っていった……。

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