表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第1章~チート風貴族少年編~
5/42

閑話 貴族少年の蘇生とハルモニア神教会

「あばばばばばばばばば」

「ぼっちゃま!ぼっちゃまーーー!!!」


 教会の聖堂、ステンドグラスの真下の光落ちる場所で美貌の青年が天使のような少年を一生懸命介抱していた。


 少年の様子は尋常ではない。

 目は白目になっており口からはよだれがだらだらと流れて先ほどから延々とよく分からない擬音を発し続けている。


 ここはハルモニア神教会。


 迷宮で死した者たちの一部――初心者(ビギナー)と呼ばれる年若い迷宮探索者たちが神の加護により蘇るとされる聖なる建造物である


 青年と少年はまさに先ほど、おそらく迷宮で死してのち、ここで蘇ったのだ。


 彼らの様子を冷ややかに見つめる教会司祭の一人がゆっくりと彼らに近づき、精神に多大なるダメージを受けたであろう少年を一瞬見つめて、ふいと目を逸らすと、もう一人の青年に向けて話しかけた。


「それでは、寄付を。現在は銀貨十八枚が相場となっておりますが……」


 そう言った司祭の手には木で作られた箱がある。その表面には“蘇生寄付”と書かれており、その目的と用途ははっきりとしていた。


 青年は一生懸命介抱しているときにそんなことを言われるとは思いもよらず、一瞬あっけにとられたのちに怒りが込み上げてきたようで声を荒げた。


「ふざけるな! そんなことより今は……」

「そんなこととは失敬な。この教会は寄付で運営されているのですよ。この教会がなくなった場合、多くの探索者たちの命が散らされる。そのことを考えれば寄付は当然のことです。――さぁ、寄付を」


 言っていることはそれほど間違っていない。

 確かに探索者が蘇ることができるのはこの教会のみで、仮にこの教会がなくなった場合、他の神を奉ずる教会に同様の現象が起こるとはとても言えないのである。


 それが理屈でわかってしまうがゆえに、青年は何も言えなくなって黙り込む。しかし少年の介抱の手は止めない。


「あばばばばばば」

「ぼっちゃま……」

「ほら、早く病院に連れて行かれなければまずいでしょう。その前に寄付を」

「くそっ!!……神の使徒と言うのは守銭奴なのだな」


 あざけるようにそう言うと、彼は銀貨十八枚を寄付箱に投げ込んだ

 司祭は言う。


「この世は祈りのみで生きていけるほど甘くはないのですよ……。――領収書はいかがいたしますか?」

「それが司祭の言うことか!!――ディオル伯爵家にお願いできます?」

「ふん……私とて肉の体を持つ身。飢えれば死ぬるのです。金を求めて何が悪い!――ディオル伯爵家様ですね?……では、こちらをどうぞ」

「こんな教会に神の加護が与えられるとは驚きだな。出来れば二度とお目にかかりたくないものだ……。――ちょっと高いですよ。次はもうちょっと負けていただきたい」

「神の前に善悪はない!私はただ神意に従うだけだ。――そういう訳には。またのご利用をお待ちしております」

「ふん……貴様に天罰が落ちることを願うよ。それと、我が主を邪険にしてこのままで済むとは思わぬことだな!――このあたりでいい病院ってどこですかね?」

「我が教会にたかが一貴族程度が何か出来るとは思えぬな!貴様こそ教会にそのような言葉を吐くことの意味をよく考えるがよい!――ガンドール総合病院がなかなか腕がいいと評判ですよ。お大事に」


 青年は司祭とそんな風に妙に器用なやりとりをした後、教会を後にした。おそらくその足で病院に向かうのだろう。


 青年が去った後、教会に尋ねてくる者があった。


「ちわ~!ゴブゴブ商会の者ですが、司祭様はいらっしゃいますかー?」

「あ、はいはい。いつもお世話になっております~。今日はなにか?」

「ええ。ついこの間ご注文いただいた祭壇が完成しまして。納品に参りました。――おいお前ら!運びこめ!」


 どことなく背の低いその男はゴブゴブ商会の代表の親方だ。

 彼に言われて後ろから似たような容姿の男たちがいくつかの部品に分解された祭壇を持って教会に入ってくる。

 みんな似たような見た目なのは一族経営だからだろうか。


 ゴブゴブ商会はかなり昔、それこそ迷宮都市にハルモニア神教会が出来たころから教会が懇意にしている商会だ。

 仕事の早さもさることながら、その加工の確かさ、それにどんなオーダーでも受ける臨機応変さから教会はずっと変わらぬ付き合いを続けている。

 教会の備品すべて、ゴブゴブ商会の作ったものだった。


 それに、ゴブゴブ商会の作った祭壇からはなぜか復活した探索者が現れる。

 実は一度ほかの商会に作らせたものを設置したことがあったのだが、そのときは一切探索者は蘇らなかったのだ。


 ハルモニア神教会上層部はこれを聞いて、おそらくゴブゴブ商会をハルモニアが加護しているのだと結論付けた。


 それからはハルモニ神教会とゴブゴブ商会とは切っても切れない関係にある。


 そうこうしているうちに、祭壇の部品を運び込み、組み立てもすべて終わる。


 司祭が見上げると、その作りの精巧さにため息がでた。


 確かにこれだけ素晴らしい品ならハルモニアも気に入ることだろう。


 満足した司祭は親方に小切手を渡し、これからも仲良くさせてもらいたいと言って帰ってもらったのだった。


――そういえば、親方はどことなくゴブリンエリートに似ているような。


 親方が帰ってから司祭はそんなことを思ったが、すぐにそんなわけはない、気のせいだと疑問を打ち消した。


 親方の後ろから入ってきた男たちもどことなく皆ゴブリンの鳴き声に似た擬音を発していたような気がするけど、きっと気のせいだろう。


 うん。あれはなんていうか、こう、わっしょい的な掛け声なのだ。きっとゴブゴブ商会に伝わるわっしょい的なあれなのだ。




 それから優しいどこか遠くを見るような顔になった司祭は祭壇をもう一度眺めた。


 きっと明日からも探索者はこの教会で蘇るだろう。


 そう確信した司祭は今日の業務を終え、神に祈りを捧げて居住区域に戻ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