第十三話 将軍の包囲網
京。
義昭の居城。
四国問題の余波は、静かに京へ広がっていた。
光秀が眉を寄せる。
「……信長公は必ず動きます」
藤孝が続ける。
「将軍様……どうされます」
義昭は静かに言った。
「慌てるな」
「信長は速い」
義昭はゆっくりと口を開いた。
「信長は軍を動かす」
光秀が息を呑む。
義昭は続けた。
「だが将軍は──」
「人を動かす」
そして、
「天下を動かす」
光秀の目が揺れた。
藤孝は深く頷く。
「……確かに。将軍家の権威は、いまだ健在にございます」
義昭は微笑んだ。
「ならば使うだけだ」
義昭は指を折りながら言った。
「将軍が動かせるものは多い」
「朝廷」
「公家」
「寺社」
「商人」
「大名」
光秀は息を呑む。
「……これを、同時に……?」
義昭は頷いた。
「信長の軍は速い。だが、速いものほど──」
「歪む」
さらに一行。
「歪んだものは、止まる」
光秀の瞳が揺れる。
「……信長公の軍が……止まる……?」
義昭は静かに言った。
「止める必要はない」
「遅らせればいい」
義昭は静かに筆を取った。
「藤孝」
「はっ」
「朝廷へ文を出せ。四国の件、武家のみで決すべきにあらず、と」
藤孝が深く頷く。
義昭は次の紙を取る。
「公家へも送れ。特に権門の家へ」
さらに筆を走らせる。
「寺社へ。四国の乱は天下の安寧に関わる、と」
光秀が息を呑む。
義昭は最後の紙を取った。
「堺へ」
「宗久に伝えよ」
光秀の喉が震えた。
「……将軍様……」
義昭は静かに言った。
「信長は軍を動かす。だが将軍は──国を動かす」
数日後。
藤孝が駆け込んできた。
「将軍様!」
「朝廷より返書が。四国の件、慎重に扱うべしと」
光秀が息を呑む。
藤孝は続ける。
「寺社も動きました。興福寺、比叡山……いずれも『乱の拡大を憂う』と」
さらに一通。
「堺より。宗久がこう申しております──“将軍様の御意、承知した”と」
光秀は震える声で言った。
光秀は理解した。
「……天下が……」
義昭は頷いた。
「動いたな」
光秀は義昭を見つめた。
「将軍様は……戦っておられる」
義昭は首を振った。
「戦ではない」
「政治だ」
義昭は静かに言った。
「歴史は刀では動かぬ」
「人が動かす」




