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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第一部
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第十章

 翌日、レイルが登校する事はなかった。それどころか、それから数か月もの間、彼の姿は学園都市において、発見される事がない。休学届はミネルバを通じて学園事務に提出され、それは受理される。無期休学、通常であれば退学と同義とされるそれはしかし、自己申告のみで復学出来るよう、処理がなされていた……。


「確か、地図通りならこの近辺だったな……」

 休学する直前、図書館で盗み読んだ地図。閲覧禁止の書棚で暗記したのは、帝国軍によって封印された、数多の魔剣の封印場所。資料が正しいなら、帝国が回収した魔剣は五十を超える。その内の十数本はクーロン魔法学園が所有、管理しているせいで入手する事は出来ない。その資料を教えてくれたのは、ミネルバ教官だった。


「俺が調べた限りだが、奴の出生は常識外れにも限度があるレベルだ。それに沿って説明するから、よく聞け」

 レイルが大陸を渡り歩いている時、学園都市ではミネルバと一人の男が密談をしていた。調査内容は、レイルに関しての全て。両親は判明したが、父親に関しては不明瞭であった。

 そもそも、トルマンという姓名は魔族ではなく人間、所謂ヒト族の姓である。それが何故生粋の魔族であると思われるノイエが名乗っていたのか。調べたのはかつて彼と敵対し、互いに好敵手と認め合っていた、ジェノス・ダークレイ。旧帝国軍最年少の将軍であり、精鋭部隊と謳われたインペリアルガード筆頭。独自の情報網を持つ彼に、ミネルバがその調査を依頼したのだった。

「つまりだ。奴の祖母は魔王の忘れ形見、ミレ・クルーガーだという事になる。奴はどうやら、その血脈を滅ぼそうとして、人間との間に二人の子供を作った。一人は男で、もう一人は女だったらしいな。その一人がノイエで、もう一人は―――」

 彼の口から出た名は、信じがたい物であった。リーエ・ファントム、現在大陸を統べるユークランド皇国の初代皇帝。魔王の血族という噂は流れていたが、それを信じる者はおらず、単なる流説と小馬鹿にされていた。

「よりにもよって、魔剣の所在地を知られるとはな……。あの三流魔導師の封印程度は、恐らく食い破られる。お前らの話が事実なら、『アヴェンジャー』だけは渡したくない相手だな」

 世界最古の魔剣、『アヴェンジャー』。それを造ったのがかの魔王であり、一人娘であるミレが愛用していた剣。内包する魔力量は魔族千人分にも匹敵し、謀略に謀略を重ねた帝国軍が、夥しい犠牲の上に手に入れた、魔剣の最高峰。今のレイルにとっては、最も相応しいと呼べる武器だった。

「実は、彼がいた村を襲撃した部隊って、グリンとリエンが率いていた部隊だったのよ。学園長って、元々は帝国の幕僚だったでしょう?その関係で分かった事なのだけれど」


 魔剣が重宝され、同時に忌み嫌われる理由は、簡単に言えば二つだという。一つは、含有する魔力。所有者の魔力を増幅する事が出来るソレは、戦場では大いに役立つ。自分の魔力容量を超えて魔法行使が出来れば、それだけで優位に立てる為だ。

 もう一つ―――そのせいで忌避されるのだが―――、魔剣自体が『担い手』として認めた相手のみが使用出来る、『オリジナルスペル』。並大抵の兵では『担い手』としては不十分で、全ての魔剣に、それが当て嵌められた事は無いらしい。今回レイルが魔剣捜索を行っているのは、復讐、ましてや自分の村を焼き払った相手を殺害する目的などでは、断じてない。

「この二人ね、学園が封印している魔剣、それの担い手になっているのよ。十数本の内の三本程度だけれど、どれも危険な代物でね。そのせいで、二人の呼び声があれば、剣は力を貸す。多分、生半可な封印程度は文字通り『食い破って』、だけれど」

 故に、その二人と一部、現学園長に反意を持つ者達は、徐々にその勢力を拡大していった。かつて一つの国を滅ぼした、一振りの剣。その真なる『担い手』として認められた、一人の男。それを擁する彼らが力を持ちつつあるのは、ミネルバにとっては脅威に他ならなかった。

「彼らが何か起こすとすれば、間違いなく多くの犠牲が出ます。それがどのような形であれ、ね。秘密裡に、魔剣を回収出来る人材は、あなたしか知らないのです。危険度は並大抵ではありませんが、お願いできますか?」

 実は当初、ミネルバがその任に就こうとしていた。依頼元は学園長と、一部理事達。学園長の人柄を信頼し、運営をその手腕に預けた人物達であった。それ故、一部の理事や教員達が反感を持ち、裏では数多の駆け引きが行われているのだが……。


