第25話 逃亡犯の処刑
逃げているはずだった――――。
獣骸荒野は、俺たち冒険者にとって「慣れた狩場」だったからだ。
魔物を見つけ、仕留め、素材を剥ぎ、街に戻って、報酬金でうまい酒を飲む。
それを、何度も繰り返してきた。今日もいつも通り、Eランクモンスター討伐のクエストを余裕でクリアしてさっさと帰る――――
そのはずだった――――。
「……おかしい。」
息を切らしながら、俺は立ち止まる。
風の流れが、匂いが、地面の感触が――――
全部、俺たちを逃がさない……。
「なあ……本当に、あれ……魔物だったのか?」
仲間の一人が、震える声で言った。
「ただのハイウルフじゃねぇ……。完全に統率されてた……。」
別の男が、歯を鳴らす。
「馬鹿な……魔物が……連携、だと……?」
「……あの変な噂、本当だったのか……?」
返事はなかった。
なぜなら……すでに、囲まれていたからだ。
狼の群れが、静かに距離を詰める。
遠吠えはない。威嚇もない。ただ、逃げ道を消す動き。
そのとき、上空で影が揺れた。
「……空も、だ。」
Bランクモンスターのロックバードが何十体もいる。完全に監視されているようだ。
次の瞬間、地面から硬い糸が跳ね上がった。
「ぐっ――!?」
脚を絡め取られ、転倒する。
「殺せ……!!殺される前に……!!」
剣を振り上げた瞬間――
ドンッ。
重い衝撃。視界が、横倒しになった。
最後に見えたのは、巨大な鬼型魔物の背。
(SSランクモンスター、オーガキングか……)
だが、刃は振り下ろされなかった。意識が落ちる直前、理解した。
(……殺されない……)
それが、なぜか一番怖かった――――――。
***
目を覚ますと、そこは石と巣壁で囲まれた広間だった。
鎖はない。だが、逃げ場もない。
前方には、禍々しい黒い玉座。そこに座っていたのは、「人の形をした『何か』」だった。
黒い翅。人間の顔。だが、目が違う。完全な魔物でも人間でもない、異質な何か。
そして、SSランクモンスターが可愛い小動物のように見えてしまうほどの存在感。
(魔物図鑑でも見たことがない……)
本能はさっきから「逃げろ」「死ぬぞ」――そう告げていた。
「……質問は一つだ。」
低い声が、広間に響いた。
「お前たちが、王国の民を殺したか?」
喉が、張り付く。ここで、否定すれば、もしかしたら助かるかもしれない。
だが―――
その視線は、すでに答えを知っている。
「……い、いつも」
仲間の誰かが、絞り出す。
「いつも通り、魔物を狩っ……」
言い終わる前に、空気が、沈んだ。
「……そうか。」
圧倒的な存在が、立ち上がる。
「これは裁判ではない…………処刑だ。」
すぐに逃げようとした。だが、身体が一切動かない。仲間も同じみたいだ。
そして、視界が歪む。胸の奥が圧し潰される。頭痛や吐き気、悪寒が止まらない。
(……何だ……これ……)
「蠅王国は、侵略しない。」
声が、頭の中に直接響く。
「だが、民を殺す者には――」
王が放つ威圧。ただ、それだけだった。「生きる許可」を奪われる感覚。
息ができない。叫ぶことも、苦しむことも、許されない。
(……ああ……)
(……狩る側だと……思ってた……)
「王蝕……。」
その瞬間、意識が深い闇に沈んだ。
***
人を殺しても、心が痛まない。
しかし、同胞が殺されたという報告を受けたときは、心が締め付けられた。
精神も徐々に魔物になっているのだろう。
処刑後、しばらく静寂が広間を包んだ。腐蝕魔術によって完全に融解した「残骸」を見て、俺はただ告げる。
「……以上だ。」
ミニアが深く頭を下げる。
「確かに執行されました。」
これは復讐ではない。国家としての最初の処刑だ。
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします!
ブックマークや評価していただければ、作者のモチベーションが爆上がりします!




