第二十四章
最初は、本当に自分の体なのか、と疑っていた。軽く力を入れるだけで、足元の地面が爆ぜる。放つ魔法は今までとは比べ物にならない程、破壊力が上がっていた。元々知っていたかのように、色々な魔法が頭に浮かび上がり、口から飛び出してくる。そして、何より。どれだけの魔法を放っても、魔力が尽きるどころか、体から溢れるように湧き上がる。
「『天の杯、満たすは大樹の雫。万物を制し、君臨せよ。その力を以って、抗う者に神罰を下せ。
甦れ、虚空の扉。闇の眷属よ、光を纏い、闇を喰らえ。理を外れた者に、魂の制裁を。悪を滅し、全てを照らせ。汝は、魔の創生者なり。現身よ、地を飲み干し、天を駆けろ。死を運び、生者を喰らえ。開け、《ヘブンズ・ゲート》』」
頭上の魔法陣が複数に分裂し、四方へ散っていく。詠唱文は変えていないが、一部の術式に手を加えていた。飛ぶ途中の地面さえ飲み込み、その場所を空白にしていく。ベースとした魔法すら存在しないはずの、完全に一から開発した魔法。そのはず、だった。
「我が父の魔法に、《ヘル・ゲート》と呼んでいた物がある。貴様の使う《ヘブンズ・ゲート》とやらは、それに良く似ていてな。本来は冥界の扉へ通じる法であったが、あれは通過した存在全てを、例外無く扉の向こう側へ送っていた。皮肉な物だな、全く異なる思考でありながら、至る結果がほぼ同様の物だというのは……」
語るミレの瞳には、悲しみとも取れる色が浮かんでいた。魔王と呼ばれた存在の血筋を持ち、それを薄れさせる目的で、ヒト族の男と交わった彼女。全ては、子孫がその血脈を残さないが為に。それぞれが思い描く幸せという結果の為、彼女はその道を選んでいた。
「俺は別に、誰も恨んではいませんよ?父さんと母さんが出会って、俺が生まれた。その父さんを産んだのはあなたですから、感謝したいくらいです。それに、この血も悪い事ばかりでもない。守りたい、助けたいと思った人を、手の届く範囲でなら守る事が出来るんですから」
「そう、か―――。ならば一つ、試練を与える。これより私と我が隊は全力で、帝国軍を討つ。貴様はその為に、部隊の前衛を一人で賄え。出来ない、とは言わせんぞ?」
それ以降、二人と十数人の一般兵で構成された軍は、各地を転戦していく事となる。時には策謀を巡らせ、時には単純な力で以って。突如として表面化した、絶対的な力。安定していたように見えた帝国軍の戦線は、崩壊の二文字を迎えつつあった。




