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竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第2章~迫害系チート少女編~
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第18話 男との戦い……らしきもの。

 吐息ブレスにより焦がされた空気が煙へと姿を変え、ユウリ達の家の中にもうもうと充満する中、私は先ほどまで男がいた辺りを眺めていた。

 ちなみにであるが、ユウリ達の方には煙が流れないように空気を操作しているので、彼女たちの健康に害はない。更にいうなら、この家の中には空気清浄機能が付属しているのであるから、一カ所に適当に煙を集めておけば、自動的に煙は外に排出されるという便利さである。


「……げほっ!」


 しばらくして、全に煙が晴れると、煙にやられたのだろう、目に涙を浮かべた男が咽せながらつらそうにしている姿が見えてきた。

 しかもなんと、無傷である。それはつまり私の攻撃を防いだということに他ならない、

 もちろん、かなりの手加減をしたとはいえ、竜の吐息である。それを男がガードし切ったらしいという事実に、私は少々、意外なものを感じた。

 どうやら男は、そこそこの魔法剣士ではなく、中々の騎士であったらしい。

 だから私は、拍手をしながら、男をほめたたえてみた。


「やるじゃない。どうして無傷なの?」


 ほとんど不意打ちに近いことをやっておきながら、そんなことをいけしゃあしゃあと言う私に、男は憤慨しながら咽せるという大変な離れ業を披露しつつ、文句を言い始めた。


「そんなことよりも、なんであんたが火炎吐息ファイアブレスなんて使えるんだよ! おかしいだろ!? あんた、平凡な女学生じゃなかったのか!?」


 実に正当な批判と言える。

 けれど私が平凡な女学生なのは論をまたない事実である。

 したがって、平凡な女学生であろうとも、火炎吐息ファイアブレスは放つことができる。

 以上、三段論法終わり。

 だから男の言っていることに対し、私は大げさに首を傾げながら心外だという表情を浮かべつつ言った。


「なに言ってるのよ。最近の女学生はわりとなんでもできるのよ。火炎吐息ファイアブレスなんて序の口も序の口。もっとすごいのになると魔界生物と謎の契約してたりするのよ」


 そう。魔力のないどこかの公爵家の元お嬢さんがそんな感じである。

 いるところにはいるのである。

 ところが男は首を振った。


「いねぇよ! どこの女学生が火炎吐息ファイアブレス放ったり、魔界の生き物と契約してたりするんだ! 初めて聞いたわ! そんな常識!」


 嘘を言っているつもりはなかったのだが、どうも彼にはこの事実がお気に召さないらしい。とはいえ、事実は事実である。否定してもそれが偽りになることはない。


「現にここにいるじゃない」


 厚かましくもそういってやると、


「あんただけだ!」


 と突っ込まれた。

 そんなに強行に否定しなくても……。

 それに魔界生物との契約者は本当にいるぞ。できるならつれてきてやりたいところだが、どうも私の知覚によると彼女は今結構忙しそうである。彼女をここに連れてくるのはあきらめて、目下の疑問点の解消をするべく私は話を戻した。


「まぁ、そんなことはいいから。それより、なんであんた無傷なの?」


 そう。

 かなり手加減したとはいえ、火炎吐息ファイアブレスはそれなりの殺傷力を秘めた竜の力である。それを受けておいて無傷、というのはいかにこの男が強力な魔法剣士であっても少々おかしいのだ。身につけているものにさえ一切の傷、焦げ跡も見えず、まるでさっきの火炎吐息ファイアブレスは幻でしたと言わんばかりに元気そうだ。少し腹立たしい。

 平凡な女学生の力を見せてやろうと、地べたに這い蹲った男に「女学生なんかに負けてやんの~」とか言ってばかにしてやろうと思っていたのに、これでは期待はずれも甚だしいではないか。

 そんな私の少しのいらだちを、自分に対する認識を改めたものと理解したのか、男は少しだけ自慢げに、自分がいかにして私の攻撃を防いだのかを説明し始めた。

 男はいつのまにか手に持っていた謎のお札を目の前に出す。


「見ろ、これを」

「なにそれ。キョンシーかなんかでも作る用?」

「……きょん……? いや、そうじゃない」


 キョンシーの単語を知らなかったらしい。まぁ、当たり前か。

 少しだけ気を引かれたようだが、とりあえず無視することにしたらしい男は続ける。


「これは、俺たちメドラの魔法技術者がその知識と能力の粋を集めて作り上げた護符だ!」


 ででーん、と効果音でも鳴りそうな勢いでお札を私に見せる男。

 よほど自慢なのだろう。楽しそうでかつ嬉しそうである。

 確かに、火炎吐息ファイアブレスを防げるほどの耐火性能を持つ護符というのは早々見つかるものではない。ゴブリン一族謹製迷宮群の中でも、深部に至らなければ出てこないレアアイテムなのではないだろうか。

