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異世界ナースシリーズ

異世界転移ナースの「アサーティブ・ザマァ」〜王太子が『おもしれー女』と抜かしたので、DESC法で社会的に抹殺してみた〜

作者: 紺木羽ノ歌
掲載日:2026/09/05


「クッ……! 私の聖なる祈りで魔物を消し飛ばしたっていうのに、『おもしれー女』の一言で済ませるつもり!? 語彙力死滅してんのかこの金ピカ!!」


異世界転移した私、アカリは、目の前で前髪をかき上げている王太子・レオナルドを指さして叫んだ。ここは魔物が跋扈し、魔法が日常にあるファンタジー世界。私は聖女として召喚された…。

目の前にいるのは「壁ドン」と「顎クイ」を標準装備した、脳内がお花畑な自称・超絶イケメン王太子である。


レオナルドは、夕日に照らされた金髪をキラキラと輝かせ、自信満々のドヤ顔でこちらを見ている。

「フッ、俺にここまで噛み付く女は初めてだ。……面白い、お前を俺の婚約者にしてやろう。光栄に思え」

「いや、断る!! 誰がその『10年前に絶滅した少女漫画のテンプレート』みたいなセリフを吐く男と結婚するか! 鏡見てこい、その顔面の良さが台無しなんだよ! そもそも、あんたのその態度は相手に対するリスペクトが欠如してるんだってば!」

周囲の騎士たちが

「あ、王太子殿下があんなにボロクソに……」

「でもアカリ様の言ってること、一理あるよね……」とヒソヒソ。私はイライラを抑え、深く息を吐いた。過酷な看護師生活で培った「モンスターペイシェント対応」のスキルが、今まさに火を噴こうとしている。

「いい、殿下。あなたのその振る舞いは、アイ・メッセージ(I Message)になってないのよ。『俺がこうしたいから、お前はこうしろ』。それはただの押し付け。対等な人間関係を築く気があるの?」

「アイ……メッセージ? 何だそれは、新しい攻撃魔法か?」

レオナルドが首を傾げる。ダメだ、この男、心理的安全性の「し」の字も知らない。


私は懐から、魔導書……ではなく、分厚い「監査資料風のファイル」を取り出した。実はこの日のために、私は城内の侍女たちや、彼に虐げられてきた若手騎士たちと「秘密のカンファレンス」を重ねてきたのだ。

「レオナルド殿下。あなたが『おもしれー女』とニヤついている間に、私はあなたの裏金ルート、民衆への不当な重税計画、そして……夜な夜な自作している『俺様かっこいいポエム集・全12巻』を全回収・分析済みです」

レオナルドの顔からスッと血の気が引く。

「なっ……なぜそれを! 隠し金庫の鍵は、俺の腹筋の溝に隠していたはず……!」

「看護師なめんな! 患者の変化を見逃さない観察眼と、深夜のナースコールを捌き続ける情報処理能力、そしてドロドロの人間関係で鍛えられたメンタルは最強なんだよ! 特にあなたのポエム第8巻、『俺の瞳はブラックホール、吸い込まれたら最後、君は愛の特異点』……これ、文学的テロリズムでしょ」

「やめろおぉぉ!! それを読み上げるのは死罪に値するぞ!!」

レオナルドが耳まで真っ赤にして悶絶する。だが、ここからが本番だ。私はアサーティブ・コミュニケーションの極意、DESC法を発動させた。


私はスッと背筋を伸ばし、クリニカルパス(診療計画書)を提示するかのような冷静なトーンで告げた。


★D(Describe:客観的事実の描写)

「殿下。あなたは現在、合意のない婚約を私に強要し、かつ、政治的な不正を働き、さらには公費でポエム集を豪華装丁で自費出版しようとしています。これは事実ですね?」

「うっ……事、実だ……。しかしあれは、後世に俺の輝きを……」

★E(Explain:主観的な気持ちの説明)

「そんな自分勝手な振る舞いを続けられると、私はあなたをリーダーとして信頼することができません。正直、同じ空気を吸うだけで血圧が200を超えそうです。非常に不快ですし、あなたのポエムのセンスには正直、鳥肌が止まりません」

「そこまで言う!? 俺、一応この国の第一王子なんだけど!?」

★S(Suggest:具体的な提案)

「そこで提案です。今すぐ私への求婚を撤回し、不正に得た資金を全額、平民の医療費助成に回してください。そして、そのポエム集は広場の焼却炉でキャンプファイヤーにしましょう。代わりに、あなたは基礎から『他者への配慮』と『リーダーシップ研修』を再受講してください」

「し、焼却⋯?⋯⋯リー⋯研修?」

★C(Choose:選択と結果の提示)

「もしこの提案を受け入れるなら、ポエムの内容は墓場まで持っていきます。でも、拒否するなら……明日の朝、この国の全家庭にポエム第3巻『俺の吐息は春の嵐、君の心はたんぽぽの綿毛』が魔法放送で朗読されます。さあ、どっち?」

「……。……。受け入れます。全部やりますから、ポエムだけは、その『たんぽぽ』だけは流さないでくださいぃぃぃ!!」

レオナルドはついにその場に泣き崩れ、豪華なマントを泥で汚しながら「ごめんなさい」を連呼した。


――数ヶ月後。

王太子の不正は「聖女の適切な指導」により是正され、国はかつてないほどの活気に満ちていた。レオナルドは毎日、私に「本日の進捗報告」と「アサーティブな反省文」を提出するパシリ……もとい、誠実な助手へと生まれ変わった。

「アカリ……。今日は君の好きそうな、隣国の古文書館で見つけた『伝説の魔法少女(異世界版アニメ)』の設定資料集を手に入れてきたよ……。これで、その、ポエムのバックアップも消去してくれるかな?」

「声が小さい! 復唱しなさい! あと、その無駄にかっこいい立ち姿は職場の心理的安全性を損なうから禁止! 早くそれを資料室に運んで!」

「はいっ、アカリ様!!」

私は、魔道具で再現した冷えたコーラを飲みながら、刺繍途中の「パンケーキ柄のハンカチ」を手に取った。

「ふふん、やっぱり自由は最高。さて、次は魔法技術を応用して、異世界にVRゲーム機でも作ってもらおっかな」

ナースの休日(異世界版)は、これからが本番である。


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