第十三章
「テリー君、急いで先生を探してきて!ショウ君とユウ、ナギは手分けして初等部の誘導!ゲイル君、シャルと二人で二階に回ってもらえる?槍術科の攻撃が激しくて、手が追い付かないって!」
レイルとミーアが話し込んでいた時、学園では事態が大きく動いていた。学園長に対し反抗心を持つ教官・試験官が一斉に蜂起し、抱え込んだ生徒をも利用、クーデターを開始したのだった。原因は、ミネルバとジェノスが持ち込んだ魔剣。反体制派を殲滅する為の物、と思い込んだ彼らは、保身を目的に行動を開始していた。それも、一般生徒さえも巻き込んで……。
「駄目、地下への通路は全部抑えられてる!ショウ君、リュージュと一緒にここを任せられる?」
進学科の生徒は、ただ抗っていた。目の前で殺害された生徒は、既に三十人を超える。レミーはその光景に怯え、涙を流していた。無理もない、犠牲となった生徒の中には、彼女の友人も含まれているのだから……。
「ユウ。残ってる魔力全部使って、俺とテリーに片っ端から支援魔法、治癒頼む。あの群れ、一気に片づけて下に降りるぞ」
ゲイルが立ち上がり、テリーは呆れながらもそれに続く。考えを読み取ったのか、リュージュとナギが、そこに立ちはだかった。
「駄目、そんなの絶対認めない。諦めなければ、他に良い方法が見つかるよ」
「そう言ってもな。先生は行方不明で、かれこれ二時間以上姿を見せない。籠城作戦っていうのは、援軍がいるからこそ、だぞ?レミーがなんとか張った結界だって、せいぜいあと十分位だ。あれだけのモンスター、教室に踏み込まれたらそれこそ全滅確定だ」
ゲイルの反論には、一貫とした筋がある。対してリュージュは、ただ感情に任せた発言。数の利を生かせない廊下にいる今こそ、強行突破出来る可能性が隠れている。外に控えるは数百体ものモンスター。対して広い教室には、十数人の疲労しきった生徒達。中へ進入されれば、結果は目に見えて明らかだ。
「ちっ、俺としたことが……。この結界、俺の能力が弾かれるのはどういう事だ?」
ジェノス、ミネルバ、ユーリの三人は学園の地下にいた。魔剣やその他、危険と判断された物品を保管する、秘密の部屋。ジェノスがレイルから回収した魔剣を、ここに三人がかりで封印していた所だった。
「同じく特技で作られた物だから、でしょうね。あなたの場合、同種の力に対しては無効という制限をかけているので、知識にない結界さえ破壊出来るんですよ?」
「今の私じゃ、全力で剣を叩き付けても、傷すら付けられない。暫く荷物になるけど、久しぶりに解放するわ」
少し離れた所で、ミネルバはそう叫んでいた。レイルと同じく、『規格外』と称される実力が、ここに解放される。かつて大陸にいた、天使と呼ばれる存在。その血を引く存在が、今目覚めようとしていた。
ミネルバの背中から、灰色の翼が生えている。本来は純白のはずのそれは、ヒトと交わった事で色を変えていた。抑えられている魔力が解放され、その周囲に風を生んでいる。かの魔王と同等、もしくはそれ以上のチカラを持つと言われていた種が、ここに君臨する。それは救済をもたらす光か、はたまた儚い反撃の狼煙か―――。
「あの方角、学園都市だよな……?船長、もうちょっとスピード出せない?」
「無茶言うなよ、兄ちゃん!これ以上の速度、軍艦でもなきゃあ無理だ!」
運良く、レイルは港で最速の船を見つけていた。相場の倍近い金額を支払い、港ではなく、学園から一番近い海辺へ向かわせる。皇国に見つかれば間違いなくお咎めをもらう、不法行為。既に陸地まで十数分だったが、レイルはそれすらもどかしく感じていた。会わせる顔は持ち合わせないが、遠くからでもユウが元気である事を祈って……。
「んー、あれ叔父さんにゃ?レイルっち、もうすぐ着くにゃー!」
船の先頭部分で見ていたミーアが、船室のレイルに声をかける。彼も急いでそこへ向かうが、陸地があるだけで、誰の姿も見当たらなかった。つまり、ミーアの視力が異常なのだ。
「叔父さんって―――。あれ、学園の教員だぞ?しかも、ユーリ・クレスタ教官」
「うん、お父さんの弟にゃ。って、言ってなかったにゃ?」
聞いてない、とレイルは首を横に振った。ユーリの背後では、学園都市が煙に包まれている光景が見える。何があったのか、立ちすくむユーリの表情で、レイルは感づいていた。
さぼった分、一気に更新です。
場面ごとに分けてみましたが、いかがでしょうか?
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