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満月と新月  作者: ミノマ
3/9

 交渉はとんとん拍子に進み、月代は『新月』役に本当に決まってしまった。彼女が恐れていた、勝手に脚本に使用していたことについては、彼は全く気にしていないようだった。

 「意外だったな、満月が映画研究部だなんて」

 「そう?」文化部なんて柄ではないことは承知していたけれど、素知らぬふりで相づちを打った。

 (というか、どうしてこいつと一緒に帰ってるんだ?)

 バスを降りて他の部員たちと別れてからもなんとなく月代と歩いていた、望は今さらそのことに疑問を持つが、月代は気づく様子もなく続ける。

 「毎日走ってたし、運動部かと」


 小学校でバスケットボールをやっていた。中学に上がってもユースのバスケットボールチームに所属し、部活では陸上をやった。高校ではもう好き勝手できないことは分かっていた。


 女の子なんだから、運動ばかりしてられないでしょ。

 跡取りなんだから、部活にかまけてないでいい大学に入るために勉強しなさい。

 一人暮らしさせてやってるんだから、おとなしく言うことを聞きなさい。


 「…本当は、帰宅部ってことになってるんだけどね」

 ぼそりと言った声は月代には届かなかったみたいだ。聞き返してきたけれどなんでもないとはぐらかした。

 彼女の監視役である叔母夫婦は、多少同情してくれているらしく、彼女がしているいくつかの勝手な行動に目を瞑ってくれる。朝走り込んでいることも、文化部とはいえ部活に入っていることも、望の実家は知らないはずだ。

 いつでも言うことを聞いて、勉強ができて、家事ができて、いずれ良い男の人を婿にして、一家の繁栄に貢献する。

 いつの時代の話だか。彼女は体の良いお人形だ。



 じゃーん、と手をひらひらさせながら、リツカは満面の笑みだ。

 「ヒロイン役の佐東さんでーす」

 「よろしく」

 にっこり笑う様は美少女といっても差し支えない。小さい顔にぱっちりした目の印象が強い。女の子らしく背が小さめでほっそりした体型が、庇護欲を感じさせるのかもしれない。でも守られてばかりではないと思わせる強かさも感じられた。自分の容姿が可愛いとわかっているのだ。

 ちょうど部室の戸が開いて月代が入ってきた。すでに何度か訪れたことがあるので、初めて見るはずの佐東を認めて眉を上げ、軽く会釈した。

 「あ、新くん、五組の佐東さん。一緒に撮影することになるから、よろしくね」

 「一緒に?」

 リツカの紹介を聞いてどういうこと、と月代は望を見た。

 「佐東さんが『満月』役だから。二人のシーン多い、ていうか、二人のシーンしかないし」

 腑に落ちない表情で、月代は佐東に近づいた。

 「君が『満月』?」

 「そうだよ」

 「…なんか、太陽みたいだね?」

 「褒めてくれてんの?」

 にこりと、かわいらしく笑った。月代は不思議そうな顔で佐東を見つめ返した。


 「なんで、『満月』役、満月がやんないの」

 「あのね」二人になった途端不満をあらわにする月代に、望はあきれ顔を作った。

 「ふさわしい役柄ってのがあるでしょ。あの脚本の『満月』は、可憐な女の子なの」

 「満月だって」

 「あんまり的外れなこと言うと、怒るよ」

 間違っても、望のような、おとこおんなではない。

 「もー、卑屈すぎるよ、満月」

 どうして?と無遠慮に聞いてくる月代にいらだちは募る。

 「だからさあ!」

 勢いで振り向いて、月代の顔を見てひるむ。

 知らず、ため息が出た。

 「あんたがかわいすぎんだって…」

 もう一度言うけど、学ラン、似合わない。黙りこくった月代に、変なことを言ってしまったと思ったが、顔を上げた彼の反論に彼女もかっとなった。

 「…満月こそ、何でそんなにでっかくなってんのさ!」

 すきででかくなったんじゃない!

 「女らしくなくて悪かったね!!」

 怒りに任せてスカーフをむしり取り、月代に投げつけた。立ち去る望に月代があわてて取り繕った声をかけるが、聞いてなんかやらない。

 彼女が月代のことを苦手な理由にもうひとつ、


 望が女子から本気で告白されるような容姿であることに対し、

 月代はまるで少女と見まがうようなかわいらしさであることがある。


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