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第11話 年越パイルドライバー ストリートファイター2

 豪快スモウパワー対赤きサイクロン。


 永きに渡るゲーム史上でもこれほど汗臭く、むさ苦しく、華のないバトルはあったろうか。


 今日のおやすみ前のゲームはストリートファイター2。珍しく桜子のリクエストで。


「なんでザンギエフなんだ? いつもケン使ってるのに」


『別に。ただなんとなく』


 桜子は月面の自宅で、僕は中継軌道港から月へ帰る航路で。高光速通信でのオンライン対戦なんだが、多少の遅延は気にしないとしても、全然慣れてないふうのザンギエフの動きに僕のエドモンド本田さんもどうにもぎこちなくなってしまう。


『ロシア人のキャラクターが他に思い付かなかっただけ』


「なんだそれ」


『ちょっと、時間ないから動いちゃダメ』


 ボイスチャットで変なことを言い出す桜子。ラウンドの残り時間はまだあるし、そもそも対戦格闘ゲームで動くなって無茶な要求があるかい。


「やだよ。たとえ練習だとしても負けるのはやだ」


『ダーメ。ザンギエフじゃなきゃダメなんだから。あとほんと時間無いの! きちんと動くな』


 何を焦る必要があるのか。でも桜子の声からしてわりと本気にイラついてるようだ。さっきからザンギエフは微妙なタイミングでしゃがんだり、不意に飛び上がったりしてる。おそらくだが、スクリューしたいんだけどレバー一回転が上手く出来ないんだろう。


「あー、いいよ。5秒動かないでやるよ」


『もう、時間ギリギリだよ』


 桜子は何がしたいのか。特別にコントローラから手を離してやる。


 そして画面の中のロシア人は数回不必要なジャンプを繰り返した後に、ようやくスクリューパイルドライバーに成功した。ザンギエフがちょっと離れた位置にいるエドモンド本田を吸い込み、高速回転しながら空高く舞い上がった。


『よしっ! 年越しジャンプ成功! あけましておめでとう!』


「何をしたいのかと思ったら、年越しジャンプかよ。地球の小学生か」


 腕時計で時間をチェック。もう年を越してしまってるか? いや、まだだな。まだ本年中だ。


『うるさい。コータくんが余計な動きをするから年越しのタイミングに飛べなかったじゃないか』


「そもそも月面にいる時点で地球上にいないじゃないか」


『じゃあ年越しの瞬間に私達は地球上にも月面にもいませんでしたー』


 ザンギエフが桜子の代わりに暴れる。とりあえず黙らせるために百烈張り手をお見舞いしとくか。


「僕は地球軌道上にすらいなかったぞ」


『いちいちうるさい』


「それにまだ年越ししてないぞ」


『ウソ。月標準時ではもう12時過ぎたよ』


「僕の時計ではまだ今年は残り1分ある」


『そりゃあコータくんはいま準光速くらいの高速移動中でしょ。月で静止してる私より時間がゆっくり流れてるはずだ』


「そこまで高々速度に達してないよ」


『ええい、もういいから、あけましておめでとうは?』


「はい、あけましておめでとう」


『今年もよろしくは?』


「はい、今年もよろしく」


 そして不器用にジャンプしまくるザンギエフを鯖折りで沈めるエドモンド本田さんであった。

 


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