 それを自らの手で作り上げたというのであるからそれはそれは誇らしいだろう。

 だから私はつかつかと男の元まで歩いていって、護符を奪い取り、破り捨てた。私の主観では普通に歩いていって普通に破ったのだが、男からしてみればいつの間にか近づいてきていていつの間にか護符を奪い取られていた、に近いようだ。

 元の位置に戻った私がにやにやしながら護符を破っているのを男は呆然とした顔で見つめていた。なんとなくこれだけで勝った気分である。喜ばしいことだ。


 もちろん、男としてはこんなことをされてはたまったものではない。


「あ、あんた、なにをしてるんだ!」

「護符を破ったんだけど? これのおかげで火炎吐息ファイアブレスを防げたって言うなら、もう無理だよね。……改めて。ファイアーブレス!!!」


 私の口から再度高温に熱せられた火炎が男へと迫った。

 しかし、煙が晴れたあとに見えた光景は先ほどと同じ。

 男は無傷だ。見れば、やっぱり護符を持っているのが見える。

 予備を持っていたらしい。あの護符一枚ですら高価そうであるのに、二枚目まで持ってるなんて。


「困った私はもう一度護符を奪うのであった。まる」


 そういいながら男の元へと先ほど同様歩くも、


「そうはさせるかっ!」


 と男は私の魔の手を避けて後ろに飛んだ。

 護符をつかもうとしていた私の腕は空を切る。


「ありゃ」


 それから男は私に剣を向け、切りかかってきた。

 実際、それは通常であればそれなりに驚異、というか達人と言っていいレベルの太刀筋だった。

 けれど私にとってそれは太極拳よりものんびりした動きにすぎない。

 したがって、私には、それを避けることも受けることもたやすいのである。


 切りかかってくる男の攻撃を、私は避けはせず、受けることに決める。

 振りかぶった男がはその腕を振り下ろしきったときに、またもや驚愕の表情を浮かべることになった。


「……おい、嘘だろ」


 茫然自失、というその表情に、私はほほえみながら答える。


「なにが?」

「………」


 男はなにも答えない。答えられない。

 しかしその気持ちも分からないではなかった。

 こんな状況では、男の立場ではそんな風になるしかないのだろう。

 後ろで見ていたユウリが、ぽつりという。


「お姉ちゃん……指、痛くないの?」


 私の指は、男の振り下ろした剣の刃とぎりぎりと拮抗しながら頭の上に構えられている。

 男は未だに力を抜かない。いや、抜けないのだろうか。修練のあとが、その男の技術の中に見えた。ものを切るには、振り下ろすと同時に強く握り、そして最後までそれを弱くしてはならないのである。

 私はユウリに答える。


「ぜんぜん。全く問題ないよ」

「……」


 ユウリもあきれた表情をしている。

 いやいや、そんな顔しないでもいいじゃないか……・

 しかし、それにしてもそろそろ腕が疲れてきた。肉体的に、というより精神的にだけども。

 そう思った私は、男の剣を振り払い、それから男の首もとに手刀を突きつけた。

 剣による攻撃を防がれたことも、またそれをはじかれたことも、更には一瞬で距離を詰められて喉元に手刀を突きつけられたことも、男には信じがたいことに思えたらしい。

 男は、ふるえるような声で言った。


「……化け物だな、あんた」


 そんな男に、私は柔らかく微笑み、手刀を少し男の首に近づけてから言う。


「違うでしょう?」

「え?」

「私は、なんだったっけ?」


 質問に数秒の間、なにを言ってるんだ、という顔をしていた男も、流石はまぁまぁの騎士らしく、少しの時間で驚愕が収まってきて頭が働き始めたらしい。

 苦笑してつぶやいた。


「そうだった……平凡な女学生だったな。俺の、負けだ」


 そうして、私は男の首もとから手刀を引き、手を差し出したのだった。

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