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竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第2章~迫害系チート少女編~
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第19話 交換

「で、どうするの?」


 負けを認めたその男に、私はこれからどうする気なのか聞いてみた。

 すると男は眉をしかめて、


「俺は負けたんだぞ。命を賭けた戦いに負けた剣士の扱いは決まってる。殺せ」


 と宣った。

 しかしだ。何度も言うようだが私はこいつを殺す気などさらさらないのである。殺しなど、こんな昼下がりにしたくない。しかもここはユウリ達の家なのだから、血で汚すのも申し訳ない話だ。

 そんなことを男に言うと、奇妙な顔をしつつも、文句を言われた。


「じゃあなんだ。俺はこのままメドラに戻って死刑になれってか。おい、そりゃねぇだろ。俺はそんなのより戦って負けて名誉の戦死とかその方がいいと思ったからあんたとわざわざ戦ったんだぜ?」

「っていわれても。私、命賭けるなんて一言も言ってないし」


 そう。そんなのこの男の勝手な事情と早とちりの賜物である。平凡な女学生たる私の知ったことではないし、当然のことながら平凡な女学生は決闘に命をかけたりしないものである。

 そんなことを滔々と述べる私に、男は言う。


「そりゃそうかもしれねぇけど、明らかにそういう雰囲気だったろうが! なぁ頼むよ。任務失敗が確定した今、メドラに戻っても俺に未来なんてねぇんだ。よくて人体実験に使われて廃人になってから死刑になるコースだぞ。なぁ、なんとかならないのか?」


 ほとんど懇願である。本当に心底メドラに戻りたくないらしい。まぁ、人体実験されるしかない未来が広がっている祖国に帰りたいなどと言う人間はなかなかいないだろうが。いるとしたらそれはよっぽどのマゾか自殺願望者だ。この男はそのどちらでもない……そのはずだ。ロリコンかもしれないけれども。

 しかしなんにせよ、この男の行く先に広がっている死刑という悲しきドナドナ流れる道行きは、この男が自分の意志でで選んだ道である。仕方ないとあきらめるほかないだろう。私の頭のなかで哀愁流れる曲調が流れ、牛が何かに乗せられて売られていく。

 あぁ、魔法剣士よ、お前のことは忘れない。さらば、魔法剣士、元気で、魔法剣士。

 と頭の中で言っていたら、くいくいと服の裾を引っ張られていることに気づく。

 見ると、ユウリがそこにはいて、目で何かを訴えていた。

 気になった私はユウリに聞く。


「なに、なんか言いたいことがあるの?」

「……かわいそう」

「かわいそうって、こいつが?」


 魔法剣士を指さしつつ、私は眉をしかめて言った。

 するとユウリはこっくりと頷く。

 かわいそうって、こいつはお前をさらいに来たんだぞ。そんなやつを庇ってもいいことなんてあるもんか。そんなことを思う。なのに、ユウリは言うのだ。かわいそう、と。あんだけさらわれるのにおびえていたくせにそれとは、全くお人好しな性質をした娘である。


「じゃあ何、あんたこいつに着いていくの?」


 そう言うと、魔法剣士が腰を浮かせてうれしそうな顔をするものだから、少し殺気をとばして黙らせてからユウリに続けて貰った。

 するとユウリは首を振る。

 じゃあどうしたいんだお前はと言い掛けたところでユウリが、


「なんとかして?」


 と可愛らしく小首を傾げて私に懇願した。

 ふむ。かわいい。なかなかに愛らしい。このまま村につれて帰りたいくらいだ。と、ほのぼのしていた私であるが、それと正反対の反応をした者がここにはいた。

 ユウリの様子を見た銀髪栄養失調少女が呻くように呟いた。


「……そのユウリは危険です」

「え?」

「ユウリがそうなると、何が何でも意見を曲げません」

「曲げないもなにも、どうにもできないことはどうにもできないじゃない」


 そうだ。なんとかしてと言われても魔法剣士の目的がユウリの眼である以上は、ユウリが着いていくしかその目的を達成させる手段はない。

 そのはずである。

 なのに、銀髪栄養失調少女は言いにくそうに続けた。


「それはその通りです。けれど、それでも、ユウリのそれ・・は手がつけられないんです」


 だからどうしてなんだ、と言い掛けたところで私の振くの裾を引っ張るユウリが、にっこりと私の顔を見つめていった。


「だって、どうにか・・・・できるよね、お姉ちゃんなら」


 そんなことあり得るはずがないのに、なぜか確信に満ちた表情だった。

 銀髪栄養失調少女は続ける。


「ユウリは、どうしてか……勘、と言いますか、そういうものが極端に鋭くて。出来ないことについてはそんなことは言わないのですが、出来ることについてはどんなに隠し立てしようともできるということが分かってしまうみたいなんです」

