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竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第2章~迫害系チート少女編~
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第33話 恐怖の大王

 そして辿り着いた先。

 白色の地に銀色に輝く取っ手のついた巨大な扉の前で、スクルドは、すっ、と手を上げる。

 スクルドの身長は女性にしては高いが、それでも絶対に届くはずのない位置、そして掴めるわけの無い大きさをしている扉の取っ手だ。

 しかしそうであるにもかかわらず、扉は誰かが開こうとしているかのように次の瞬間軋み、そして、大きな音を立てて開き始めたのだ。

 明らかに、スクルドのやっていることだと分かる。


 亜神ともなるとこのようなことが可能になるのか。

 どういう方法なのかは分からないが、改めて尊敬の念がリナの心の中に湧き上がった。


 そして、扉が完全に開き切ってから、スクルドは言う。


「――さぁ、進んで。ここが目的地よ」


 スクルドの言葉にリナは緊張しつつも頷いて、歩き出す。

 この先に自分を強くしてくれる何かがあるのだ。

 そう信じて。


 ◆◇◆◇◆


 扉の先に広がっていたのは、どこまでも続く白だ。

 それ以外に何もない、と言ってもいいくらいに真っ白で、終わりが全く見えない永遠の広がりを感じさせる。


「凄いです……」


 余りの美しさに絶句するリナに、スクルドは言った。


「ここは、テュール様が天界を想像するときに余った材料で作られたと言われる空間――"無限白場"よ。そう呼ばれる理由は説明するまでもないと思うけど……」


 彼女の言う通り、その名づけの理由はどんな方向に首を向けても白しか目に入らないこの光景からだろうということがすぐに分かる。

 どうやったらこんなものが作れるのか。

 そもそも、空間と言うのは誰かが作れるものなのか。

 それが出来るからこそ、神と呼ばれるのか……。

 リナの心に様々な疑問が浮かび上がるが、しかしそれを尋ねるのも不遜な気がした。


 だから黙ってそこを観察していると、ふと、完全な白の中にぽつりと、何かが存在しているように見えた。

 点のように見えるそれ。

 リナは不思議に思ってスクルドに向かって首を傾げると、


「あぁ……もう来てたのね。行くわよ」


 と言ってすたすたとその点の方に向かっていく。

 リナも続いた。


 そしてどれくらい歩いたか分からないが、とうとうその点のところに辿り着くと、そこには一人の男性が立っていた。


「おぉ、よく来たな。それで、その娘が新たな仲間、と言う訳か?」


 その大きな体と筋肉質な体型に似合った良く通るバスでその男は言った。

 身に纏っているのは真っ白な一枚布を肩で留めただけのシンプルなものであったが、それだけにその男の恵まれた体格がはっきりと分かる。

 雰囲気も容姿に見合った大きさを感じさせる。

 どこか近づきがたいような、それでいて妙に親近感を感じさせ、なぜかこの人は嫌いに離れないだろうと一瞬で思わせられてしまうようなカリスマ性がある。

 そうだ。

 もし、この世界のどこかに、理想的な王者、というものがいるとしたら、このような人なのではないか。

 リナは一瞬でそう思った。


 その男性に対して、スクルドは言う。


「ええ、そうよ……主上もお認めになったわ。まぁ、あの娘からの推薦だからそう簡単に断れないでしょうけど。もし断ったら主上ですら足蹴にしかねないからねぇ……」


 スクルドの言葉に、その男性は苦い顔をして、


「……あやつか。主上すら逆らうことが出来んのか……」


 と呟く。

 あの娘、と言うのがリナの同級生であり村娘であり班長であるあの娘のことを指していることは明らかだが、天空神にすら意見を呑ませることが出来るとはいったいどういう事なのかと心の底から疑問を感じたのは言うまでもない。

 しかしだ。

 それこそ今さらあの娘に突っ込みを入れたところで何の意味もないということをリナはしっかりと認識していた。

 あの娘はああいう・・・・人なのであって、なんかこう理屈がどうこうとかそういうことを念頭に置きながら考えること自体、馬鹿らしいのである。

 大体だ。

 仮にあの娘が天空神を足蹴にするような不遜なことをするような者だったとしても、そんなことはどうでもいいのだ。

 リナにとって、あの娘がいたから、今の自分があるのだ。

 生まれてからずっと、人に触れることすら恐れてきた自分の性質、周囲の精霊たちが言う事を聞いてくれず、誰から構わず傷つけてしまうと言うそれを、あの娘のお陰で克服できる可能性が生まれた。

