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竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第2章~迫害系チート少女編~
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第14話 ユウリの家?

 くるくると機嫌良さそうに回ったり飛んだりしながら、ユウリが案内するにしたがって私は歩いた。

 スラム、つまるところ王都の東二区はやはり薄暗くじめじめとして一見して不快指数の高そうな空間だ。

 その構造は王立魔法学院の存在する中央区と明らかに事なり、無計画に積み重ねられた家々が傾いだり石材が外れていたり、もしくは完全に崩れていたりして危険である。

 こんなところに住もうなんて人間の気がしれないが、実際のところ、ここは、この世界においてはむしろここは快適な方だ。

 この世界において、その覇権の殆どを握っているのは人間ではなく魔物である。

 勿論、人間の国々はこの世界の全ての土地について線を引き、それを国境と呼んで世界の全てがまるで自分たちの手元にあるかのように見せているが、それは全くの虚構に過ぎない。

 手出しできない空間や、一度も人間の踏み入れたことのない土地をどうして自分たちのものであると言えるのか。その感覚は理解しがたいものがある。

 人の一生懸命引いたその線は、魔物達によってすぐに書き換えられると言うのに。

 歴史を振り返ればそれは明らかなことで、たった一体の魔物に一つの国が滅ぼされた、などということはこの世界において枚挙に暇がないことだ。

 

 まぁ、結局のところ、人間は不安なのかもしれない。

 ここが自分たちの土地であると言っておかなければ、魔物がすぐに奪いに来るから。

 だからとりあえずは宣言しておこう、そしてみんなで守ろうじゃないかと。

 そういうことなのかもしれない。


 なのに人間は自分たちの足元をすら、このスラムのように疎かにする。

 ここは私の村、フェルミエ村のような田舎ではない。

 歴とした王都の一区画である。

 ここに住むのは貧しいとは言え、王都の民、国民だ。

 それなのにユウリ達はどうしてこんなに厳しい暮らしを甘受せねばならないのだろう。

 人の庭に手を出す暇があるのなら、しっかりと自らの土台を整地しろと言いたくなる。


 まぁ、それは別に人間に限った話ではないので、微妙なのだが。

 考えても仕方のないことでもある。


 ユウリはそんなことを考えている私のことなどいざ知らず、とことこと先に進んでいく。

 彼女は貧しく、そして不健康である。

 それにもかかわらず、決して不幸せそうには見えない。

 先ほどからすれ違うスラムの人々も、皆そうだ。

 なぜか、彼らからは生きているという強烈な自負が放たれているのだ。

 目はぎらぎらとして、強い輝きを放つ彼ら。

 人はもしかしたら極限状態に置かれた時に初めて生きていることの意味を知るのかもしれない。


 段々とスラムの深くに入っていくにつれ、それほどここも悪いところではなさそうな気がしてきた。

 確かに暗いが、たまに差し込んでくる光やそれに照らされる水たまりの反射は確かに美しい。

 それに、栄養状態は悪そうだが、子供がその辺のゴミかガラクタか分からないもので楽しそうに遊んでいる光景は、その服装のみずぼらしさと汚らしさを除けば、どこでも見るようなものだ。


 ここでもしっかり人は生きている。

 国王はこういうところからまず手をつけねばならないように思うのだが、やらないのだろうか。


 今度王城に突入して直接文句を言いに行こうかという気分になってくる。

 まぁやらないけれども。


 そうして、やっと目的地に到着したのか、ユウリが立ち止まって言った。


「ここが私の……家?」


 なぜクエスチョンマークがつくのか、とは聞かない。

 ここはスラムだ。

 彼女が家と呼称するその物体も、確かに見ようによっては家の形をしているように見えなくもない。

 家、というものの定義について、小一時間ほど語ったうえで、屋根と壁がついているものを一応の家として認める、という結論に至った場合には、それは確かに家なのかもしれない。

