第十五話 信長と将軍の怪物対決
京。
将軍の居城。
朝の京は静かだった。
だが──その静けさは突然破られた。
「明智様……!」
息を切らした家臣が言う。
「信長公が……来られました」
光秀の胸が跳ねた。
(将軍様の居城へ)
(信長公が来るなど……)
(これは……戦だ)
(刀ではなく)
(未来の戦いだ)
藤孝が息を呑む。
「……本当に来られたか」
光秀は喉が乾くのを感じた。
廊下の向こうで足音が止まった。
音は小さい。
だが──空気が変わる。
重く、冷たく、鋭い。
信長が姿を現した。
何もしていない。
ただ歩いているだけ。
だが、居城の空気が押し返される。
藤孝が息を呑む。
光秀は理解した。
(このお方は……)
(人の圧ではない)
信長は光秀を一瞥した。
その目は、未来だけを見ていた。
襖が静かに開く。
義昭が現れた。
信長を見る。
そして──一歩も引かない。
光秀は震えた。
(このお方も……)
(怪物だ)
二人が向かい合った瞬間、空気が張り詰めた。
誰も息をしない。
信長が初めて口を開いた。
「将軍」
「天下をどう見る」
義昭は即答した。
「人が動かす」
信長は笑った。
「違う」
「力だ」
義昭は微動だにしない。
「違う」
「構造だ」
義昭は続けた。
「人を動かす構造が」
「世界を動かす」
光秀の背筋が凍った。
(この二人は……)
(同じものを見ている)
(だが、方法が違う)
信長は世界を壊す。
義昭は世界を書き換える。
光秀は理解した。
(どちらも正しい)
(だから──ぶつかる)
二人は、同じ未来を見ている。
だが──そこへ至る道が違う。
光秀は胸の奥が痛くなるのを感じた。
(この二人が争えば……)
(戦国は……壊れる)
信長は笑った。
「面白い」
「将軍」
「戦だな」
義昭は静かに言った。
「戦ではない」
「政治だ」
光秀は震えた。
(怪物が二人)
(戦国が──壊れる)
そして光秀は理解した。
(私は)
(この二人の間にいる)
ここまでが第三章「怪物たちの政治」の山場です。
信長。
将軍。
そして、その間にいる光秀。
ここから物語はさらに不穏になります。
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