第十一章
「これで最後、だったよな……?」
三十七件目の回収現場。記憶にある通りなら、これが最後。が、これがかなり手強い……!
「ちょっと待て。何だ、この難易度!鬼畜とか、そういう問題じゃないぞ?」
場所は、大陸最西端にある半島。そこにある深い森に、協会のような造りをした神殿がある。場所から考えると、多分この中にあると踏んで、侵入したまでは良かった……。
「侵入者探知で、アラームトラップにドラゴン大行進とか……。アホか、この設計者!」
愚痴りつつも、迫りくるドラゴンを退けていく。学園の試験場と違い、ここで死んだら終わり。以前、飽きるほどに味わった感覚が、徐々に体を蝕んでいく高揚感。囲まれたら魔法の余波で吹き飛ばし、剣を振っていく。
「ええい、いい加減しつこい!吹き荒れろ、雷鳴。駆け抜けるは嵐。深き森の主よ、呼び声に応え、力を示せ。加護を捨てた者にその光の慈悲を。清廉たるは星々の輝き、渇きを癒し、敵を討て―――」
詠唱途中にもかかわらず、ドラゴンの群れが一部吹き飛び、穴が開く。そこから飛び出してきたのは、一匹の猫―――もとい、猫族の男っぽい何か。いやさ、猫族っていえば二足歩行する猫しか見た事が無い。目の前にいるのは猫っぽい耳を生やした、パッと見は人間と思える相手だった。
「うにゃ、ここに目をつけるとは。お兄さん、なかなか通ですにゃ~。でも残念、ここのお宝は貰っていくよー!」
……どうやら、ただのトレジャーハンターらしい。が、どうにも気になり、後ろから頭の耳を引っ張ってみた。
「ちょっと待て、宝ってどういう事だ?ここは単なる神殿で、宝の情報なんて全く聞いてないぞ?」
「ちょ、話すから引っ張るのやめ―――、く、くすぐった!」
笑い転げる彼―――でいいのか?―――から手を放して、強制的に座らせる。猫族の弱点は耳だったか、覚えておこう。
詳しく話を聞いてみると、どうやらここからほど近い町では、ここが古い遺跡で、中には大量の宝が隠されている、と噂されているらしい。まあ、これだけ大量のトラップ群があれば、財宝でもあるのでは、と勘違いもするだろうな……。
「お宝も無いのに、何で苦労して入るにゃ?ミーも付いていくにゃー!」
猫っぽいのは、ミーアと名乗っていた。ああ、それでミーか……。さっきドラゴンを吹き飛ばした実力といい、足手まといになる可能性はかなり低いけど……。流石に巻き込むのはかわいそう、だよな?
「そうだなー。俺が探している物、それが何なのか見たら帰る、って約束出来るか?それで良ければ、付いてきていい」
多分、見ただけであれが何なのか、理解出来るわけがない。俺だって知らなければ、ただの古い武器だと見逃してしまうだろう。魔剣とはいえ、見た目は変わらないのだから。
「嘘、同い年?」
道中、二人はお互いの自己紹介をしていた。レイルは細かい事まで話していないが、ミーアは色々な話を聞かせていた。例えば、生まれ故郷の事。
彼女は生まれた頃は、普通のヒトだった。五歳の頃、モンスターの捕獲訓練中に事故が起き、たまたま近くにいた野良猫と融合、一部の特徴が表面に現れてしまったという。なんとも不幸というか、なんと言うか……。因みに彼女の両親は『可愛い』と顔を綻ばせ、戻す為の努力は放棄したという……。
「今は気に入ってるにゃ。友達からは露骨すぎる、とか狙いすぎって言われるけど!でもでも、こーんな事、普通じゃ出来ないにゃー!」
言いつつ、壁から壁へ、少女は飛び移っていく。それも、一秒以上『壁に垂直に』立った後で。そんなの猫でも出来ねえ、とレイルは小さく呟いていた。
「ミーの故郷は、すごい田舎にゃ。テイマーしか住んでないけど、綺麗な場所だから、大好きな場所にゃー」
「ああ、分かったから騒ぐな。足元、トラップがあるぞー」




