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003話 明広

3日後

花鼓は病室を移った。


2階の一般病棟

215号室、一人部屋。


病室を移って

一番最初に面会に来たのは

明広だった。


マスクも心電図もとれて

晴れ晴れとしていた

花鼓の顔に

影が射す。


「ごめんなさい。」


戸を閉めるなり

明広は

深く頭を下げた。


「明くん。」


来実子が

驚いて声をあげた。


ベッドサイドの

窓から吹く春風が

明広の

真っ直ぐに垂れた前髪を

揺らす。


「違うの。私が、」


悪いの。


と言いかけて、

花鼓は口を閉じた。


覚えていなかった。


あの日、

彼は私に何かを

言った。


私は泣いた。


こんなに、

こんなに好きなのに

って、泣いた。


その後、

梅雨は

すぐそこまで

来ているのに、

ちっとも

温かくならない夜風に

吹かれて、

一人暗い夜道を

歩いて帰った。


いや、帰ったと

思う。


本当に

家に着いたのかさえ、

花鼓は

覚えていなかった。


「お母さん、

私、明広と少し話したい。」


明広は

顔をあげた。


風は、

いつの間にか

やんでいた。


窓の下に見える

木々の緑が、眩しい。


来実子は

立ち上がると、

明広の隣へ

歩いていった。


「娘には

きつい言い方かもしれないけれど、」


来実子の肩の上で

髪を一つにまとめている

バレッタが、

きらきら光った。


「私は

明くんのせいだなんて

これっぽっちも思ってません。」


薄いピンク色の唇が、

微笑んだ。


終わったら電話頂戴、と

ベッドの上の娘に

付け加えて、

来実子は

病室を出ていった。

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