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竜姫はチートを望まない  作者: 丘/丘野 優
第2章~迫害系チート少女編~
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第9話 問題の発生は我々の班が予防します。

「どうしたものかしら」


 私は配られたプリントを見ながらそう呟いた。

 周りを見るとなんだかいつもより三割増しでわくわくしている様子の同級生たちが談笑しているのが見える。

 彼らの会話によく出てくる単語を拾うならそれは「校外実習」とか「学院対抗戦」とか「班作り」とかになるだろう。


 この時点で、察しの良い方には大まかな概要を掴んでもらえたと思うが、あえて言語化して語ってみたいと思う。


 つまり、先ほどのホームルーム的な時間に私の所属するクラスの担当教授が言ったのだ。


「えー、君たちも知っていることと思うが、我が学院では各学年において戦闘訓練が必修科目として設置されている。これは学部関係なく学院生全員が必修だ。なぜなら、この学院において学ぶことのできる学問は終局的には戦場で役立つものであり、そして緊急事態には学院を出た者には召集がかかる場合があるからだ。魔法を学んだものは魔法使いとして、剣技を学んだものは剣士として、薬学を学んだものは薬師として、その知識と技術の供出を求められるだろう。それに備えるために最低限のスキルはこの学院にいるうちに身に着けてもらいたい。そのための戦闘訓練だ。そして、この訓練は実戦を想定して行うことが多い。学院で対抗戦をやることもあれば、校外に出て実際に魔物を倒してもらうこともある。ただ、一人でこれをこなすことは無理だ。だから、数人で班を作り、これからの課題に取り組んでもらいたいと思ってる。入学当初からなぜクラス分けが学部ごとでなく、学部学科ごちゃまぜでクラスを作っているのか、と聞いた者がいたな。それはな、今言ったように戦闘訓練のための班をクラスメイト同士で作ってもらいたいからだ。と、言う訳で、明日までに作っとけ。じゃあ、解散!」


 教授がそう言うと、食い入るように聞いていたクラスメイト達ははっと息を吹き返して、クラス代表の生徒が「起立!さようなら!」と言い、それにみんなが続いた。

 それから教授が「これ配っとけな」と言ってプリントを教卓に置き、部屋を出ていくと、クラスメイト達はがやがやと盛り上がりだした。

 プリントには教授の言ったことについての詳細が書かれていた。推奨されるパーティ構成や上級生たちの体験談などが書かれている。クラスメイト達はそれを見ながら、班を誰と組むか、どういう班にしたいか、クラス対抗戦、校外実習のことなどについて相談を始める。


 私はと言えば乗り遅れたと言うとなんというか。

 まぁそもそも乗り遅れたとかいう前に薬師にはあんまりお呼びはかからないのだが。

 と言っても私のようなド田舎から一人で魔法学院薬学部に入る者は少なく、入学前からある程度知り合いがいる者が多いので、そう言った薬師たちは友達同士で次々に班を作ってまとまっていく。


 まさかこんなところで前世の学校におけるような“ぼっち”を味わう羽目になるとは!


 まぁ、とは言っても別にこれはいじめとかではなく組みやすい友達同士で固まってしまうのは仕方のないことだろう。4人で班を組むようにとプリントに指示されているからクラスの人数的に余りが出ることもないので、最終的にあぶれた者同士で組めばいいと思って気楽に構えることにした。


 ちなみに私のクラスにはあの迫害系チート少女とコンプレックス兄貴もおり、二人は班を組むつもりらしく固まっている。はじめは結構ぎこちなかったのに、今ではもうかなり仲良しという感じでいいことだ。

しかしあの二人にほかに二人友達がいるのか、という気がしたが意外にもいるらしい。

話し込む兄妹に二人の人物が近づいて言って班を組むことを提案しているのが見えた。一人はふんわりとした雰囲気の金髪の少女、もう一人は粗野な感じの屈強そうな少年だ。

 身のこなしや魔力を見るに、少年の方はは剣士なのだろう。

 少女の方は……あれっ、なんか見覚えが……と言う気がした。まぁ気のせいだろう。うん。とりあえず流しておこうと思う。チートパーティに接点はいらない。ただあの子は個人的に大事なので遠くから見守りたい。向こうも私に気づかないだろう。色々変装したうえ魔法かかってからね。うん。

