第4部 -傷刃-
傷刃
羽炎が手を振り下ろした。
すると鬼猿がそれに答えるように自分の槍を前に振った。
全軍が動き出す。さっきは休憩のために急いで上がってきた丘をいまはゆっくりゆっくり歩き出していた。
すると敵も気づいたのであろうか、こちらに向かってゆっくりとしかし確実にこちらに軍を向けてきた。
羽炎は自分の手が震えているのがわかった。しかし恐怖からではなかった。
「血はあらそえぬ、か・・・」
羽炎はぼそりとつぶやいた。もう片方の手で震えた手を押さえると深呼吸をした。
「最炎部隊は敵の左翼から攻めよ!」
そう叫ぶと最炎部隊は走り出す。
太陽が降り注ぎ羽炎軍の槍をきらり、と光らせていた。
「いくぞー!」
羽炎が叫んだ。叫ぶと同時に馬を走らせた。
羽炎は風の中を走っていた。馬の息は聞こえるのに不思議と周りの音は聞こえなかった。
みんなついてきているのか、そう思って後ろを見ると鬼猿がいた。
「あわてすぎだ羽炎!歩兵はそんなに速く走れない!戻れ!」
確かに歩兵はあわてた様子でついてきていた。
「馬鹿者が!指揮者として失格だ!兵とともに動かんと死ぬぞ!」
羽炎にはなぜこんなに鬼猿が怒っているかが理解できなかった。
歩兵の先頭に戻ると着実に歩を進めていった。
敵との距離は500メートルほどになった。
不意に矢が飛んできた。ヒュッと羽炎の耳元をかすめるとすぐ後ろの兵に刺さった。
その兵はウッというとうつぶせになって倒れた。
じわり、と血が地にひろがっていた。
何を考える間もなく鬼猿が叫んでいた。 「突撃!」
わぁぁ!と兵が叫びながら走っていく。
羽炎もその言葉につられるように馬を走らせ敵陣につっこんでいた。
敵がくる。羽炎は体中の血が熱くなっていた。
敵が槍を突き出す。
顔を横に振ってかわすと剣を振り下ろした。
敵から赤い液体が流れ出した。
その液体が体にかかる。
羽炎には自分が何をやっているのかわからなくなってきていた。ただ無性に前にいる「人」を斬っていた。
ふいに横から最炎隊がつっこんできた。いっきに敵の勢いが弱まるのがわかる。
気が付くと目の前に敵はいなかった。ただ遠くで逃げている後ろ姿が見えた。
後ろで味方の歓声が上がった。期待に応えようと後ろを見たときだった・・・
地獄だ・・・。
地獄が広がっていた。積み上がる死体、味方の兵がまだかろうじて息がある兵に槍を突き刺しとどめを刺していた。
みんなは喜んでいるようだったが、なにをいっていいかわからなくなっていた。
横から鬼猿がきた。
「わかったか、これが戦だ。」
そういうと鬼猿はつばをはいた。
羽炎は胸に苦い物がこみ上げるのを感じた。それをやっとのことでこらえると、剣を突き上げた。
兵の血塗られた剣や槍が続いて上がった。
変わらぬ暑さでいる太陽の光でそれらはかわらず輝いていた・・・。
久しぶりの投稿です。(^^)
いろいろあってなかなかすすみませんでした。
これからかなり劇的なことが起こってきます。
おたのしみに〜