「つまり?」

「ユウリが、あなたになんとかできる、といっているということはなんとかできる手段をあなたがお持ちだと言うことです。……なんとかできるんですか?」


 疑わしそうに、けれど間違っているはずはないと言う表情をして、銀髪栄養失調少女は言った。私は絶句する。

 なぜと言って、その言葉は確かに間違ってはいなかったからだ。

 魔法剣士を助け、ユウリがさらわれないで済むように事態を収める。

 それが私に出来るか出来ないかで言えば、何とか出来ると言えるのだ。

 ユウリは勘でもって、そのことを察知したらしい。

 にわかには信じるがたい話だが、ユウリの眼のことを考えれば別段それほどおかしくはない話かもしれない。

 ユウリの眼は魔力を視ることができる。つまり、人が話している間もずっと個人の保有する魔力を視つめつづけられるということである。そして生物の持つ魔力というのはその生物の体調などによって増加したり減少したりする。

 おそらくだが、ユウリはこの性質を利用して、その眼を嘘発見機か何かのような使い方をしているのだろう。だから、人の言葉の真偽が分かるし、何かに動揺したり、隠し事をしている人間を見抜くことができるのだ。


「全く……手に負えないわね、この娘は」


 ぴしゃりと額を叩いて、嘆息しながら私は言った。

 それは降参の宣言でもある。


「分かったわ。どうにかしてあげる」



 そう言った私に、ユウリは声をあげた。


「ほんとっ!?」

「本当。だけど……」


 どんなものにも問題というものはある。対価ゼロで出来ることには限界があるのである。


「あなたは、その眼を失うことになるわ。それでもいい?」

「いいよ!」


 そう、私の出来ることのもっとも重要な部分は、ユウリから眼をもらうことが前提となっていた。だから、ユウリには難しい選択を迫ることになる。眼は、財産だ。それがあるだけで違う景色が見れる。そういうものだ。そんなものを対価に捧げなければならないなどということを、ユウリは決して頷くはずは……頷くはず……ん?


「あれ、ユウリ。あんた今、「いいよ」とか言った?」

「うん! 眼をあげればいんだよね! いいよ!」


 何も含むところのない、まっすぐな返事に、私はあんぐりと口を開ける。

 だって、眼だ。眼がなくなったらこの娘は一体どうする気なんだ。

 親でもないのにそんな気分が湧いてくる。

 けれど、そんな私にユウリは言うのだ。


「私はここでみんなと一緒にいたいだけ。だから、眼をあげるくらい、別にいいよ!」


 馬鹿かこの娘は。

 心底そう思った私は、けれどそこで改めてユウリに協力することを決めたのだった。


 ◇◆◇◆◇


「あんたがそこまで言うなら簡単な話よ。あんたの眼を、そこの魔法剣士に移し替える。ただそれだけ」

「眼を移すだと!? そんなことできるわけが……」


 驚きの様子でそんなことを言う魔法剣士。

 だが、私にはできる。平凡な魔法少女には実に簡単にできるのである。

 だからユウリに再度聞いた。


「それでいいのよね?」


 するとユウリは迷い無く応じる。


「うん。いいよ」


 あまりに迷いがなさ過ぎる。その様子になんとなく飴とかお菓子とかあげたくなってきた私は気まぐれに聞いてみた。


「……あんた、何かほしいものとかある?」

「ほしいもの……あ、お姉ちゃんの、それがほしい!」


 と言って、ユウリは私の眼を指さしてきた。

 今の私の眼は縦長の瞳孔が見えている爬虫類丸出しのそれなのだが……。決してあえてほしがるようなものではない。

 なのに、ほしいのか。

 そう訪ねるとユウリはやっぱりうれしそうに言うのだ。


「うん。きれいだよ、それ」


 ……全く、変わり者というものはいるものである。


「分かったわ……よく分かった。ちょっとあんたこっちに来なさい」


 と、私はユウリに気怠げに手招きした。

 ユウリは阿呆みたいに素直なのでとことこやってきた。

 なので私はユウリの頭をガッ、と掴み、同様に反対の手で持って魔法剣士の頭をひっつかんだ。

 二人とも驚いて眼を丸くしているが、知ったことではない。

 今からやることにもっと驚いてもらわなければ。

 まぁ、少しだけ痛いかもしれないけど、それはこの二人の責任において受け止めて貰おうではないか。

 ユウリが助けろと言ったんだし、魔法剣士は魔法剣士で眼が欲しいと言うのだから、たとえどんな辛苦が待っていようともこの二人には受け止める義務があるだろう。

 もしかしたらそんなものないのかもしれないけど、私はあると解釈した。だからあるのだ。

 そう、だから。


「まぁ、がんばってね」


 と二人に告げると、私は両手に持てる限りの魔力を注ぎながらそれを魔法に編み上げる。するとユウリと魔法剣士の眼に光が集まって輝きだした。今にもビームでも放ちそうな輝き具合である。でも実際はそんなことは起こらない。二人の間で起こっているのは交換である。そう、眼の、交換なのである。

