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【休載中】(初稿版)本能寺は止めない、だが光秀は死なせない 〜未来を知る将軍・足利義昭、戦国を動かす〜  作者: 細川 雅堂
第四章 歴史の軋み

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第十六話 光秀の苦悩

京の夜は静かだった。

だが──光秀の胸は静まらなかった。


将軍の居城の廊下を、光秀は一人で歩いていた。

信長が去った後の空気が、まだ重い。


(信長公)

(将軍様)


二人の姿が、脳裏から離れない。

光秀は歩みを止めた。


信長は速い。

合理的で、迷いがない。


未来のためなら、既存の壁をすべて壊す。

──革命の人。


義昭は──

──構造の人。


現代の知識を持ち、政治を知り、

人を動かし、国を動かす。


光秀は目を閉じた。


(どちらも正しい)

(だからこそ──苦しい)


胸の奥が、ギリリと締めつけられる。


信長の革命は必要だ。

戦国を終わらせるには、あの速度がいる。


だが──義昭の政治も正しい。

乱れた国を整えるには、あの構造がいる。


(どちらも必要だ)


だが──


(両方は共存できない)


光秀は壁に手をついた。


(信長公の速度は、将軍様の構造を壊す)

(将軍様の構造は、信長公の速度を止める)


(どちらも正しいのに)

(どちらも、相手を許せない)


光秀は深く、重い息を吐いた。

……苦しい。


「光秀」


振り返ると、藤孝が立っていた。


「……藤孝殿」


藤孝は静かに歩み寄る。


「信長公と将軍様」

「どちらが正しいと思う」


光秀は答えられなかった。

だが、嘘はつけない。


「……どちらも、正しいと」


藤孝は目を閉じた。


「そうだ。正しさが二つあれば、世は割れる」


光秀は息を呑んだ。


藤孝は、光秀の肩に静かに手を置いた。


「お前は両方を見すぎる」

「だから苦しい」


光秀は目を伏せた。


藤孝が去った後、光秀は夜空を見上げた。

京の空は、どこまでも静かだ。


だが、その静けさの下で、

二つの巨大な力が、決定的にぶつかろうとしている。


光秀は、それを止められない。


(この二人が戦えば)

(戦国が壊れる)


(そして)

(私は──その間にいる)


光秀は、はっきりと理解した。


(逃げ場はない)

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