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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第一部
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第六章

 教室に戻ったレイルを迎えたのは、ユウ達からの心配する声だった。処分は無かった事を伝えるとユウは、自分の事のように安堵し、その場に座り込んだ。

「テリーが状況を詳しく話したせい、っていうのもあるんだろ。喧嘩ふっかけたのはどう見てもレイミアだし、レイルはそれに乗ったっていうか、乗らされただけ。それで処分されるんじゃ、かなりくだらない。ここだけの話な、リュージュとかショウなんて、もしレイルが停学なり、退学なりに処分されたら、学園長の所まで殴り込もうとしてたぞ?」

「当然でしょ?シャルなんてその話聞いたら、もう止められない位に怒っちゃってさ。久しぶりだもの、あんなに怒った顔見るの」

 シャルロッテはクラスの中でも大人しい方であり、グループ外の生徒にも姉のように慕われている。自分の事でなく、友人を傷付けられる事に怒りを覚える性格の為、自然と友人が増えていく傾向にあった。

「ま、何事も無くて良かった。レイルにも早速、今月の試験が出てるみたいだぜ」

 ゲイルの示す方向には、レイルの机がある。その上に一通の封筒が置かれており、レイル・トルマン宛となっていた。誰が届けているのか、毎月の月初めには必ず、こういった形式でその月の試験内容が発表されるようだ。

「何々、ランクⅡのラングート山脈完全攻略?クロハ、レイル君と同じみたいだし、一緒に行ってきたらどう?」

 さり気無く覗き込んでいたユウが、内容を口にしていた。ゲイルとクロハやリュージュ、シャルロッテの四人は、このクラス内でも試験の進行が早く、他の生徒と比べても一つ上の試験を行っている。レイルに出された課題もまた、ショウらと比較すれば難易度は上であった。

「ええ、私からもお願いするわ。あそこのモンスター、魔法が効きにくかったから、前衛が一人欲しいな、と思っていたし。お願いできる?」

「そういう事なら、喜んで。でもさ、他にも前衛ってタイプはいるのに、誘ってなかったんだ?」

 レイルの疑問に対して飛んできたのは、テリーからの鉄拳だった。それも、割と本気の。ゲイルがそれに対し、苦笑しつつも答える。

「テリーもショウも、まだそこまで行けないからな。俺は行けるけど、まだ自分の試験終わってないし。リュージュは同じなはずだけど、確か指定討伐だったっけ」

「うん、私はリザードマンの指定数討伐だから。十層までにしかいないし、数も少ないから全然進んでないけどね。だから、私も同行は出来なくて。クロハの事、お願いね?」

 彼女の問いかけに、レイルは首を縦に振る。自習という事で、二人は試験場へ行く事にした。ショウとテリーもまた、まだ試験が終わっていないという事で、途中までは同じ道をたどっていく。

「へえ、こんな場所なのか。ま、一丁行きますか!」

「気を付けてね、何処から飛び出してくるか分からないから。配置されてるモンスターはエリア毎に決まってるけど、出てくる時は突然だし。注意して行こう?」

 転送された場所は、開けた草原だった。遠くには山が見え、登山の入り口のようにも感じられる。各試験場は、その名に則したフロア構成がされており、このラングート山脈の場合は山の手前から始まり、山の入り口付近・中腹・頂上といった構成がされている。その合計フロア数は、実に三十層を数える。レベルⅡに属する試験場の中でも、最も時間が掛かると言われる場所である。


 二人が試験場へ入り、早くも三十分が経過した。道中に何度と無くモンスターと遭遇したが、その大半はレイル一人で倒してきた。クロハのやった事と言えば、後方から数発の魔法を放ち、援護していた程度である。その甲斐あってか、この短時間で既に半分に近い十四層まで到達していた。

「んー、順調順調。前に一人で来た時はね、ここまで来るのに三時間近く掛かっちゃってたんだ。ここからは魔法無効化のモンスターも何種類かいるみたいで、諦めちゃったんだけどね……」

「魔法無効化って……。確かにあれは、純粋な魔法使いには天敵だよな。って、ちょっと待った。出来る限り音を立てずに、後ろの茂みに隠れろ」

 言うが早いか、クロハの手を取り、茂みの中へと滑り込む。その数分後、二人の目の前に広がる岩場には、三匹もの巨大なドラゴンが現れていた。大抵のドラゴンは山よりも洞窟に生息しているが、二人の前にいるのは数少ない山を根城にする竜種、ワイバーンであった。絶滅寸前に追い込まれている為に、今では殆ど見かけない種族だが、その狂暴性と残忍性により、それらが棲む山の近くには一度も町や村が作られた事は無い。

「なんで、ここにワイバーンが……?だってあれ、レベルⅣ以上の試験場にしかいないって、資料にも書いてあったのに。レイル君、どうしよう?」

「あいつらは鼻と目がそれほど効かない割に、速さだけはあるらしい。しかも、あれと競争して勝てるモンスターはいないって聞いてる。このまま静かに森を回り込んで、奴が飛び立った後で出よう」