 それに、あの娘はリナがどういう風に接しても、決して傷つくことは無い。

 精霊は、あの娘を傷つけることが出来ない。

 あの娘と一緒に班を組んでいる限り、リナは人を傷つけずにいられるのだ。

 そして、友達も出来た。

 二人とも男の子だが、今まで周りにいた者とは違い、リナの事を恐怖の目でも、またいかがわしい目で見ることも無い。

 ただ、似た苦しみをずっと心に抱えてきた同志として、しっかりと本当のリナのことを見ようとしてくれる。

 あの娘と出会ってから起こった何もかもが、リナにとって新鮮で、大切な記憶だ。

 ずっと信仰してきた神様にも会うことが出来て――まぁ、その神様を足蹴にする人らしいが、それでも、どちらが重要かと聞かれればあの娘の方が大事であると即答で答えられる。

 だから、いいのだ。

 そう瞬間的に思った自分に驚き、そしてそのことがなぜかリナはとても嬉しかった。


「ふふっ」


 笑い声が漏れたらしく、そんなリナに、


「あら、機嫌が良さそうね?」


 とスクルドが言った。

 確かに今の自分は機嫌がいい。

 生まれてからはじめて、と言ってもいいくらいに。


「私……生きてきて良かったです」


 ふとそう言ったリナに、スクルドは不思議そうな目を向けたが、何か納得するところがあったのか、頷いて、


「まぁ、"灰髪"ですもんね。色々あったでしょうよ……さて、そろそろ始めましょうか?」


 と言った。

 始めるとは何を、と思って首を傾げると、スクルドと話していた筋骨隆々の男性が言った。


「もちろん、修行だ。お前は強くなりたいのだろう?」


 そう言われて、リナはその通りだ、と思うと同時に少し萎縮する。

 男性の威圧感が余りにも強すぎるのだ。

 そしてその怯えに反応し、リナの周りの精霊が男性に魔術を飛ばす。

 風の刃の魔術で、男性の頬に一筋に傷が刻まれた。

 男性は自分の頬に流れる血に手を触れ、


「このようなことが起こらぬようにするためには――お前はその命を賭けて、修行をしなければならぬ。俺が施す稽古をその身で受け切る――その覚悟はあるか!」


 大きく声を張ってそう言った男には、迫力があった。

 その声は神託の如く響き渡り、リナは自分が運命の岐路に立っていることを強く自覚させられるようなものだった。


 だから、リナは迷わずに頷く。


 もう、誰も傷つけたくなかった。

 それに、あの友人たちと、一緒に歩んでいきたかった。

 だから。


「覚悟は、あります! 私に稽古をつけてください!」


 と。

 男は、


「よし、その覚悟、確かに受け取った……さぁ、構えるがいい、リナよ! 我々神魔の力――神力を見せてやろう……!!」


 そう言って構える

 神力?

 それは何だろう。

 それに構えろとは、もう修行が始まると言う事だろうか。


 色々考えてスクルドを見ると、彼女はリナの顔を見て頷き、それから大分遠ざかった位置まで移動する。

 どうやら、リナの予想通り、このまま修行が始まると言う事らしい。

 スクルドはそれを遠くから見ててくれる、ということなのだろう。


 そして、男の方はと言えば、何か強大な力が渦巻き、彼に流れ込んでいっているのが感じられる。

 光り輝くその姿は神々しく、まさに神と呼ぶにふさわしい威圧感があった。


「さぁ、見よ……我が名はシバルバー。恐怖を支配する者。その司る力は変化である!」


 その言葉と共に、集約した光はカッと唐突に散乱し、シバルバーの姿を一瞬掻き消した。

 目を瞑ってしまったリナ。


 一体何が起こったのかと、しばらくして光が収まったのを瞼の裏の明るさから察して、ゆっくりと目を開くと――


 そこには、ピンクのフリル付きスカートを身に纏った、筋骨隆々の中年男が立っていた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 その姿の前に、リナは高い声で悲鳴を上げ、物凄い速度でスクルドの元へと逃げた。

 しかし、その変態は恐ろしい速度で追いかけてくる。

 振り返って見ると、髪型は金髪のツインテールで、手にはトップにキラキラと虹色に輝く宝石の付いた桃色のステッキを持っている。


 たまらずスクルドに抱き着いたリナに、スクルドは何とも言えない顔でシバルバーを見て、呟く。


「……まぁ、どう見ても変態よね」


 知っていたなら先に言え、とリナが心の底から思ったのは言うまでもない。

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