 ちなみにパーティ全体としては、迫害系チート少女の魔界生物との契約とコンプレックス兄貴の魔法能力を考えると、なかなかにバランスのいいパーティなのではないだろうか。


 翻って私は未だに一人ぼっちである。

 ぽつぽつと班決めが終わっていくクラスメイト達を尻目に、机の木目の美しさで気を紛らわせるのもそろそろ限界にきている。つらい。友達がいないわけではないが、無性につらい。


 そろそろ、動き出すべき時が来たのかもしれない。そう思った。


 クラス全体を観察してみれば、見事に三人、孤立している人物がいた。


 私を含めれば四人である。私以外の三人はクラスメイト達にまるで興味がないのか全く動き出す気配がなく、さっぱり覇気を感じない。どこどなく彼らの周りに存在する空気もどんよりとしていて、まるで曇り空がそこにあるかのように暗い。クラスメイト達も気のせいだろうか、少し遠巻きにしている気がする。


 しかしほんとに孤立している三人は何にも興味なさそうな顔をしている。


 まぁ私も結構班決めどうでもいいとか思ってるが、それにもましてどうでもよさそうなのだ。


 もっと学生生活を楽しもうよ!

 と、ガラでもなく叫んでみたくなるほどに。叫ばないけど。


 ともかく、他のクラスメイト達の班決めを待つことなく自動的に決定する運命にあるのなら、いま話しかけてさっさと決めてしまった方が時間の節約になるだろう。

 私がやる気のない彼らに近づき、「残りもの同士で頑張ろう」と声をかけることにした。

 断られる可能性もないではなかったが、最終的には誰かと班を組まないと必修科目の単位がもらえない。もう組む相手など見つかるはずもない今のクラスの状況で、その可能性はかなり低かった。実際、彼らは皆、二つ返事で了承してくれたので安心する。ただ、なんとなく妙な表情をしていたような気がするが……気のせいだろうか。

 そうして、私たちは他のクラスメイト達の邪魔にならないよう、教室の隅でぼそぼそと今後の方針を決めることにしたのだった。


 ◆◇◆◇◆


「じゃ、まず自己紹介から」


 私が議長よろしくそんなことを言うと、まず灰色の髪をした緑目の少女が話し出す。


「あ、あの、その前に……わたしなんかと班を組んでいいんですか?」


 彼女は少し焦り気味にそう言った。暗黒な雰囲気を出していた三人のうちの一人にしては声は可愛く仕草もいい感じである。撫でたい。

 それはともかく、いまさら何を言ってるんだこいつは。私はそう思ったのだが、意外にも他の二人も同感らしい。

 私の班に所属するのは彼女のほかに、金髪碧眼の女子にしか見えない天使風の少年と、それに黒目黒髪の非常に細い学者タイプの少年だ。

 彼らはそろって似たような言った。


「ぼくなんかと組んでくれる人がいるなんて思いませんでした……」

「俺もだ……」


 なんて暗い班なんだろう!

 今時、暗殺者だってもっと明るいやつが多いよ!


 そんなことを思うがあんまり仲良くなっていないこの段階で激しい突込みは避けるべきだろう。

 というかなんでそんなにネガティブなのか、ふと気になった。

 なので聞いてみる。


「どうしてみんなそんなこと思ってるわけ? 私たち余ってるから余り者同士で組めばいいと思ったんだけど……」


 そう言うと、「えっ、そんな理由だったの!?」という目で三人が私を見る。

 あれ、もっと他にしかるべき理由があるべきだったのだろうか。

 困惑して首を傾げていると、灰髪の少女が私に言う。


「あの……だったら、なおさら今からでもやめた方が……」

「どうして?」

「私の髪、灰色でしょう?」

「そうだね」

「……えっ、それだけなんですか!?」

「……?」


 ほかに何があるんだ!

 そう思ってると、残りの二人も同じようなことを言う。

 まずは金髪天使少年。


「僕のこと、ご存知でしょう?」

「知ってるよ。クラスメイトのアルイード君だよね。あだ名はアル君にしよう」

「……えっ、他には!?」

「ほかに? それはこれから知っていけばいいんじゃ……」


 呆然とする金髪天使少年。

 次に黒学者少年だ。


「俺のことは見れば分かるだろ?」

「うん。なんか賢そうだよね。確か基礎教養科目筆記学年一位のモーリス君だったっけ」

「……えっ、あっ、うん、まぁそうなんだが」


 そうして、私の反応に私以外の三人は顔を見合わせ、深くため息をついて、それからとてもうれしそうに笑ったのだった。


 ……え? 一体なに?


