第20話 蠅王国の誕生
建国の準備は、驚くほど早かった。理由は……単純だ。
「クロ様、城の拡張や城下町の設計はこちらになります!」
「施工の基礎は、我らオーク族に任せてくれ!」
「空からの運搬は、我らが担おう。」
「道の整備は我らが得意だ。」
「建国準備にかかる食料は、我らが集めてこよう。」
「私たちが装飾や最後の仕上げを請け負いますわ。」
逞しいミニアの指揮のもと、全王位種が自発的に役割を引き受けたからだ。
(……えっ、特に俺は何もしてない気がするんだけど……)
獣骸荒野は、確実に変わっていった。
魔物同士で無意味に殺されることがなくなり、弱き者も居場所を得た。
そして―――
建国準備が始まって3週間ぐらいが経ったある日。
手持ち無沙汰で、巣を徘徊している俺に、ミニアが厳かな表情で告げた。
「クロ様……本日をもって、建国準備すべて整いました。城下町も完成しております。」
「…………え、いや、は、早すぎない?」
「王位種とその配下が全員協力していますので。魔物が協力し合うなんて、あり得ないことですよ……!さすがはクロ様です……!」
「……そ、そうか。」
建国まで最低でも1年ぐらいかかるだろうと思っていたが……。
王位種全員が乗り気なうえに、ミニアには【蟻妃指揮】と【巣域構築】がある。
その結果、トントン拍子に建国が進んでいったようだ。
(ねぇ、もっとのんびりしようよ…………)
ちなみに、【蟻妃指揮】で王位種全員がミニアの命令に素直に従っていた。つまり――――
ミニアは王位種たちよりも強いということになる。
(俺が戦わなくても良かったじゃん……)
どうも弱い頃のミニアの印象が強すぎて、つい前に出てしまっていた……。
***
戴冠式――――
と呼ぶには、あまりにも質素だった。
豪華な玉座も、金の冠も、派手な儀式もない。
ただ、獣骸荒野の中心。俺とミニアが最初に巣を作った、あの場所で。
王位種たちが、そして無数の魔物たちが、静かに見守る中――――
ミニアが、一歩前に出た。
「ここに、蠅王クロ様が治める魔物の国、蠅王国の建国を宣言します!」
俺はため息交じりに呟いた。
「……とうとう、国か……」
ミニアが微笑む。
「はい。私はクロ様が魔蠅だった頃から……ずっと見てきました。クロ様は、誰よりも生きようとしていました。そして……弱者を救おうとする優しさをもっていました。だから、この国は、きっと間違いません。」
(ブラック企業で死んだ俺が、まさか魔物の国の王になるとはな……)
「……まぁ、いいか。」
俺は静かに宣言した。
「俺はクロ。この蠅王国で生きるお前たちを必ず守る。ともに、平和に暮らしていこう。」
その言葉に、魔物たちは歓声を上げなかった。
ただ、深く、深く、頭を下げた。
それこそが――――――この国の在り方だった。
***
戴冠式後、俺は王位種全員を呼びつけた。理由は……
「お前たち、名前はあるのか?」
そう、王位種全員の名前を把握するためだ。
オーガキングやら、リザードロードやらは種族名に過ぎない。
「クロ様……私たちには種族名以外の名などありませんわ。」
「えっ、そ、そうなのか?」
「人間族などと異なり、本来魔物には名など不要ですので。」
スパイダーソブリンとカイザーグリフォンが答える。
「クロ様は私に『ミニア』という、大変素敵な名前をつけてくださりました。ですが、それ自体が非常に珍しいことと言いますか……、そもそも名前などをもたないのが魔物ですので……。」
「なるほど……」
前世が人間だった名残で、つい名前をつけてしまったのだが……魔物としてはおかしな話なのだろう。
「そうか、ならこれで話は……」
(種族名で呼ぶの長いし、嫌なんだけど、まぁ仕方ないか……)
俺がそう切り上げ、おもむろに立とうとすると……
「お、お待ちください……!」
「そ、その我々も……」
「も、もし宜しければ、その……」
王位種たちが突然、そわそわし始めた。俺が怪訝そうに見ていると、ミニアがすかさず俺に囁いた。
「……きっと、私と同じように名前をつけてほしいのではないかと。」
「えっ!?……お前たち、俺に名前をつけてほしいのか……?」
俺の質問に王位種たちは照れながら、小さく頷いた。
「……そ、そうか。なら……」
俺としては、王位種たちを短い名前で呼べるのは好都合である。
それに、親近感というか、仲間としての一体感が出るので、俺は嬉々として名付けを行った。
こうして――――――
オーガキングは、「ガルド」
リザードロードは、「セイル」
シルヴァウルフは、「レイヴ」
スパイダーソブリンは、「ヴェルナ」
カイザーグリフォンは、「アルド」
と名前をつけ、これからはそう呼ぶことにした。
***
最弱のハエとして目覚めた存在は、多くの出会いと、戦いと、選択を経て――――
獣骸荒野に、一つの国を生んだ。蠅王国。
それは、支配ではなく、暴力でもなく、ただ「魔物たちが平和に暮らすため」の国だった。
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