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005話 花

2階、一般病棟

215号室。


二人っきりになると

花鼓が

口火を切った。


「ごめんなさい、

お母さんったら

変なこと。」


明広は

何も言わない。


「明広のせいだ

なんて、思うはず

ないじゃない、ね。」


花鼓は

点滴のついている

左腕に目を落とした。


点滴台の上で

一点の濁りもない

透明な液が

ぽたっ、ぽたっと

時を刻んでいた。


「これ、お見舞い。」


俯く花鼓の膝の上に、

明広は

持って来た花束を

置いた。


みずみずしい

赤と緑のコントラストが

目に飛び込んで来た。


初夏の熱を帯びた

夕日の中、

凛とした

生気にあふれる

深紅のバラの花束。


一瞬遅れて、

甘く澄んだ香りが

花鼓を包んだ。


「ベタだとは

思ったけど。」


少し膝を曲げると、

花を包む

薄い黄色の和紙と

透明なセロハンが、

かさかさと

音を立てた。


「俺が病気したとき

友達が

買って来たことが

あってさ。」


花の根元に

かけられた

橙色の細いリボンの

色が、優しい。


「最初はうぜーって

思ったけど、

試しに飾ってみたら

なんか見る度、

元気になるんだ。」


膝の上の花束は、

土から

遠く離れて尚、

今を生きる命に

あふれていた。


軽くて

重い、

その重さを

脚に感じる。


「花が

応援してくれる

みたいでさ。」


花の深い赤が、

にじんで見えた。


明広は

花鼓の頭を

そっと抱いた。


シャツを通して

伝わる温もりが、

最後の堰を

切って落とした。


花鼓は

明広の胸の中で、

病院へ来て

初めて泣いた。


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