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第五話 信長は止まらない

「……信長公は、止まらない」


光秀は、自分の手が震えていることに気づいた。

信長の命令が届いてから、胸の奥が落ち着かない。


その時、急使が駆け込んできた。


「明智様! 至急の御伝令にございます!」


光秀は巻物を受け取り、すぐに開いた。


「……なぜだ」


誰に向けた言葉でもない。


「つい先日まで、信長公は元親殿を取り込むと仰っていた……」


声が途中で止まる。

光秀自身も、この命令の意味を理解できていない。


義昭が静かに問う。


「何があった」


光秀は巻物を見つめたまま言った。


「四国……」


「長宗我部元親との交渉が……」


さらに間を置いて、光秀は言った。


「武力制圧に、切り替わりました」


藤孝が息を呑む。


「な……に……?」


光秀は震える声で続けた。


「信長公は……予定を変えられたのです」


義昭は目を細めた。


「理由は?」


光秀は首を振る。


「分かりませぬ。ただ……信長公は、速い。あまりに速い……」


義昭は静かに言った。


「十兵衛。信長は未来を作る男だ」


光秀は顔を上げる。


「だが──未来を作る者は、時に“今”を壊す」


光秀の瞳が揺れた。


「……壊す……?」


「速い支配は、必ず歪む」


光秀は息を呑んだ。


「……将軍様。信長公は……本当に……」


義昭は光秀の言葉を遮らず、ただ見つめた。


光秀は小さく呟いた。


「信長公は……止まらない」


その声には、恐怖はなかった。

ただ──理解だけがあった。


義昭は静かに言った。


「十兵衛。そなたは、信長公の速度に呑まれる」


光秀は目を閉じた。


「……分かっております」


「だが、そなたはまだ壊れておらぬ」


光秀は目を開いた。

義昭は続けた。


「だからこそ、私は動く」


光秀の瞳が揺れた。


「……将軍様……?」


義昭は空を見上げた。


「四国が揺れる。堺も揺れる。朝廷も揺れる」


「そして──」


「歴史が、少しだけ軋む」


光秀は息を呑んだ。


義昭は静かに言った。


「十兵衛。信長の速度は、そなたを殺す」


光秀の喉が震えた。


「……将軍様……」


「だが私は、そなたを救う」


光秀は言葉を失った。


遠くで、京の鐘が鳴った。


光秀はその音を聞きながら、胸の奥で何かが崩れ、そして生まれ変わるのを感じた。


光秀はもう一度呟いた。


「信長公は……止まらない」


だが、その声はもう震えていなかった。


恐怖ではない。

絶望でもない。


覚悟だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


第一章「将軍の覚醒」はここまでです。

次話から、将軍の書状が実際に戦国の盤面を動かし始めます。


もし少しでも先が気になると思っていただけたら、

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