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第4話 新たな種族へ

――カシ……カシン……。

硬い殻の割れる音が、暗闇の静寂に落ちてきた。

自分の体のどこかが、外へ押し出されようとしている。

(……終わった……のか?)


長いようで短かった繭の時間。深い眠りから覚めると、身体のあちこちが焼けるように熱く、溶けて、作り直されていく奇妙な感覚が続いていた。

そして今、殻の隙間から冷たい空気が流れ込んできている。

(もう……出ても大丈夫だよな)


意識を集中させ、殻に力を込めた。

――パキン!


ひびが走り、そのまま殻が割れた。俺は、ゆっくりと外へ身体を滑らせる。

朝焼けの荒野。赤い空が視界いっぱいに広がり、

俺の外骨格を金属のように照らした。

(……うお……!)


まず気づいたのは 視界の変化 だった。進化前よりもさらに広く、さらに鮮明に。

遠くの獣の影も、風に舞う砂粒も、全部が“同時に”明確に見える。

(複眼……めちゃくちゃ強化されてる!)


次に、自分の身体を見下ろす。

(体……でけぇ……!)


サイズは、進化前の倍以上。外骨格は黒く光り、ところどころに紫の紋様のような魔力の線が走っている。羽も大きく、鋭く、風を巻く力が格段に上がっている。

ブゥゥゥン……

(おぉ、音まで違うな)


低く、重く、力強い羽音。もはや普通のハエではないことは明らかだ。

(完全に魔物だな。)

すると、突然――

【進化完了】

【新種族:魔蠅(デーモン・フライ)


耳の奥――いや、脳内に直接響くような声。繭の中で聞いたあのシステム的な「何か」だ。

(俺……魔蠅(デーモン・フライ)って種族になったのか)


ハエの上位種には違いない。魔力を扱う「魔物のハエ」。

それが――今の俺だ。名前の響きが妙にしっくりくる。

まるで、自分がようやくスタートラインに立ったような感覚だ。


そうして、俺は岩場から一歩を踏み出した。

(……すげぇ。地面がしっかり踏める)


脚力が増している。風が吹いても全くふらつかない。羽を動かすだけで、その場に安定して浮くことができるのだ。

(これなら、あのオオカミの魔物にも少しは太刀打ちできるかもしれない)


もちろん、油断すれば死ぬだろう。進化したところで、まだまだ小さな魔物にすぎない。

だが――「だだのハエ」ではもうない。

(よし……試し飛びでもしてみるか)


羽を大きく広げ、一気に空気を掴む。

(うおっ!? 速っ!!)


進化前とは比べ物にならない速度で浮かび上がる。風を切り、荒野の景色が流れた。

体が軽い。羽が強い。視界が広い。黒い魔力が体中を巡る。

(……やべぇ。楽しい)


前の世界では味わえなかった、身体そのものの「自由」。

(これが……進化ってやつか)


地上を見ると、繭の残骸が風で転がっていく。つい先ほどまで俺はあの中で眠っていた。

(さて……どうすっかな)


名前もない。仲間もいない。この世界のこともまだ何も知らない。けれど、前の世界とは違う。

(決めるのは……俺だ)


そして飛びながら、ふと心の中で呟く。

魔蠅(デーモン・フライ)か……、うん、悪くないな)


荒野を渡る風に乗りながら、俺は新しい姿で大空へ飛び立った。

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