表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第二話 信長という革命

「……信長公に、殺される……?」


光秀の声は震えていなかった。

だが──その瞳だけが揺れた。


誠実で、理性的で、常に冷静な男。

だからこそ、私の言葉を否定できない。


「将軍様……そのようなこと、あり得ませぬ。私は信長公に忠義を尽くして──」


「忠義では、救えぬ未来もある」


光秀は言葉を失った。


理解できない。だが、完全には否定できない。

信長の“速度”に、光秀自身が不安を覚えているからだ。


その時だった。


空気が変わった。


誰も、まだ何も言っていない。

それでも──部屋の全員が理解していた。


──信長だ。


廊下の向こうから、“音のない圧”が迫ってくる。


侍女が震え、藤孝がわずかに身構え、光秀は一瞬だけ息を止めた。


襖が、音もなく開いた。


「十兵衛。そこにいるか」


その一言だけで、場の支配が変わった。


光秀は即座に膝をつき、深く頭を垂れる。


「はっ……信長公」


信長はゆっくりと部屋に入ってきた。

その動きは静かだが、空気が裂けるような緊張を伴っていた。


私は理解した。

この男は──人ではない。


「将軍」


信長の視線が、私を射抜いた。

未来だけを見ている目。炎のように熱く、氷のように冷たい。


「近頃、そなたの周囲が騒がしいと聞く」


「……左様でございますか」


「将軍というものは、天下の役に立つのか」


その言葉は、問いではなかった。

断罪だった。


光秀がわずかに顔を上げる。

藤孝が息を呑む。


信長は続けた。


「役に立たぬものは、消える」


そして──一拍置いて、さらに言った。


「だが、役に立つ者は……天下を動かす」


その一言で、信長が“暴君”ではなく“革命家”であることが、場の全員に突き刺さった。


光秀の肩が震えた。

藤孝は目を伏せた。


信長は光秀に視線を向ける。


「十兵衛。そなたの働きは認めている。だが──遅い者から死ぬ。それだけだ」


光秀の喉がわずかに動いた。


「……肝に銘じます」


信長は満足したのか、踵を返した。

その背中は炎のように揺らめき、歴史そのものが歩いているようだった。


襖が閉まる。


空気が、ようやく戻った。


光秀は深く息を吐いた。

藤孝は額の汗を拭った。


信長が去ったあとも、空気はまだ重かった。


──この男は、この国を変える。

だが、その速度は人を殺す。


光秀を。そして、歴史を。


「十兵衛」


光秀が顔を上げる。


「そなたは、このままでは信長公に呑まれる。だから私は──そなたを救う」


光秀は言葉を失ったまま、私を見つめた。


私は、義昭の手を強く握った。


「信長は未来を作る。だがその未来は、そなたを殺す。ならば私は──歴史の形を変える」


蝋燭の炎が揺れた。


そして私は理解した。


この男と戦う。

刀ではなく──歴史で。

読んでいただきありがとうございます。


もし続きを読んでみたいと思っていただけたら、

ブックマークをいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