第十五章
群がるケモノが、足を止める。先に進んだ仲間は悉く吹き飛ばされ、消滅する。たった二人の障害。知能を持たないケモノは、それでも尚、その壁に向けて突撃を繰り返し、瞬く間に消滅させられていた。
「さすがに、これはキツイな……!ミーア、戻って魔力を温存しておけ。使いたくなかったけど、これを解放する」
構えるは、真紅の魔剣。真なる担い手と認められた彼が放つ、究極の一撃。『ドラゴン・バスター』の名が与えられた、ヒトの造った中では最高峰の剣。あらゆる竜種を薙ぎ払った剣が、ここに蘇る。
「さあ、その力を見せてみろ。砕け散れ!」
放たれるは、英雄の一撃。強固な皮膚を持つ竜さえ貫く一撃を、並大抵のケモノが防ぐ手立ては持ちえない。かくして、無限とも取れるソレらは、跡形も無く消え去っていた……。
「よし、風通しが良くなったな。ミーアはユーリ教官と合流、二人で学園内の残敵掃討を頼む。俺はひとまず、これの主催者に挨拶してくる」
言って彼は一人、別の道へと進んでいく。目指す場所は、学園長室。魔力の出所がそこだと、彼の直感は告げていた。
「報告。召喚士部隊、三番を残し全滅!レイル・トルマンが止められない、との前衛から伝令です!」
学園内のとある一室。黒幕とされる人物は、全員がそこに集まっていた。たった二人の参戦により、事態が大きく変貌していく。一人を除き、全員に焦りの色が見られた……。
「いいえ、好都合です。レイル・トルマン、ジェノス・ダークレイ。この二人を排除すれば他の雑魚はどうとでもなる。私が行きましょう」
立ち上がったのは、グリン・マッコネン。何らかの策を持ち合わせているのか、その顔は自信に満ち溢れた色が見てとれる……。
「『風よ、一陣の矢となり敵を討て』」
包囲網を抜けたリュージュらは、二手に分かれていた。レイルやシャルロッテ、ゲイルという天才―――あるいは人災―――の影に隠れているが、彼女らも基礎能力は高い。この中では落ちこぼれと評されるショウであっても、他の学部ではトップクラスに入る能力を持っていた。
「クロハ、さっきから魔法ばかり使ってるけど、魔力は大丈夫?少しだけど私も回復してきたから、十分戦えるよ」
負傷したリュージュを庇うように、クロハは先頭に立ち、駆け抜けていた。彼女らが目指すのは、学園の敷地外。ふと見た窓の外で、レイルらしき姿を目撃した為だった。
「私には、支援魔法は使えないから。リュージュは今、力を残しておいて」
そう、クロハには支援魔法のスキルを、一切持ち合わせていない。ユウはそれに特化した魔法使いだが、攻撃型の魔法使い、あるいは魔導師でも一種、または二種程度の支援を可能としている。しかし彼女は、支援を一切捨て去る代わりに、違った種類の武器を手に入れる。それが魔法・物理障壁であり、今は更に一つ、切り札を携えている。
「そこね、《ウインドアロー》!」
百を超える風の矢が、一体のモンスターへと襲い掛かり、その体を切り裂いていく。普通であれば、たった一本の矢。しかし、数を重ねていけば、大魔法にも匹敵する破壊力を誇る。これがクロハに許された、二つ目の切り札。大陸広しとはいえ、他に類を見ない唯一のオリジナル。
「実戦で使うのは初めてだけど、成功してよかった……。ごめんね、私もここまでみた―――」
糸が切れた人形のように、クロハの体が崩れ落ちていく。魔力の消費による虚脱、気を失う程度ならまだ良いが、重症ともなれば死に至る程のもの。
「無茶しすぎだ、お前らは。リュージュ、このすぐ先でユーリ教官が待ってるから、そこまで行くぞ。にしても、一歩早かったら巻き添え喰らってたな。何も言わずにいなくなって、悪かった。心配、させたか?」
聞き覚えのある、懐かしい声。待ち焦がれた、一人の英雄の姿に、リュージュは涙で答え、万感の思いを込め、その名を呼ぶ。
「レイル君!」
タイトル本決まり後、初更新になるかな?
仕事が忙しくなり、更新が遅れに遅れております。
絵師いればいいなー、と思う今日この頃