 ◆◇◆◇◆


 聞いて、あぁー、と思った。

 何がって?

 そりゃ我が班の構成員たちのことだ。

 あれから彼らは私に一般常識と言うか、自分たちが何を言いたかったのかはっきりと語ってくれたのである。


 つまりは――


「灰色の髪は精霊に愛された者の象徴?」

「はい……私、エルフなんですが……」

「エルフなら精霊魔法くらいみんな使えるでしょ?」

「はい。でもこの髪は問題があります。何と言うか……」


 灰髪少女がどう話そうかと困惑して頭を抱えていると、突然私に向けて風の刃が放たれた。

 まぁ、速攻無効化したのだが、ちょっとびっくりした。


「ご、ごめんなさい!」

「え、なんであやまるの?」

「私のせいだからです……」


 それから彼女は灰髪の意味を語った。

 つまるところ精霊に愛され過ぎた彼女は、精霊に強力に守護されてしまうのだという。

 彼女が少しでも感情を乱されると、それを察知した精霊はその乱れを引き起こしたと思しき対象を破壊しにかかるのだ。人やモノを問わずに、である。

 つまり今の風の刃は、精霊が私を殺そうとしたということで……。


「今まで随分大変だったんだね。それじゃ人に近づけないし」

「それだけですか!?」

「うん。まぁ、私は問題ないからさ」

「確かに問題なさそうですけど……危ないですよ、わたし」

「大丈夫大丈夫。これからよろしくね」

「は、はいっ!」


 そうして灰髪少女はちょっと涙した。どうやら体質ゆえにまともに友達が出来たことがないらしい。ただの体質だし、別に彼女はチートと言う訳ではない。私も友達になることは吝かではない。まぁだから今回は結構いい出会いなのではないだろうか。

 精霊は私も話が出来る。なので、これからはあまり無暗な力の行使はやめるようにお願い(・・・)しておいた。いずれは灰髪少女の力で御せるようになってもらいたいものだ。


 それから少年二人にも話を聞いたのだが似たり寄ったりだ。


 金髪天使少年はまずこの国の国王の子だという。ただ正妃の子ではなく、庶子である。しかし今現在この国にいる国王の子供で男子は少年ただ一人。しかも次期王位継承者にしか現れない痣が少年の背中にはあるらしく、かなり身の危険があるのだという。必然的に近くにいるとまとめて消される可能性もあって危ない、という話をされたのだが、やっぱり私には問題ない話だ。そういうと少年は泣いた。そしてよろしくお願いされ、さらになつかれてしまった。彼もちょっと特殊な生い立ちではあるが、チートではない。別に痣があるだけで強力な魔力の持ち合わせも強い剣術の研鑽の歴史もないのである。だからやっぱり彼と班を組み友達になることに問題はない。


 黒学者少年は、その黒髪黒目が非常に問題らしい。曰く、黒目黒髪というのは闇の申し子の証であり、魔王が好んで使うと言う闇の魔法をその身に宿す忌子なのだという。だから生まれた時点でほとんど間引かれるのが普通なのだが、黒学者少年の母親は一生懸命愛情を注いで育ててくれ、学費まで捻出してくれたらしい。ちょっといい話が挟まったがそんなわけで黒目黒髪は通常はかなり忌避される存在なのだそうだ。よくよく考えれば生まれてこの方、人間に黒目黒髪は見なかったな、と思った。そう言う事情なら確かに見なくても不思議はない。しかしそんな事情はやっぱり私には関係ない。もっというと私も闇の魔法使える。黒目黒髪ではないけれども。そういえば人間は髪にその魔力特性みたいなのが出るとかいう話をどこかで聞いたことがある。魔物は全くそんなことはない。ともかく、そんなわけで彼が闇の魔法使いでも問題ない。平凡な女学生Aが使える魔法なのだから全然問題ないのだ。そう言うと、黒学者少年は初めて仲間を見つけたような目をして泣き出した。なんというか男泣きであり、クラスメイト達が何が起こったのかと教室隅の私たちに注目していた。彼以外に他の二人も私の膝の上で泣きっぱなしであったし、まぁ、かなり奇妙な光景ではあっただろう。班決め程度で班の4分の3が泣いているのである。


