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第24話 破られた境界線

冒険者を城下町から返した、その直後のことだった。

黒巣都は、変わらず静かだった。外環区では、役務に就く魔物たちが黙々と作業を続け、中環区では、種族の違う魔物たちが互いの距離を保ちながら生活している。昨日と、何も変わらない。

――――そう見えた。その平穏は一瞬にして壊れたのだ……。


***


外縁帯。そこは、城下町と荒野を隔てる緩衝地帯。動植物の狩りや採集が許されている。

それと同時に、侵入と敵意が最初に観測される場所。そこに、5体の同胞が倒れていた――――。

小さきものたち。知能は低く、戦闘能力はほとんどない。外環区に属し、資材採集の任を受けて、外縁帯に出ていた個体たち。――――――他でもない、蠅王国の民だった。

胸部に刃物による刺傷。一撃で致命に至る位置。迷いはない。躊躇もない。一方的に「狩られた」。

「……人間族の足跡、複数確認されています。」

「装備から見て、冒険者で間違いありません。」

王城勤めの伝令たちの報告は簡潔で、ひどく淡々としていた。

だが、その声には――――――

抑えきれない怒りが混じっていた。

報告を受けたミニアは、言葉を失った。

(……早すぎる)

六将会議で浮上した、「曖昧な線引き」。

それを――――王であるクロに確認する暇すら、なかった。

「……指示を出します。」

ミニアは、即座に声を切り替えた。

「辺境軍は、急いで現場を封鎖してください。糸政院は、侵入経路と足跡の確認を早急に。」

的確な命令を下したはずだ。けれど、胸の奥に、重いものが沈んでいく。

(私が――――――)

考える時間は……ない。


***


ミニアの報告を受け、俺は緊急の六将会議を開催させた。円卓の周囲に六将が集う。

空気が非常に重い……いや、俺が重くしているのか。

「これより、緊急の六将会議を開会します。クロ様のご意向で、クロ様や私に対する敬語は不要です。」

ミニアが厳かに開会を宣言した。それを聞き届け、俺は低い声で、静かに言った。

「……では、事実確認をする。殺されたのは、間違いないのか?」

「はい。」

ミニアが答えた。

「外環区所属で役務中だった民が5体、殺害されました。」

ガルドが歯を食いしばる。

「……完全に『狩り』だ。我たちをいつも通りの獲物として扱ったのだ。」

セイルが、淡々と続ける。

「国家への明確な加害行為に該当する。」

レイヴが低く唸る。

「越えてはならぬ線を、踏み越えたのだ。」

ヴェルナは、珍しく笑わなかった。

「……魔物の国ができていることが、広く理解されていなかったのですわ。」


俺は会話をしばらく黙って聞いていた。そして、ゆっくりと立ち上がり、深く頭を下げた。

「……すまない。」

六将だけでなく、その場に控えていた文官や伝令たちが、息を呑んだ。

「人間、特に冒険者に対してどのような対応をするのか、どこまでを許容し、どこから処刑するのか。その明確なラインをはっきりさせなかったのは、俺の責任だ。国民を危険に晒した罪は重い。本当にすまなかった。」

俺の声には、言い訳も装飾もない。

ミニアは悔しそうに唇を噛んでいるが、これは王である俺のミスだ。

成り行きとはいえ、王になることを受け入れた以上、その責任を全うする義務がある。

前世のような上司にはなりたくない。


「これからは、はっきりさせる。」

俺は明確に宣言した。空気が一気に張り詰める。

「友好を望む者には、何もしない。干渉しない者には、こちらも干渉しない。だが――」

言葉が、鋭くなる。

「蠅王国の民に危害を加えた者には、相応の制裁を与える。それが、冒険者であろうが、軍人であろうが、王であろうが、一切関係ない。お前たちの配下にも、そう伝えてくれ。」

誰も反論しなかった。ただ深く頷くのみ。

「今回の犯人を、速やかに捕らえろ。そして、俺が王城で処刑する。」

それは、怒りではない。復讐でもない。国家として、王としての裁可だ。

「これが、俺の引く線だ。二度と曖昧にはしない。」


その後すぐに、犯人を捕まえるための会議に切り替わった。

城下町はまだ静かだ。多くの民は、この出来事を知らない――――。

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