第一章
仕事そっちのけ、気分転換に細々と書いてきた作品です。
あらすじを思い切り逸れ、指と思考の赴くままに書いています。
定期的に更新する予定なので、もし良ければ読んでやってください。
人間や魔族、ネコ族にイヌ族と多種多様な種族が混在するユークランド。かつては幾度も戦火の渦にあったこの大陸も、現在は一つの国とその属国のみで構成されている。第二次ユークランド統一戦争、それがこの大陸最後の戦乱と言われている。
帝都ファンブルグ。かつて存在した国家、ネールブルグ帝国の首都である。かつて栄華を誇ったこの都市は、当時の半分程度の大きさとなっていた。経済や人口、その全てにおいて、である。それでもそこに隣接する都市の影響によって、寂れるという程までにならないというのは、不幸中の幸いであろう。
「あれが学園都市か。これじゃ、こっちが衛星都市みたいだな」
都市の外れにある展望台に、一人の少年が立っていた。濃い褐色の肌、先端が尖った細い耳、何よりもその灰色の瞳が特徴的である。誰が見ても、魔族であると判断するような顔立ちは、十五歳には見えない程に痩せ、その生い立ちを何よりも雄弁に物語っている。
「まさか、本当に合格するなんて思ってなかったけど……。まあ、受かったんだからつべこべ言う必要は無いか」
彼の手には、一通の書簡が握られていた。『あなたは当学園の編入試験において、優秀な成績を修められました。よって、ここに入学を許可します。 クーロン魔法学園学長ミラン・ローゼンハイム』、そう書かれている。
クーロン魔法学園は、ネールブルグ帝国が創設した学園である。その歴史は百年にもおよび、大小様々な学校が存在する中、大陸最高峰の学園と言われている。彼、レイル・トルマンはその学園の編入試験を受験、見事合格したのであった。
「って、こんな事してたら時間に遅れるな。さっさと行くか……」
足元に置いていた背嚢を担ぎ上げ、彼はその展望台を後にした。その背後では学園都市の旗が風にたなびき、新たな人材の入学を歓迎すると同時に、その先にある様々な苦悩を暗示しているかのように見えた。
クーロン魔法学園は、幾つかの建物によって構成されている。まず七歳から十五歳までの子供が通う事となる初等部と中等部、十五歳から十八歳までの高等部、そして十八歳以上の学生が通学する事になる大学の計三つ。これらはコの字を描くように配置され、学園の門をくぐれば最初に目に入る物である。
その奥へ進めば、研究施設が見えてくる。ここでは魔法やモンスターの生態、果ては戦術の研究が行われており、その人員は全て学園の卒業生で構成されている。ユークランドに出回っているモンスターの生態情報は、その殆どがこの学園で蒐集された物であり、正確さは誰もが舌を巻く程である。
レイルは高等部の校舎の中、一階にある管理棟と呼ばれる所にいた。ここでは学生に関するあらゆる業務が執り行われており、入学する者は誰でも一度は足を運ぶ場所となっている。
「編入生のレイル・トルマンです。一度ここへ来るように、と手紙に書いてあったのですが……」
備え付けられていた窓から声をかけると、一人の女性が出てきた。黒いスーツに身を包んではいるものの、外見だけでもかなりの鍛錬をしているのが見て取れた。ただ書類を読むだけの動作だったが、全く隙がなく、よく訓練された兵士のようにも見える。
「レイル・トルマン、ですね。学生証が発行されていますので、持って行ってください。手荷物に関しては、寮の自室へ。ただいま、案内の者が参ります」
いくつかの事務的なやり取りの後、小さなカードが手渡された。名前と顔写真、在籍する学部が記載された、レイルの学生証である。
「各種試験、訓練では必ず学生証をお持ちください。詳しい説明は後程担当の試験官からありますが、必要となる物です。質問はございますか?」
レイルが首を横に振ると、その事務員は席を立った。案内を誰かに任せ、自分の仕事に戻るつもりらしい。
「校内を軽く案内します、ついてきてください」
廊下から声をかけられ、レイルはその方向へと歩いて行った。
「それにしても、面白い子が入ってきたものね。レイル・トルマン、か。戦闘試験、魔法技術共に歴代トップ合格。私が作った課題もあっさり突破されたなんて、ちょっと信じられないわね」
「ミネルバ先生、またお遊びですか?契約上は事務員ですけど、担当のクラスだってあるんですから、そっちに専念してもらわないと……」
先刻レイルの編入手続きをしていた女性と、その後ろで仕事をしていた事務員とが雑談をしていた。ミネルバ・フォレスタ、このクーロン魔法学園において、最高の試験官にして最強の剣士と言われている女性である。雇用された時は事務員としての契約だったが、現在では担当の学部さえ持つ、一人の教員兼試験官となっている。しかし、それは必然としか言いようがない。何故なら彼女もまた、この学園の卒業生である為だ。
「仕方ないでしょ、タール。新学期も始まったばかりで、まだ授業は殆ど無いんだし。私だって、暇になればこっちに来たくなるわよ。それに、この生徒は私の教え子になるのよ?」
一枚の書類を持ち上げ、タールと呼んだ事務員に渡す。レイル・トルマン、特別進学科編入。父親ノイエ・トルマン、母親不明。ただ、それだけが書かれていた。
「それにしても変ですよね、その編入生。学園の調査部隊を使っても、母親の名前が分からないなんて。それに出身地として書かれている村も、逸れ集落の一つらしいですし」
クーロン魔法学園には、諜報部と呼ばれる部署がある。大陸各地の情報をかき集め、それらを随時整理・保管する部署である。その情報収集能力はどの国にも引けを取らず、学園の持つモンスター等の情報は全て、彼らによる物という程である。
逸れ集落とは、地図には記されていない、非公式の町や村の事だ。何らかの理由で住居を追われた人々によって作られ、場合によっては多数の住民が移住する事もあるという。そういった場所を作らないように努力はされているが、数が多すぎる為に対処が間に合っていない、というのが現状である。
「ミール村なんて、大戦前後の地図には無かったから。学園の書庫を漁っても見つからない名前なら、逸れと判断されても不思議ではないでしょ。そこも含めて面白い、私はそう言ってるのよ」
何かを知っているかのように、ミネルバは言った。だからこの生徒だけは、私のクラスに編入させた、と。
正式タイトル、いまだに出ません……。
読者の方からも募集してみます。