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第21話 順調な秩序

建国宣言から1週間ぐらいが経った。

首都である黒巣都に聳える黒蠅城。その最上層、いわゆる天守閣に俺はいる。

切り立った岩と巣壁が融合した城壁の縁に立ち、俺は眼下を見下ろしていた。

かつてはただの洞窟と荒野だった場所に、今は無数の生活の痕跡が広がっている。

城を中心に円環状に広がる城下町、通称「巣環」。

内環区では、王城勤務の魔物たちが規則的に動いていた。言葉を話すことができる、もしくは言葉を理解できる知能の高い魔物がほとんどを占める。

中環区では、様々な種族の魔物が混在して暮らしている。小型の魔物は身を寄せ合い、爬虫類系の魔物が日向を選び、空を飛ぶ魔物は地上に降りて羽を休めている。

そして、外環区。岩を削り、土を運び、巣壁を補強するために黙々と働く魔物たち。かつて、ミニアが所属していた種族もここにいる。ミニアに心境を尋ねてみたが、本人は全然気にしていないようだった。


(……静か、だな)

俺は、正直な感想を心の中で零した。魔物の国と聞いて想像するような、怒号や咆哮はない。

無意味な争いの音も、恐怖の悲鳴も、ここにはなかった。ただ、生活音だけが、低く、穏やかに流れている。

(……良い環境だ)


「……クロ様」

背後から、控えめな声がした。振り返ると、宰相として大活躍しているミニアが1枚の報告書をもって立っていた。魔物たちは、「紙」という文化というか、それ自体を知らないため、俺がミニアに色々と伝授した。それをミニアとヴェルナが試行錯誤し、完成させたようだ。「さすがはクロ様です!人間族の文化に精通されてるのですね……!」とミニアや王位種が目を輝かせていたのが記憶に新しい。

(王位種はもちろん、ミニアも相当頭が良いからな。このまま人間族(?)と似たような施設や文化を、ミニアを通じてこの国に広めていくのもアリだな…………蟻だけに。)


「朝の内政報告です。」

「あぁ、もうそんな時間か。……それで、争いは?」

「昨夜の間に3件ありましたが、すべて中環区での小規模なものです」

「死んだ魔物は?」

「出ていません。すぐに理法院の裁定が行われ、労役処分が下されました。」

(……うん、ちゃんと回ってるな)

俺は少しだけ肩の力を抜いた。

「五箇条は?」

「理解されている、というより……守られている、という状態です」

ミニアはそう言って、少しだけ微笑んだ。

「意味が分からなくても、『破るとどうなるか』を本能で理解していますから。」

(魔物にとっては、それが一番分かりやすいか……)

「それでいい。全部を無理に理解させる必要はないからな。守ってくれるなら、それでいい。」

ミニアは深く頷いた。

「はい。それに……」

一拍置いてから、続ける。

「魔物たちが、ちゃんと『眠っている』のです。」

「……眠ってる?」

「はい。どの魔物も夜に、警戒せず、怯えずに、です……!」

俺は再び城下を見下ろした。確かに、ここ最近の朝の空気には、焦りがない。

(……そうか)

魔物にとって、安心して眠れるということが、どれほど異常なことか。

(国を作った実感なんてなかったけど……ここは……国、なんだな。)

「……俺、国なんて作るつもりなかったんだけどな……。」

思わず、口に出てしまった。それを聞いたミニアは、くすっと笑った。

「存じております。クロ様が作ろうとしなかったからこそ、国ができてしまったのだと思います。さすがはクロ様です!」

「えっ、それって褒めてるのか?」

「もちろんです!」

ミニアは胸に手を当て、はっきりと言った。

「命令せず、縛らず、それでも皆が守ろうとする。そんな世界、今まで、どこにもありませんでしたよ……。」

「……そうか。」

何だか照れくさくなり、俺は頭をかいた。


「はい。ですから……今日は初めての幹部評議会、六将会議を開きます。」

「……え、もう?」

「はい、国は放っておくと、どんどん別の方向に動いてしまいますから。」

「……そうか。」

(【蟻妃指揮】や【巣域構築】などの能力を考えると、ミニアは女王蟻のような本能が備わっているのかもしれないな……。だからこうして、せっせと働くのだろう。)

「……全部ミニアに任せて、すまない……。」

「く、クロ様、頭をお上げください……!クロ様のお役に立てることが私の本望ですから!」

ミニアは嬉しそうな笑みを浮かべ、そのまま会議へと向かった。

俺は再び、城下町を見る。王城と城下町は、壁で明確に隔てられている。

そして、王城に出入りするためには、王城警備の許可が必要になる。

だが、完全に切り離されているわけではない。見える距離。届かない距離。それが王である俺と、王国の民との距離だった。

(……やるしかない、か)

俺は城内の様子を見るため、ゆっくりと歩き出した。

その背後で、黒巣都は、静かに、けれど確かに動き続けていた。

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