ドクダミが咲く頃には
窓を開けても、換気扇をつけても
追いつかないほど熱が増す。
ぎりぎりのところで持ちこたえた空が
太陽を阻む。
昨日買ったばかりのサンダルは
やはり今日も出番がないまま、商札をつけている。
わたしは、そんなサンダルを横目に
3年来の付き合いになるスニーカーを履くと外へ出た。
生ぬるい風に
じんわり汗が滲んでくる。
授業は午後1時から。
学校の手前の踏切の甲高い声が、聞こえる。
アウト。
始業には間に合わない。
まぁ、それでもいいかと歩き出す。
踏み切りの向こうには、午前の授業を済ませた
自転車が立ち並び
この温い天気にいらいらをつのらせる。
もうすぐ梅雨がくる。
その一歩手前の
心を掻き毟るような一週間。
わたしだって嫌いだ。
すーっと踏切が開けると
わっと自転車の波が押し寄せる。
肩にぶつかりそうになりながら
スピードを上げて漕いでいく。
それを上手くよけていると
携帯が鳴った。
着信は、お姉ちゃんだ。
「もしもし?」
「珠子?今大丈夫?」
「うん。」
学校の門へ続く坂道を登りながら、
汗で滑りそうになったクリアケースを持ち直す。
「あのね、」
「うん。」
「今度、会って欲しい人がいるんだけど。」
「ふーん。彼氏?」
「うーん・・・とね。」
後ろを歩いていた女の子の集団が
急に駆け足になって、追い越していく。
「旦那さんになるの。」
「え?」
始業のベルが聞こえる。
「赤ちゃん、できたの。お姉ちゃん。」
きゅっと立ち止まってしまった背中に
チリンチリンと自転車のベルを鳴らされる。
男の子が迷惑そうに、
追い越していく。
「赤ちゃん?」
「そう。」
「だって、この間・・・」
「働き始めたばっかりなんだけどね。」
耳と頬にべったりとひっつく汗の向こう
お姉ちゃんが笑う。
「それでいいの?」
「いいのって?」
「だって、今の仕事に就くの夢だったんじゃないの?」
「何にも諦めたりしないわよ。」
「へ?」
「諦めたりしない。絶対。」
家屋が並ぶ小さな小道にさーっと大きな風が吹く。
熱くなった首を冷やしていく。
じゃ、また
そう言うとお姉ちゃんは電話を切った。
小道には、もうわたししかいなかった。
やばい。
そう思って走り出そうとして
立ち止まる。
何も入っていないお腹を、さすってみる。
ふっと落とした視線の先には
いくつものドクダミの花が咲いていた。