第一章
ここから第二部開始となります。
メインヒロインらしき女子が数名出ていましたが、果たして……?
ユークランド皇国首都、ルーカス。かつては寂れた商業都市だったが、旧魔煉軍の台頭、大陸統一を契機として、一挙に大陸有数の都市へと成り上がった町。学園都市を抜け出したレイル、シャルロッテ、ナギの三人はこの場所へ辿り着いていた。学園都市程ではない程にせよ、この街でも様々な人種が住み、共存している。皇国の幕僚にさえ、ヒトやドワーフ、エルフがいるというから、それも当然であろうか。
「取り敢えず、城には俺一人で行ってくる。シャルはナギと二人で、旅に必要な物をそろえてくれ。一先ずは食糧と、野営道具かな。大陸の地図は書庫から持ってきたから、これで十分だろ」
探し当てた、宿の一室。念の為の偽装で、借主はシャルロッテの名義だった。宿の主人が老人だった事から、トルマンの性を記憶している、という判断。
「あいよ。あたいは装備の修理も、だけどな。ナギ、一応薬草の類も買ってこれるか?」
「ええ、途中に良さそうなお店もあったので。ですが、一人で大丈夫ですか?」
ナギも知る、レイルの父親の事。その古巣とはいえ、場合によっては歓迎されざる客ではないか、という懸念。
「大丈夫だよ。こいつもあるから、いざとなれば強行突破する。それより、ここに長居出来ないから、急いで準備を済ませようぜ?」
軽く笑い、ナギにその目線を向ける。不安要素など、挙げてしまえばキリがない。そう言って彼は一人、城門へと向かっていった。
「すいませーん、ちょっとここの王様に用があるんですけどー」
「駄目だ。陛下は今、軍議の最中である。通りたければ、許可証を持参せよ」
予想していた、その回答。門番は視線一つ動かさず、ただ前を見つめている。というか、身動き一つしないな……。
「元幕僚長、ノイエ・トルマンの長男が重要な話がある、と言っても?」
「そのような名は知らん。子供の悪戯と言うのなら、とっとと―――」
「話だけでいいから、通せって言ってるんだよ。それとも、押し通っていいか?」
正直、押し問答をする時間さえ惜しい。威嚇を兼ねて、半分だけで魔力を解放しておく。その効果は抜群だったか、反対側に立っていた門番が青い顔をして、中へと駆け込んでいった。
「陛下、軍議中失礼致します!」
城の最奥部、謁見の間と呼ばれる部屋。その奥に座る女性こそ、皇国初代皇帝にして、皇国軍最高司令であるリーエ・ファントムその人だ。見た目で語るならば、美しい女性。公の場に姿を現す事は滅多に無く、その殆どは補佐役に任せていた。
「軍議中だぞ、静かにしろ!」
「しかし、火急の要件であります!ノイエ・トルマンを名乗る男が門に現れ、通せと―――」
「ノイエ、だと?まさか、奴は既に死んだはずだ!そのように素性が知れん者、さっさと―――」
部屋の外から聞こえる、複数の悲鳴。それは徐々に近づき、ついに扉のすぐ外へと迫っていた。
「話は正確に伝えろよ?俺はその長男、ってはっきり言ったんだから。ああ、もう一人が襲い掛かってきたんで、こっちは自衛しただけだ。決して本意じゃないって事だけは……言っても無駄かな、これは?」
周囲から押し寄せる、多様な敵意。奇襲をかける気配は無いが、いつ攻撃を受けてもおかしくない、一触即発の状況。
「正面の人が、皇帝陛下で間違いないかな。初めまして、姉さん。あなたの弟、ノイエ・トルマンの一人息子、レイル・トルマンです」
リーエは軽く俯き、その言葉を噛みしめるよう、ゆっくりと口を開いていく。自分と、古くからの側近しか知らない、一つの事実。そしてそれがあったからこそ、ノイエは軍を追われたのだから。
「確かに、その剣は私が弟に譲り渡した物。しかし、それが証拠になるかと問われれば、答えは否でしょう?他に、あなたが私の血縁であると、証明出来る物はお持ちですか?」
「何なら、この城全部、消し飛ばしましょうか?クーロンでの事件に関して、色々と頼みごとがあって来たので、手荒な真似はしたくなかったんですけどね」
魔力と同時に、剣の解放が行われる。既に彼の魔剣は、その封印を完全に解かれている。それが牙を剥いた時、結果はそこにいる誰もが知る、驚異的な物となるのは疑いようが無かった。
「やめておけ、リーン。その程度の力では、食われるだけだ」
「しかし、陛下―――」
「やめろ、と言っている。お前の実力では、消し飛ばされるのが関の山。それに、『アヴェンジャー』の一撃では、私やアッシュでさえ耐え切れまい。解放が出来る事、そしてこの魔力。―――良いでしょう、あなたを私の血族と認めます。して、頼みごととは?」