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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第一部
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第五章

 学園では事務員以外の全職員に、個別の部屋が割り当てられている。講義の準備や担当する生徒との面談等、受け持ちの教室では不可能な職務を行う為だ。整理が行き届いた空間の中心に、椅子とテーブルが配置されている。その周りには様々な書籍、書類等が収納された棚が置かれていた。

「それじゃ、予想混じりだけれど、私達が知っている事から話しましょうか。あなたの魔力からね、よく知っている人の匂いを感じるのよ。レクトリア・ブライトネス、エルフ最高の魔導師と呼ばれ、ダークエルフと呼ばれた人の、ね」

 ミネルバは正面に座るレイルに対し、つらつらと話し始めた。レクトリア・ブライトネス、エルフ史上最高の魔法使いと呼ばれ、次期族長候補とも噂された人物である。

 彼女は人間で言う十八から二十歳の間、この学園に通っていた。入学当初でさえ、十分過ぎる程の知識と実力を兼ね備えていた彼女だが、更なる知識を得る為に、高等部のみという条件で島を出る事を許可されていた。

「私とそこのユーリ、あと今はいないけれど、もう一人仲の良い友達がいたわ。この四人でグループを作って、試験以外はずっと一緒にいた。だから彼女の魔力の波長は、はっきり思い出せる」

「正直、今でも彼女と争えば、勝つ自信はありませんね。研究熱心で、四大属性で扱えない魔法は無いという程でしたから。高等部を卒業して島へと戻った時は、ミネルバが泣きそうな顔をしていましたね。しかしその半年後、あの事件が起きた」

 ユーリの言う事件とは、大魔歴六百十年十月、ほぼ十六年前の事だ。エルフのみが住む島、エウ・ラカイ。エルフの古い言葉で、聖なる大地という意味の島。そこで、一晩に村一つが消し飛ぶ大爆発が起こった。数十キロも離れたユークランドからも見えたこの爆発は、ある研究者の魔法が暴発した物だと発表、その研究者を島から追放したと、当時のエルフ族長が公表した。

「その研究者が、レクトリア。エルフにとっての禁忌、闇属性の攻撃魔法を研究していたと言われてね、直後に彼女は姿を消したそうよ。それ以降、彼女に何があったのかは謎のまま。私の想像が正しいのなら……」

「レクトリア・トルマン、それが母さんの名前です。逃げ込んだ村で父さんと知り合い、そのまま結婚。半年後に俺を生んで、九年前に殺されました。前の戦争の直前、ですね。父さんは魔族至上主義の軍を抜け、母さんは故郷の島から逃げる事になった。他にも色々な種族が住む集落で、二人は出会ったそうです。二人である魔法の研究をしているんだって、小さい頃に聞かされた覚えがあります」

 ノイエとレクトリアが研究していたのは、かつて暴走したと言われる件の魔法だった。何が間違っていたのか、そして暴走の原因は何だったのか。その明確な答えが欲しかった為に。そして、その途中で禁呪とされた魔法をも研究し、その理論を見直す必要が生まれ、成果を書き残していたのだ。レイルは幼い頃からその本を読んでいた為、各属性の初級と上級魔法を習得していたという。

「両親と他の村人全員が殺されて、俺は大陸中を旅していました。基本は野宿でしたけど、軍の討伐隊に参加するようになってからは、ユウの家に泊まらせてもらう事も、たびたびあったかな。十歳の時にちょっと事故があって、それも出来なくなりましたが。それからは故郷の近くに小屋を作って、そこで暮らしていました。父さんと母さんが書き残していった、この研究書を読む為に」

 そう言って、懐から数冊のレポートを取り出す。擦り切れる程まで読みこまれた、古い紙の束。

「なるほど。禁呪の術式、各種契約様式まで、丁寧に研究されていますね。と、これは……?」

 レポートを読み進めるユーリの手が、十数枚目で止まる。そこに描かれていた魔法陣が、見慣れない物だった為だ。

「《ヘル・ゲート》?聞いた事も無い魔法ね。ユーリ、知ってる?」

「いいえ、私も初めて聞きました。ただ、記憶の片隅にあるような、不思議な感覚はありますけどね」

 ミネルバとユーリ、二人がその前後の文を読みつつ、話し合っていた。二人が知らないのも、無理からぬ話である。その魔法は現在では失われており、使い手が一人もいない為だ。

 かつて魔王と呼ばれ忌み嫌われた存在、ファントム・クルーガー。扱えない魔法は存在せず、現在禁呪と呼ばれている物は、その殆どがファントムの好む物であり、何よりその効果範囲や攻撃力が高すぎる為、危険視されている魔法ばかりという程だ。

「今は紛失された魔剣、それを媒介とする魔法、ね……。なるほど、こんな魔法なら記述なんて残っているはずが無いわね~。なんせ、対峙して生き残ったのなんて、旧帝国の初代だけだもの」

「それより恐ろしいのは、この内容ですね。死者の魂が行くと言われる冥界の門、その向こう側へ直接、対象の肉体ごと送り込むとは。これによれば最大範囲は、ざっと見積もってもこの学園都市丸ごと。まさか、あの扉を開けられる存在がいたとは……」

 冥界の門とは、大陸の遥か南方に浮かぶ、小さな孤島の洞窟で発見された扉の通称である。様々な軍がその扉を開放・もしくは破壊しようと試みても、傷一つ付かなかったという。周囲には様々なアンデッドモンスターが住み着き、扉へ向かう者を襲う事から『死者の魂が眠る場所』という意味を込め、冥界の門と呼ばれる事となった。

「父さんはずっと、それを解析出来れば、原初の魔法へ辿り着くと言っていました。そして、あの研究に関しても一歩先へ進める、とも。俺が聞いていたのは、それで全部です」

「そう、大体分かったわ。あなたに関しての処分は、今回は見送ります。でも次は無いから、そのつもりでね?そうね、そろそろ戻っていいわよ」

 レイルは軽く頷き、部屋を後にした。足音が遠ざかるのを待って、ミネルバとユーリが話し始める。

「未完成の魔法、ね……。気付いていなかったのかしら、このページには。どう思う?」

 ミネルバが持っているのは、研究書に隠されていた一枚の紙。気付いてしまえばどうという事は無いが、ただ読むだけでは気付かないよう偽装された、隠し扉のようなページだった。それだけは切り離したように挟み込まれていた為、すり抜けるような形で手元に残っている。

「ええ、恐らくは。自然を自然へと戻す魔法、確かにこれが完成すれば、この大陸に住む種にとっては重要な物となったでしょうね。しかしこれを見る限りでは、何処にも矛盾点はありません。ましてや、破壊という結果が出る術式には、到底思えませんが……」

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