第七話 信長の軍議
※この回から安土側の視点が入ります。
安土城・本丸。
信長の軍議が続いていた。
議題は四国。長宗我部元親をどう扱うか。
柴田勝家が口を開く。
「元親め、調子に乗りおって……ここは一気に叩くべきかと」
丹羽長秀が続く。
「しかし、急な方針転換は兵の負担も大きいかと……」
その時だった。
廊下の向こうで足音が響いた。
襖が勢いよく開く。
家臣が膝をついた。
「信長様! 至急の報せにございます!」
勝家が眉をひそめる。
「何事だ」
家臣は震える声で言った。
「……将軍家より書状が……朝廷、大寺院、公家へ……同時に回りました」
軍議の空気が止まった。
勝家が低く唸る。
「将軍が……政治に口を出すとは」
長秀が眉を寄せる。
「面倒なことになりましたな……」
その時、控えめに座っていた男が口を開いた。
羽柴秀吉。
秀吉は、にこりと笑った。
「面白うございますな」
「将軍様は、戦をしておられませぬ」
秀吉は軍議を見回した。
「だが──信長様の軍議を、止めてしまわれた」
勝家と長秀が同時に秀吉を見る。
その笑みは、どこか底が知れなかった。
信長は黙っていた。
誰も喋らない。
軍議の間に、重い沈黙が落ちる。
誰も視線を上げられない。
そして──
「……ほう」
信長の声は低かった。
だが、その一言で空気が凍る。
信長はゆっくりと顔を上げた。
「将軍が、動いたか」
勝家も長秀も息を呑む。
だが信長は怒らない。
むしろ──笑った。
「戦をせずに戦うか」
信長は笑った。
「それでこそ──将軍だ」
秀吉は笑ったまま思う。
(将軍は危ない)
(信長様と同じだ)
(未来を見る人間や)
(だからこそ──危険だ)
信長は立ち上がった。
「四国は急がぬ」
勝家が驚く。
「な、信長様……!?」
信長は笑った。
「将軍と遊ぶ」
その言葉に、誰も反論できなかった。
信長は天守へ向かって歩き出す。
家臣たちは道を開けた。
天守最上階。
信長は京の方角を見た。
風が吹き抜ける。
「将軍」
「天下を動かす気か」
信長は笑った。
「ならば──見せてみよ」
その笑みは、戦国の怪物が、初めて対等な相手を見つけた時のものだった。
信長側の動きも始まりました。
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