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プロローグ

 いやだ

 死にたくない

 死にたくない

 死にたくない


 「死に、たくないよ……」




 強い風が創太の被っていた帽子を吹き飛ばした。

 ビルの屋上に彼はいる。強い風の中、背の低い創太が柵を乗り越えるのは容易ではなかったけれど、乗り越える途中で落ちたとしても彼には全く問題はない。

 吹き飛ばされた帽子を細い指が摑まえた。

 「…飛び降りかい?少年」

 声のしたほうには若い女が立っていた。いわゆるOL風の恰好をしていて、髪は短い。彼女はどこか不敵に創太に笑いかけた。

 「珍しいな、こんな直接的な方法は」

 「原点に戻ってきただけだ」創太は不機嫌そうに顔を逸らす。「でももうあんたが来たからムリだろうな」

 女の立っているのは創太から三メートルと離れていないところで、いつの間にか彼と同じように柵の外側に立っている。地上では彼らに気づいた人々のざわめきがだんだん大きくなっていた。

 「さあ?それはやってみないと」笑みをいっそう深くして女は言う。

 「…言われなくても」

 そう言ったときにはもう創太は飛び降りていた。


 ふわりと、優しい風が彼を包む。

 目を閉じてはいけない。次の瞬間にはもう開けられなくなるから。

 ああそれとも閉じたほうがいいのだろうか。

 壮絶な笑みが近づいてくる。

 時間の止まったような空の中で、そいつだけが動いている。

 細い腕が、聖母のように創太の頭を包む。

 温かくはない。

 冷たくもない。

 だってなにも思っていないのだから。

 こんな思考もほんの一瞬。

 ほら、直ぐに重力が自分の役割を思い出す。


 …ああ、

 僕は怖い。

 やっぱりこいつが一番怖い。

 ……。



 地上に置かれたマットに、体が深く深く沈みこむ。

 多くの顔が僕を見ている。

 こんにちは地上。久しぶり世界。

 僕はまた生き延びてしまった。

 女の姿はどこにもない。探す声が聞こえるが見つかるはずもないことを創太は知っている。

 早く、

 早く死ななくちゃ、

 あいつに殺される前に…。


 創太は静かに意識を手放した。


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