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002話 夢

激しい痙攣と

突然の意識消失。


闇、また闇。


急ぎ駆けつける医師と看護士。


追い出されるように病室を出た来実子は

喧騒の外で一人、

唇を噛んで

鉛色の不安と闘っていた。

重い心を支える膝が震えた。


廊下の大きめの窓から差し込む

うららかな春の日差しも、

窓の下に設えた棚の上の

青いガラスの花瓶に生けられた

色とりどりのガーベラも、

目の前の出来事は

見て見ぬふりをしている。



やがて、

辺りに張りつめた緊張の氷は

少しずつ溶け始め、

来実子は

呼吸が楽になるのを感じた。


病室から

ぱらぱらと人が出て来た。


「毒が抜けるのに、

数日はかかります。」


医師が、

廊下で一人待つ来実子に告げた。

アルコールを手に刷り込む仕草に

乾いた灰色の疲労感が

張り付いていた。


「そうですか。」


「頑張りどころです、

垣口さん。」


医師は、

くしゃくしゃのハンカチを

握り締める来実子の手に手を重ねて

軽く握ってから、去った。




花鼓は夢を見ていた。


四方をコンクリートに囲まれた

広い一室。


白いシーツのかかった長細い台の上に

花鼓は腰掛けている。


台が高過ぎて、

足が床に届かない。


頭上には裸電球が一つ。

クリーム色のタイル張りの床に

柔らかな光を投げかけていた。



薄暗い部屋の隅から

薄い金属の扉が

軋みながら開く音がした。


身構える間もなく、

電球の灯りに

初老の男が映し出された。


男は、持って来た白い箱を開いた。


中に

一足の小さな赤い靴が

入っていた。


磨き上げられ革靴の縁に

白いレースが奮段に

使われている。


老人は

一足ずつ丁寧に

花鼓に履かせた。


「歩いてごらん。」


花鼓が前に両腕を差し出すと

老人は抱き上げて

そっと床に下ろしてくれた。


2、3歩、歩いて見せると、

老人の青い目は

喜びで輝き、

目尻が下がって

人の良さそうな顔が

一層、優しげに見えた。

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