 しかし、この自己紹介&コンプレックス紹介があったからこそ私たちはお互いを深く知ることができた。

 結構仲良くなれたと思うし、これから背中を任せあうことのできる信頼も気づけたと言えるだろう。

 これからなかなかに楽しそうな学生生活を送れそうである。


 ただ、ひとつ問題があるとすれば、全員特殊な力を宿しているとはいえ、おそらく弱いと言うことだ。

 これはあくまで戦闘訓練の班決めなのだから、それはまずいだろう。

 少なくともソロでレッドドラゴンくらいは狩れるようになってもらいたいところだが……。


 私は彼らをどう育てていくべきか、考える。

 しかし明確な方針は特に決まらずにぼんやりしていたところ、突然、教室につんざくような哄笑が教室に響いた。

 驚いてその笑い声の方向を見ると、どこかで見たことあるような顔つきの少女が教室の入り口に立っていた。


 誰だっけ、あれ。


 そう思って見ていると、少女――金髪碧眼の華やかな顔のつくりをしている――は、あの迫害系チート少女の班に向かって近づいて言った。


「あらぁ? どうして魔法学院(・・・・)に魔力なしがいるのかしらぁ?」


 どこかで聞いたような口上に、コンプレックス兄貴を思い出す。

 なるほどあれは……、


「……何かご用ですか、お姉さま(・・・・)


 迫害系チート少女の姉だ。

 二人はその一瞬で教室内の空気を氷河期よりも冷たく凍らせて、話を続ける。

 我が班の三人はと言えば、怯えて私の後ろに隠れていた。可愛いが……弱い子だ。まぁ、これから鍛えるからいいけども。


「あらあらあらぁ? もしかしてもしかして、そこにいるのはお兄様かしらぁ?」


 コンプレックス兄貴を見つけた高慢そうな姉はいやらしく笑ってそう言う。


「何の用だ。俺はもう、こいつをどうこうする気はないぞ。妹なのだから」

「あらまぁ! おどろきねぇ。あれほどこの娘を嫌ってたのに……あら? もしかして籠絡されちゃったのかしら? それでこの娘と班を? お兄様もそういうのには弱かったのね! うふふふふ!」

「お前っ!」


 あれだけいじったのにちょっと短気なところは治ってないらしいコンプレックス兄貴。しかしそんな兄を迫害系チート少女が押しとどめる。そして彼女は、高慢姉を睨みつけた。


「……生意気な目ね。まぁ、いいわ。このクラスなら……」


 姉はそう言ってクラス全体を眺める。


「きっと対抗戦で勝ち上がるのは貴方たちね。そのときに、しっかりと身の程を教えてあげるから、楽しみにして?」


 うふふふふ!


 そう言って、高慢姉は去っていった。

 残されたクラスメイト達は嵐のような展開に呆然としていたが、迫害系チート少女が「姉がご迷惑をおかけして……」と謝るとすぐに元の空気に戻る。いろいろ事情があるのは魔法学院生の常らしく、それほど異常事態だとは見られていないらしい。


 しかし、それにしても迫害系チート少女。問題が尽きないなぁ。

 やっぱりチートだからなのか。そういう運命なのか。


 でも問題はあんまり起こってほしくないのである。だって私の平凡な学院生活が乱されるじゃないか。せっかく友達も出来て、班もいい感じに決まったのにさ。

 やっぱりあの姉もいずれにょーをすべきか……。


 いや、今のところはまだ彼女は迫害系チート少女に宣戦布告をしただけだ。これで精神を削るのはさすがにやりすぎな気がする。これからおかしな行為に出たときはにょーをためらうつもりはないのだが……。

 まぁ、ともかく、今のところは問題の防止に動くことにしようか。

 彼女は言っていた。対抗戦で迫害系チート少女を叩き潰すと。

 対抗戦はトーナメントである。

 つまり、私たちの班が迫害系チート少女か、高慢姉のどちらかをトーナメントで両者がぶつかる前に叩き潰せば問題は起きない。私はそう判断した。


 ふっふっふ。見ているがいい。ドラスニル公爵家姉妹たちよ!

 お前たちの衝突は私たちの班がぎったぎたに叩き潰してやる!


 ちなみに目立たないように頑張りますよ。私は。


 残り三人が頑張るんですよ。うん。


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