 二人ははじめ、驚きの声を挙げていたが、次にちょっとした痛みを感じたようでうめき始めた。さらにだいぶ痛そうにのたうち回り始めたが、まぁ、がんばってくれ。これはそういう魔法だ。ちなみにであるがユウリの痛みはそんなでもないはずだ。ちゃんと軽減して挙げているから。ただ場所が場所なので怖いのだろう。まぁ、そこはもう言い出しっぺの責任をとってもらうしかない。


 そうしてある程度の時間が過ぎ去ると、二人の眼から光が引いていき、魔法は終わった。二人ともぜぇぜぇと肩で息をしている。お疲れさまなことである。よっぽどきつかったのであろう。他人事なのは許して貰いたい。

 特に魔法剣士の憔悴具合は尋常でなく、痙攣しながら立ち上がることもできずに地べたに横になっている。ちょっと心配になってくるその様子であるが、まぁ、生きてはいるし、死にはしないということも分かるのでとりあえず放っておくことにして、私はユウリに話しかける。


「さて。どう?」

「……うー」


 恨みがましい眼で私を見つめるユウリ。でも仕方ない。それは君が選んだ選択なのだよ。

 というかそんなことよりも、眼の具合を聞かなければならない。


「どうなのよ」


 私が質問を続けると、ユウリは不承不承という感じで答えた。


「今まで見えてたものが見えなくなった……」


 と言った。

 魔法は成功ということだろう。これで魔法剣士の方が魔力視が可能になっていれば完全に成功ということがわかるのだが、まぁそれはとりあえずおいておこう。


「その前に、ちょっとこっちに来なさい、ユウリ」


 そう言うと、ユウリはびくりと肩をふるわせる。また同じ目に合うことをおそれたのだろう。まぁその気持ちは分かる。

 けれどユウリはそうであるにも関わらず、肩をふるわせて直後、しぶしぶと言った感じでは合ったが、とことことまた私の方にやってきた。

 素直もここまでくると鳥頭ではないかという疑いが生まれてくるが、まぁそれはいい。

 そんなことよりも、ユウリに褒美をやらねばなるまい。


「あんたはがんばったわ」

「え?」

「あんたはがんばった。これちょっと特殊な魔法だから術式が複雑すぎて痛みを軽減しすぎると崩れるのよね。だから痛かっただろうけど、まぁ、許してね」


 そう言って頭を撫でると、ユウリはにへらとだらしなく笑った。

 まったく馬鹿な子ほどかわいいとはよく言ったものである。馬鹿っぽい笑顔もまぁかわいいものである。

 そしてそのまま私は続ける。


「さて、ご褒美をあげよう」


 そのまま、私はユウリの眼に竜の力を込めた。私くらいの平凡な女学生になるとそんなことも可能なのである。しばらくして徐々にユウリのおなか辺りに溜まってきたその力を、ユウリの体の中で回転させ、なじませていく。

 そして血液と魔力の流れに竜の力が載ったところを確認して、私は唱えた。


「竜術創師フローリアの名のもとにおいて、新たに我が子に加える者に祝福を与える。汝、竜道を歩み始める幼子。その道行きの先に幸いあれ」


 そう言うと、緑色の淡い光がユウリの周囲にほわりと舞った。それは徐々に空気の中へと溶けていき、そして消えていった。

 ユウリは驚きながら、


「今のは何?」


 と聞いてくる。そのため、ユウリの前に私の自前の手鏡を差し出して「目を見なさい」と言った。

 すると、


「……眼がお姉ちゃんと同じになってる!」


 と歓声を上げて笑った。

 私と同じってそれ爬虫類丸出しの眼だぞ。そんなにうれしいか?

 と思うわけだが、まぁ、本人がうれしいと言っているのだからいいだろう。

 ただ、使い方は教えておかねばなるまい。


「それ、隠そうと思えば隠せるから。というか普段は隠しておきなさいね。意識すればそれで消えるわ」

「ふーん……おぉ、本当だ!」


 今やってみたらしい。できるだけさっさと使い方を覚えて貰うに越したことはないのでいいのだけど。


「あと、それは竜眼と言うのだけど、それを出しているときは竜の力を扱えるわ。力もかなり強くなるから気をつけること。分かった?」

「はーい」


 本当に分かってるのか?

 まぁ、いい。頻繁にここに見に来ればいいだろう。

 そうして新たに増えた仲間にいろいろ教授していると、やっとのこと放心状態に近い痙攣横伏せから回復した魔法剣士が、驚きの表情で辺りを見回していたのだった。

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