 当初、俺は気乗りがしなかった。それでも、俺がいる限り、クラスの皆に迷惑がかかる。試験場、訓練場とたった二か月でも既に六度。毎回俺が狙われ、一緒にいただけのクロハやナギ、ゲイルが巻き込まれているのだから。

「それにしても、こんなのも魔剣、って呼んでいいのか?」

 封印そのものを解くのは、意外と楽だった。複雑怪奇な構成をしていると思いきや、大抵が三重程度の防壁と、敷地内のトラップのみ。ここで六本目の回収現場だったけれど、取り出してみれば巨大な斧。魔器とか、そういう名前で呼んでほしいのは俺だけか?

「何だ、この化け物。俺の魔力を、吸い取ろうとしてる……?」

 手にしてみると、瞬間的に力が抜けていく。所有者の力を糧として成長する武器、って事か?それなら、と限界量まで魔力を吸収させてやる。

「ほう、その狂犬を手懐けるか。驚いたな、そんな真似が出来るのは、俺だけかと思っていたが」

 声のした方を向くと、一人の男が立っていた。見た目は多分、俺とあまり変わらない位。浅黒い肌はあるが、放たれる魔力はそう多くない。デミ・ヒューマン、ユウと同じ半魔族か?

「肌は生まれつきでな、れっきとした人間だよ。お前が回収した魔剣、それを全部寄越せ。ミネルバからの頼みでな、面倒だがお前を探し回っていたのさ」

 レイルは一瞬、渡す事を躊躇った。が、避けて通ろうにも奇襲で倒そうにも、目の前の男には一片の隙も見当たらない。剣を持っているでもなく、ただその存在が、攻撃自体を拒んでいるように見える。

「懸命だ。全く、親子揃って同じ性格をしている。一つ、ミネルバから言伝だ。『周りに気遣うのも良いけど、少しは自分の事も考えなさい』とな」

 それは、人生の先輩としての忠告。『規格外』であり『反則』でもあるもう一人からの、生きていく為の助言。自分と同じように、正体が知れれば忌避されるからこそ出てくる、教訓じみた言葉だった。


「何だよ、あの怪物……。クロハ、無事か?」

 ゲイルとリュージュ、クロハの三人は試験場にいた。割り当てられた課題が三人共に同じ内容だった為、協力して終わらせよう、という話になったのだった。そこで遭遇した二匹のモンスターに、三人はあわやという状況に追い込まれていた―――。

「うん、何とか。衝撃波は障壁で防げたし、直撃は無いもの。私達、難易度の選択間違えてない、よね……?」

 三人がいるのは、ランクⅢのグルネイユ山脈。その中層まで辿り着いた彼らは、その時点で既に消耗しきっていた。

「ポーション、もう残り少ないよ。もう、何でいきなり試験方式が変わったのよ……」

 手持ちのアイテムを整理していたリュージュが、一人溢した溜め息。今回の試験から、途中退場は認められなくなり、万一全滅すれば同時に試験は失敗、当月の再試験は認められない事となっていた。今までは生命に支障を来たす怪我を負えば、同時に外へ出される事となっていたが、今回からはそれすらも廃止され、試験場は常に死と隣り合わせの戦場と化していた……。

「今までが、かなり温い状況だったからな。それにしても、この難易度変更はきつすぎるだろ……?」

 ゲイル達が遭遇したのは、インファント・エイプというモンスターだった。同種であるグランエイプの子供ではあるが、その大きさは人間の二倍近い。成長したそれより知能こそ低いものの、身体能力はほぼ変わらないと言われており、真向から対峙すれば、大の大人でも瞬く間に吹き飛ばされてしまう。本来であればランクⅣから出現するモンスターであり、大陸においては絶滅寸前と言われている種であった。

「ランクⅠでさえ、Ⅱと変わらない構成になってたよな……?こんな時、レイルがいたら―――」

 ゲイルは、そこで口を噤んだ。レイルが姿を消してから既に数週間、それ以降ユウの表情からは笑顔が消えた。少なからず好意を抱いているというのは、誰から見ても明らかであった為だ。

「悪い、口が滑った。リュージュはクロハと一緒に、暫く休んでいてくれ。周辺を見て、何か薬草でも生えてないか調べてくる」

 沈んだ空気を戻そうと、ゲイルは努めて明るく振る舞った。そう、彼女らもまた、レイルが姿を消してから、何処となく活気がなかったのだった。まるでクラス全体が葬儀場となったかのように、重苦しい空気が支配していた……。

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