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第22話 初の六将会議

黒蠅城、「謁見の間」。かつて、敵を迎え撃つための広間だった場所は、今では静かな円卓の間として整えられていた。天井は高く、壁面にはミニアが設えた巣紋と糸陣が薄く走っている。

威圧のための装飾は一切ない。あるのは、判断を下すための厳かな空間だけ。

円卓を囲む六つの席。そして、空の玉座。

玉座に最も近く、円卓の基準点に座るのは、他でもない宰相ミニア。

その左右に、蠅王国の各部門を担う王位種たちが着席していた。

魔鬼王ガルド。魔爬王セイル。森狼王レイヴ。妖絲王ヴェルナ。天翔王アルド。

かつてはそれぞれが、一つの領域の「王」だった存在。

今は―――

蠅王国を支える魔将として、この場にいる。


ミニアは、静かに一礼した。

「これより、第1回蠅王国幹部評議会、六将会議を開会します。クロ様は活発な議論を推奨しております。ですので、六将会議において、私に対する敬語は不要です。」

短い沈黙。誰も口を挟まない。ミニアはおもむろに、一枚の報告書を開いた。

「まず、一つ目の議題です。五箇条の運用状況と、城下町での裁定事案についてお願いします。」

セイルが、すぐに応じた。

「昨夜までに、争いは10件。いずれも獲物配分と居住区域をめぐるもの。死者はなし。理法院の判断ですべて労役処分。再発の兆候も見られない。」

ガルドが、太い腕を組む。

「…………正直に言うぞ。」

短い沈黙の末、

「クロ様には申し訳ないが……『殺すな』『奪うな』ってのは、もっと混乱を呼ぶと思ってた。だが……」

言葉を区切り、低く唸る。

「我の配下も含め、荒野の連中は前よりずいぶん大人しい。怯えてる、って感じでもねぇ。不思議と、落ち着いてる。」

ミニアは深く頷いた。

「それが国是ですから。平和を基礎とする秩序。恐怖ではなく、予測できる結果による安定。それこそ、クロ様が望まれた環境です。」

ミニアの発言のあと、レイヴが静かに耳を動かし、話し出した。

「城下は問題ないだろう。だが……外縁帯は別だ。」

全員の視線が集まる。

「辺境で妙な匂いが増えている。それは……人間族。数は少ないが、停滞して観察している気配だ。」

アルドも、翼を小さく揺らした。

「我の配下たちも空からも確認している。移動の痕跡から見るに、軍ではないようだ。だが、無関心でもなかろう。」

ヴェルナが楽しげに笑った。

「ふふ……ついに『見つかった』という感じでしょうね。これまで争い続けていた魔物たちが、巨大な城を構えて団結している。しかも、獣骸荒野の中心で。無視する方が難しいわ。」

ミニアは卓を軽く叩き、話題を収束させる。

「―――二つ目の議題です。曖昧な国境線の扱いについて、お願いします。」

セイルが即座に言う。

「我は、明示を推奨する。線引きは、侵入を防ぐためのものではない。越えた場合の責任を明確にするためのものだ。」

ガルドが鼻を鳴らす。

「線を明確に引けば、それを踏みたい奴は必ず出てくるはずだ。魔物も……人間もな。」

レイヴが低く唸る。

「国境線に近づいてくる奴の退去誘導は可能だ。敵意がなければ、追い返すまで。だが……越える理由が『狩り』であるなら、話は別だ。」

その言葉に、空気が一瞬張り詰めた。

アルドが、静かに続ける。

「空から見る限り、少なくともこの国には隙がある。魔物でありながら、侵略しない平和的国家。それは……」

ヴェルナが、指先で糸を弄びながら言った。

「狩る側の人間族にとっては、好都合よねぇ。確か『冒険者』っていう職業だったかしら。私の可愛い配下も何百匹、彼らに殺されてるわ。」

ミニアは、ゆっくりと息を吸った。

「皆さんの意見は分かりました。私も懸念点がいくつかあります……。ですので、本件は、六将会議のみで決めるべきものではないと考えます。」

ミニアは視線を、空の王座の方へ向ける。

「蠅王クロ様の裁可を、仰ぎます。」

誰も、異を唱えなかった。この議題は、王の在り方そのものに関わる。


ミニアは、結論をまとめた。

「暫定措置として――――辺境軍による国境付近の監視を強化。天衛軍は上空哨戒を継続。糸政院は外部情報の収集を優先してください。正式な対応は次回、クロ様を交えて判断します。」

全員が頷いた。六将会議は、誰一人として声を荒らげることなく、しかし確実に重たい課題を残したまま終了した。

ミニアは書類を閉じ、静かに立礼する。

「本日の会議は、以上です。」

王位種たちは席を立つ。その背中には、もはや縄張りを争う王の影はなかった。彼らは、一つの国を動かす重要な役人となりつつあった。

そして――――――

この国がどこまで許し、どこから牙をむくのか。その答えを出す時が、確実に近づいていた。

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