 しかし、その屋根について、石材もしくは木材で作られたもの、という注釈を入れられたらその時点でそれは家でなくなる。


 つまりユウリの家、というのは壁は一応あるものの、屋根はカラフルでつぎはぎの布が張られており、ドアがなく、そこにはやはり布が張ってある、というかなり耐久性に疑問のあるオリジナリティ溢れる構造をしていたのだ。


 いや。

 オブラートに包むのはやめよう。

 正直は尊い徳の一つであると誰かが言っていたような気がする。


「……ぼろい!」


 はっきりと言ってやった。

 見ると、ユウリが泣きそうな顔をしていた。

 お前だって疑問符付けるくらいだったのだから涙なんて見せるなと突っ込みたくなるところである。

 それとも、改めて人から指摘されると辛いものなのだろうか。

 そう思うとそんな気がしてきた。


「ぼろくないよ!」

「いや、ぼろいでしょ」


 全否定である。

 間髪入れずの突っ込みに、ユウリはまたも泣きそうな顔だ。


「……ぼろくないもん」

「なんでそんなに一生懸命否定するのか分からないけど、一見して明らかだわよ。ぼろいから」

「そんなことない。みんなで頑張って作ったんだもん……」


 あぁ、なるほどそういうことか。

 と思わずにはいられない呟きだった。

 気になって詳しく聞いてみると、どうやらそのぼろい、ではなくその家の少々耐久性に問題のある部分に関しては、一緒に住んでいる子供と一緒に色々な布をかっぱらってきて(いいのか? という気がするが、これに関してはどうしようもないだろう。この国の政府の政策の問題だ)作ったものだという。

 だから思い入れが強く、ぼろいと言われると悲しいらしい。

 まぁ、言いたいことは分かる。しかしあえて言おう。ぼろいと。

 直接言うのはもうやめたけども。


「それで? 中に入らないの?」

「あ、うん。どうぞ」


 私が促すと、ユウリは布をさっと持ち上げて中に入っていった。

 同じように私もついていくと、中は意外と広く快適である。数人の子供がいて、座ったり眠りこけたり遊んだりしている。見る限り、彼らもこの家が快適なようである。

 石の壁と床を布で覆っただけのこの構造では空気がこもりそうなものだが。


 気になってきょろきょろ見てみると、部屋の四方に魔方陣が彫ってあるのが見えた。

 目立たないようになのか何なのか、かなり小さく、しかも確認し難い位置に彫ってある。

 私には魔力の動きからしてその存在も効果も一目瞭然なのだが、人間の魔術師は余程腕が良くないと見つけるのは難しいだろう。

 ユウリはこれを知っているのかと思い、顔を見てみると、

「あ、それ、なんか不思議な模様だよね。なんか流れてるの見えるし」

 などと言っている。どうやら彼女の魔眼にもしっかり映っているらしい。


「これ魔方陣よ。効果は……こっちのが空気の浄化、そっちの角のが温度調節、そこのは、有害な外気の遮断、そしてそこのが湿度調節……至れり尽くせりね」

「それってどういうこと?」

「魔法よ魔法。誰かがこの部屋に魔法をかけてるわ。ここを住み心地のいい空間にするために。あんたの友達に魔法使いがいるの?」

「えーと……?」


 ユウリは言われて、後ろを振り返った。

 そこには子供たちがいて、やっと私の存在に気付いたのか私の事を凝視しているのが分かる。

 敵か味方か判別しているという所だろうか。

 そのどちらでもないつもりだが、分かってもらえるかは分からない。まぁ、どっちでもいいのだが。

 そうしてしばらく突っ立っていると、子供たちの中で一番年かさであろう少女がこちらの方へ歩いてきた。

 銀髪の細い少女だ。その細さは健康さや美しさに繋がるものではなく、栄養失調からくる病的なそれであることが一目でわかる。

 しかし彼女は首を傾げつつ、意外にもよく通る声で言った。


「……ええと、どちら様ですか?」

「私はフローリア。平凡な女学生Aよ」


 少女の首の傾きの角度が深くなった。

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