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竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第2章~迫害系チート少女編~
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第37話 修行

「しかし、修行をつける、とはいえ、いきなり実戦というわけにもいかんからな。初めは瞑想から始まる」


 魔法少女の格好ながら、威厳を取り戻したシバルバーはそう、リナに語りかけた。


「瞑想、ですか……?」


「そう、瞑想だ。お前は主上の“処置”によってその身を大きく作り替えられているわけだが、お前自身はまだ、その自覚があまりないだろう?」


 言われて、自分の身体に意識を伸ばしてみるが、以前とどのように変わったのか、リナには今一よくわからない。

 精霊が言うことを聞いてくれないことも変わっていないし、身体能力が上がったとか、そういう感じもまるきりないのだ。


 しかしシバルバーは言う。


「お前は、間違いなく変わった。しかし、何も感じられないのは、お前が自分の体のことをよくわかっていないからだ。お前の自覚を促すため、まずは瞑想をしてもらう、というわけだ」


 そう言って、シバルバーはリナに瞑想のやり方を説明した。

 しかし、何も難しいことはない。

 特別なことも何一つなかった。

 ただ、座禅を組み、目を閉じて、静かに心の中を空っぽにする。

 ただそれだけのこと。


 シバルバーはどこかから座布団を持ってきて、三つ敷いた。

 ここで瞑想しろ、ということなのだろう。

 言われた通りにするつもりではいるリナだが、けれど困惑はしていた。

 これが一体どれほどの意味があるのかと、そんな気がしてしまうからだ。


 そんなリナの気持ちを理解してか、スクルドが座布団の一つに座禅を組み、そしてリナに言った。


「まぁ、見本くらいにはなるかもしれないから、見てて」


 そう言って深く息を吸い、目を静かに閉じた。

 直後、リナは驚いた。

 スクルドが瞑想に入った、その瞬間にピンと何かが張りつめたような気配が辺りを大きく包んだからだ。

 空気が変わった、とはまさにこのことを言うのだと、リナは初めて知った。


 さらに、瞑想するスクルドの中に何かが渦巻いていることもわかった。

 それが何なのかははっきりとはわからなかったのだが、そこに大きなものが存在していることだけは分かった。


「これは……」


 驚いているリナに、シバルバーが言う。


「あれこそが、神力の自覚的な運用だ。意思の坩堝の話は先ほどスクルドがしたが、もととなる力は本人の中に宿っているものだ。それを普段、我々は空気の中に溶かし込み、全世界へと薄く強いて、人のイメージに触れ、取り込み、自らの力にしていく。覚えておくがいい、リナよ。あくまでも、力の源は自分なのだ。他人から与えられるものではない……」


 スクルドのこの姿を見る前に言われていたら、意味が分からないと思っていただろうシバルバーの台詞だった。

 しかし、この姿を見るとはっきりとわかる。

 力の源がスクルドの中にあり、それが徐々に辺りを包んでいくことが。

 これを世界規模で広げることによって力を得ることが、神々の力、神力の基本的な技術なのだろうと。

 そして、こんなとんでもないことが、いったい自分に出来るのだろうかと、そんな気もした。


「私には……こんなことは……」


 だから、そんな弱音が口から出たのだが、シバルバーは、


「何、すぐに出来るようになる。というか、なってもらわないと困るからな。主に俺の服装的な問題で。少しばかり荒療治な部分もあるかもしれないが、許せよ」


 そう言って、シバルバーは笑った。

 どういう意味なのか、と尋ねたかったが、その笑顔の恐ろしさにリナは何も言えない。

 ただただ、座布団の上で座禅を組むように言うシバルバーの言葉に従う以外には、他にできない。

 そして、リナは座禅を組み、ゆっくりと目を閉じる。


 やはり、というべきか、当然というべきか。

 リナには何も感じることが出来なかった。

 スクルドのように大きな力が身に宿っているようにも思えなかったし、辺りの空気に触れているような感触もない。

 自分には才能がないのではないか……。

 これでは無理なのかもしれない……。


 そう思ったそのときである。


「……ストラース、フォボス、ハウフ! 愛と光の名のもとに! かなえて! キュルルン!」


 と野太い声で恐ろしい呪文がリナの耳に入った。

 最初はよかった。

 なんだか心の深いところから恐怖がせりあがってくるような、声の低さと重さに合った呪文だった。

 けれど、そのあとはどうだ。

 愛と光?

 かなえて?

 そして挙句の果てにはキュルルンとはどういうことだ。

 色々と鳥肌の立つような衝撃の台詞に、リナは思わず目を見開く。


 するとそこには、そんな恐ろしい呪文に対応するかのような妙なポーズで静止するシバルバーの姿があった。

 右手でピースをし、左手でステッキを可愛らしく構えている。

 足は片足立ちで、口元はなぜか投げキッスをしているかのような形をしている。


 自分はいったい何を目撃してしまったのか。

 唖然とするリナに対して、シバルバーは、


「見・た・なぁ~!!」


 と恐ろしく低い声で威嚇するような台詞を言い放ち、それからステッキをリナの頭に向けた。


「な、何を……」


 慌ててその場から逃げ去ろうとするリナであるが、その瞬間気づいてしまった。


「か、体が! 体が動かない!!」


 リナの同様に、シバルバーは笑いを浮かべて言う。


「我がプリティミントシール≪愛の拘束≫から逃れられると思うな。一瞬でいいのなら、主上の動きすらも止められるほどの堅牢さを誇る、俺の秘奥よ!」


「ぷ、プリティミントシール……なんて恐ろしい……」


 技それ自体が、というよりその名称がひたすらに怖かった。

 どうしてあの娘はこの人にこんな目も覆いたくなるような罰を与えるのか。

 間接的に私に対しての罰にもなってしまっているではないかと涙を浮かべながらリナは思う。

 けれど、そんなことは言っても仕方がない。

 今、この場で大事なのは、リナが全く動けないということだ。

 この状態で、この男はいったいリナに何をしようというのだろうか。

 シバルバーはおびえるリナに、


「……なに、怖くはない……ただ、お前の認識能力を上げるだけだ……」


 と思ってもみなかったことを言った。


「それはどういう……」


 意味を尋ねようと声を上げたリナだったが、シバルバーのステッキの方が早かった。

 そこから謎の光線がリナに向かって放たれ、リナは多大なる痛みとしびれを体中に感じ、そして気絶したのだった。


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