第8話 クロとミニアの初共闘
夜の荒野は静かに沈み、冷たい風だけが砂を運んでいた。
「それ」は突然、視界の端に現れた。砂煙が舞い上がる。
複眼が瞬時にその原因を捉える。
(……来たな)
岩場の向こうから、複数の影が走ってくる。四足の獣。鋭い牙。薄茶色の瞳。
(……キツネっぽい魔物だな。群れで動いてるのか。)
6体……いや、もっといる。散開しながら、こちらに向かってくるようだ。
1体だけなら余裕で倒せそうな魔物だが、連携されると非常に厄介だ。
ミニアが震えて俺の脚の後ろへ隠れる。
(怖いよな……でも)
魔蠅として進化した今の俺は、もうただ逃げるだけでは終われない。
(守るって、決めたからな)
「ガゥッ!」
「ギャアッ!」
キツネ型魔物たちが俺たちを囲むように広がった。砂を掘り、牙を剥き、逃げ道を塞ぐ。
小さなミニアは完全に怯えている。脚が震えて動けなくなっていた。
(俺が前で止める……)
大きく羽を震わせ、「威嚇音」を出す。
ブブブブブブッ!!
進化した魔蠅の羽には、少しだけ毒と腐敗の魔力が混ざっているようだ。
俺は、それをできる限り散布する。それが分かったのか、キツネ型魔物たちがわずかに後ずさりをした。
(でも、これで怯むなら苦労しねぇよな)
しかし、そのうちの1体が勢いよく飛びかかってきた。
(来い!)
黒い魔力弾を撃つ。
ピシュッ!
「ギャッ!?」
命中。そして、毒や腐敗でもがき苦しみながら、息絶えた。
【経験値+5】
だが、その隙にもう1体が背後からミニアへ飛びかかった。
(ミニア……ッ!!)
ミニアは身体を丸めるようにして震えていた。
しかし……小さな顎の先端が、かすかに光っている。
(あれ……?)
キツネ型魔物がミニアに襲いかかるその瞬間――――
ミニアは反射的に、その顎で相手の脚を噛みついた。
「ギャンッ!?」
(ミニア……!?)
ミニアの顎に微弱な魔力が宿っているのが見えた。
小さくて頼りないが、それは間違いなくミニアの「攻撃」だった。
(ミニア、やるな!)
ミニアに噛みつかれ怯んだその隙に、俺は毒&腐敗液をまき散らす。
ビシャァッ!
「ギャアアッ——!」
その個体は大きな断末魔をあげ、絶命した。
【経験値+5】
しかし、まだ7体も残っている。
「ガルルルル……!」
(完全に囲まれたな……)
俺はミニアの前に立つ。ミニアは俺を信じているのか、背中にぴたりとついてきた。
(安心しろ、ミニア。こう見えて、もうただのハエじゃないからな!)
3体が同時に飛びかかってきた。
(上から1、右から1、左後ろから1……)
複眼のおかげで、全方位を把握することができる。俺は高速で、魔力弾を顔面に撃ち込んだ。
ビシャァッ!ビシャァッ!ビシャァッ!
「「「ギャアアッ——!」」」
(よし、成功したぞ!)
複眼で相手を正確に捉えながら、素早く魔力弾を放つことで、一気に3体を倒すことに成功した。
【経験値+15】
(最後は……)
俺は魔力袋を全開にして、黒い魔力を砲弾として凝縮した。
(くらえっ!!)
――ドンッ!
「「ギャアアアッ——!」」
爆ぜるように黒い魔力球が炸裂し、2体をまとめて吹き飛ばした。
(もういっちょっ!!)
――ドンッ!
「「ギャアアアッ——!」」
続けざまにもう一発発射し、残りの2体も遙か後方にかっ飛ばした。
地面に叩きつけられた、4体は痙攣したのち、そのまま動かなくなった。
【経験値+20】
(ふぅ……なんとかなったな)
これが、魔蠅クロと小蟻ミニアの初めての共闘だった。
***
戦いが終わり、ミニアの方を振り返ると、小さな蟻は俺を見上げ、コトンッと頭を下げた。
あの一瞬の噛みつき。小さな体、小さな魔力で立ち向かった胆力。
(……ミニア、お前は絶対に強くなるぞ!)
ミニアは俺の足元に寄り添い、小さく、しかし力強く顎を鳴らした。
俺は、倒れたキツネ型魔物の死体からどんどん魔力を吸収した。経験値もかなりたまってきたようだ。
【現在の経験値:100】
俺が魔力吸収をしていると、ミニアは死体を顎で噛み砕いて食べ始めた。
(えっ、ミニアって魔物を食べるの……!?)
ミニアは美味しそうに死体の肉を頬張っていた。追い詰められていた甲殻魔物は食べていなかったので、顎の強度がまだ弱いのかもしれない。
(俺と同じような条件だったら、ミニアもこれで経験値を稼いでいるのか……?)
魔力吸収と食事(?)が終わり、俺たちは身を寄せ合って深い眠りについた。
俺の複眼は脳が眠っている間も一部機能している。もしもの時はすぐに対応できるから、非常にありがたい特徴だが、目を開けたまま寝てるようで、少し気持ち悪い……。
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