 レイルの提案に、クロハは軽く頷いた。ゆっくりと、しかし確実に森の中をしゃがんだままで移動する。そこへ―――。


 二人の眼前に広がっていた森が、その鼻先で掻き消された。竜種の持つブレス、その一撃によって。当然、二人の姿は露わになり、ドラゴンが向かっていく。

「やるしかない、ってか。俺が牽制する、とにかく覚えてる魔法を片っ端から叩き込んでくれ。どうにかして突破口を見つけて、切り抜けるぞ!」

「う、うん。でも、召喚魔法は駄目なの?あれなら、多分ワイバーンよりは上でしょ?」

「詠唱を多少は省略しても、あれに対抗出来る奴だと、最低三十秒はかかる。それだけあれば、近づかれて終わりだからな、この状況じゃあ使えない。今は、手持ちのカードで勝負するしかないさ!」

 言うや否や、レイルはワイバーンへ向けて突撃していった。その姿に当てないよう、クロハの魔法が飛んでいく。初級魔法の《ファイア》や《ウインドアロー》、《アースミサイル》を初めとして、中級魔法の《レインストーム》や《フレイムウォール》。しかしそのどれもが、ワイバーンの皮膚で弾かれるように消え去ってしまう。竜族の特徴である、対魔法耐性のせいであろう事は、クロハにも想像出来た。

「駄目よ、もっと一か所を集中的に狙うようにしないと。と言っても、魔法に関しては専門外だから、細かくは教えてあげられないけれど。竜種との戦い方、大分早くなっちゃったけど教えてあげるわ」

 クロハの背後から、そんなセリフが聞こえてきた。振り返るまでもなくそれが誰か理解したのか、彼女は安心した表情を浮かべていた。


 誰が見ても分かる程、レイルは追い込まれていた。クロハの魔法は牽制にすらならず、攻撃さえ直撃はしないものの、彼の攻撃も悉く防がれている。体力の限界という物がある以上、このままではいつか倒れる事は予感していた。

「一度退きなさい、私が手伝うわ」

 その声が聞こえたと同時に、人影がレイルの前に立った。ミネルバ・フォレスタ、学園最高の教官の姿だ。女性の中でも長身である彼女に匹敵する長さを持つ、巨大な剣を携えて。

「ワイバーン、ね。この試験場で設定出来る最上級のボスだけれど、私の生徒に手出しをしたのはやりすぎよ。手取り足取りとはいかないけれど、戦い方の基本を教えてあげるわ。ついてらっしゃい?」

 直後、ミネルバの体がワイバーンの前へと躍り出た。距離として数百メートルはあったはずが、瞬きの間にほぼゼロへと変化する。文字通りの、電光石火。そこから少し遅れたが、レイルも追いつこうと走り出していった。

「いい、相手の武器を追いかけるんじゃないの。どんな武器であれ、それは相手の体の延長線上にあるのよ?一部の遠距離攻撃は別だけれど、それも相手の目線や挙動で予測出来るわ」

 剣であろうが槍であろうが、それを扱うのはその腕である。武器の動きを見ていては一歩遅れる反応も、フェイント等も含めた、全ての動作を見切る事が出来れば……。

「大丈夫、あなたになら出来るわ。直線的な物ばかりだったとはいえ、レイピアのラッシュを全て捌ききったんだもの。あなたの可能性、私に見せてくれない?」

 その言葉に、レイルは軽く頷いた。それを見たミネルバもまた、柔らかい笑みを浮かべ道を譲る。巨大な竜に立ち向かうのは、レイル一人だけだ。


 言葉が出なかった。ほんの二言三言の会話だったはずなのに、レイル君は苦戦していたはずのドラゴンを相手に、堂々と立ち向かっている。紙一重で避けていただろう攻撃も、今ではそこに来るのを知っているかのように、軽々と避け続けていく。遠くから眺めていると、まるで踊っているかのようで……。

 いくつかの攻撃を避け、背中の首筋へ向けて剣を振り下ろす。ただ、その繰り返し。ドラゴンの攻撃も、今ではもがき苦しむかのように、乱雑に腕や尾を振り回すだけのように見えた。

「自分の武器より大きい物を斬るには、その重さを利用するのよ。小さな傷を付けて、後は自重で落ちるように調整していく。ユウちゃんのお父さんでしょうね、それを教えたの」

 ドン、という大きな音が聞こえ、ワイバーンの首が落ちた。それと同時に、胴体が砂のような粒になって消え去っていく。どういった原理かは知らないけれど、ここのモンスターは全部が作り物で、本物は一匹たりとて存在しないというから、いつの間にか当たり前の光景として捉えるようになっていた。

「うん、まだ余分な動きは多いけれど、合格点をあげるわ。クロハちゃんも、魔法の連撃は上手いわね。近い内に魔法科の方から優秀な先生が来るから、あなたはそっちから教えてもらうといいかしら」

 レイル君の言葉に大した反応を見せず、先生はいつものように飄々と笑っていた。それでも一瞬、何かに対して嫌悪するように目を細めている。まるで、見たくもない何かを見たかのような……。

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