第十二話 秀吉が将軍を恐れる
安土城・本丸。
軍議を終えた広間には、まだ熱が残っていた。
勝家が腕を組んで吐き捨てる。
「将軍など……今さら何をする気だ」
長秀が慎重に言う。
「朝廷と寺社が動けば面倒になります。信長様といえど無視はできませぬ」
秀吉は黙って聞いていた。
(分かってへん……)
(将軍様は戦う気や)
ただし──刀ではなく。
堺。
朝廷。
寺社。
四国。
どれも軍を動かしていない。
だが天下は揺れた。
(戦をせずに戦う)
(それが一番怖い)
勝家が秀吉に声をかける。
「秀吉。お前はどう見る」
秀吉は軽く肩をすくめた。
「さぁ……わてのような下っ端には、よう分かりませぬ」
軽い声。
だが、その目だけは鋭かった。
(信長様と──同じや)
(未来を見る人間や)
その時──廊下の空気が、ふっと重くなった。
誰も振り向かない。
だが──全員が理解した。
信長が来た。
秀吉は即座に膝をつく。
「猿」
「はっ」
信長の声は静かだった。
「将軍をどう見る」
広間が静まり返る。
秀吉は少しだけ考えた。
そして答えた。
「恐ろしいお方にございます」
勝家が驚く。
長秀が息を呑む。
秀吉は続けた。
「信長様は未来を速く作られる」
「将軍様は未来の形を変えられる」
信長は笑った。
その笑みは、理解の証だった。
「猿」
「将軍を見ておけ」
「はっ」
信長が去る。
空気がゆっくり戻る。
秀吉は立ち上がった。
そして、小さく呟いた。
「将軍は」
「敵に回すと面倒だ」
秀吉は笑った。
「だが──面白い」




