第18話 スカイロード・グリフォンの屈服
獣骸荒野に、奇妙な静けさが満ちていた。
ミニアは、巣(城)の外縁で空を静かに見上げていた。
「どうした?」
「……クロ様」
ミニアは荒野西部、巨大な断崖と岩峰が連なる方角を見据えた。
「あの一帯は、かつて……飛行できる魔物たちの最大の営巣地でした。」
「営巣地?」
「はい……しかし、今は違います。」
ミニアははっきりと言った。
「魔物すべてがただ一体の王位種の支配下にあります」
(……出たよ、また王位種。もうお腹いっぱいなんだけどな……)
「……その王位種っていうのは?」
「……天翔王カイザーグリフォンです。」
ミニアは一拍置いて、続けた。
「獣骸荒野の西部を根城としながら……獣骸荒野全体の上空を支配し、ロックバードやハーピーなどの飛行系魔物すべてを従え、空域で巨大な群れを形成してきた存在です……。」
俺はミニアと同様に、澄んだ青い空を見上げた。どこまでも広く、どこまでも静かな空。
(……なるほどな)
今まで、地上の王位種だけが争っていた理由。その空は……最初から、一人の王のものだったのだ。
(……地上の争いを、ずっと上から見下ろしていた王か)
***
――ドンッ!!
雷鳴のような破裂音が、頭上で弾けた。次の瞬間、空気が圧縮される。
「来ます、クロ様……!」
「あぁ、分かってる。」
これまでの王位種とは明らかに別格の圧迫感。空が割れ、荒野西部の上空から群れが現れる。
巨大猛禽、飛蝗獣、翼獣――
しかし、そのすべては背景だ。中心にいる存在が、あまりにも圧倒的すぎる。
黄金混じりの黒翼。鉤爪を持つ前脚。獣の後脚。鷹の頭部。
空そのものに君臨する存在―――――
「我は天翔王カイザーグリフォンなり……。ほう……」
風を切る低い声が、空から落ちる。
「貴様が……地上の王位種を制した魔物の王か。」
「王かどうかは知らないが、王位種たちを支配下に置いているのは間違いない。」
「……ふむ、なかなか面白い容姿や魔力だ。……どれ、貴様が王の器に相応しいか、我が直々に確かめてやろう。」
今の対話を聞き、グリフォンの真意を汲み取ったのだろう。ミニアは一歩下がった。
「……クロ様、私はここから見守らせていただきます。」
「……うん、ありがとう。」
天翔王は嗤った。
「ハハハ、正しい判断だ。これは―――――『王』同士の戦いなのだから。」
次の瞬間――――空が、消えた。
グリフォンの急降下。音が遅れて追いつく。俺は、魔影翅飛行で横へ跳ぶ。
――ズガァァン!!
着弾点が、地面を大きく抉り出した。
「速い……」
(威圧程度じゃ、止まらないと思うけど……)
「――【蠅王威圧】」
放たれた威圧は、完全には効かない。
だが――
「…………ぬっ」
グリフォンの動きが一瞬、遅れる。
「……面白い。」
グリフォンが旋回する。空が彼の翼で塗り替えられる。
「空は、我の領域だ」
翼の一振り。――――暴風。
俺は正面から耐える。魔影翅で姿勢を制御し、空中で踏みとどまる。
「……ほぅ、これも耐えるのか。」
俺はぐっと高度を上げた。
「お前の領域である、この空で決着をつけようか。」
(得意の土俵で戦って負ければ、コイツも俺も後腐れなく終われるだろう)
「ハハハ、死んでからでは遅いぞ?」
***
グリフォンとの戦いは完全な空中戦となった。俺は魔影翅飛行でどんどん加速し、複演視界で未来線を読む。そして、天翔王の鉤爪を紙一重で躱し続ける。
「良い……!」
天翔王が高らかに咆哮する。
「久しく味わっていなかったぞ!この対等に戦えるという感覚を!!」
(……「対等」ねぇ)
空中戦に慣れるため、しばらく戦闘を継続したのち、俺は勝負を決めることにした。
(ここかな)
纏う魔力を、右手へ。
(さすがに殺すのはマズいよな……)
「――陰縛糸」
漆黒の魔力で構成された硬糸が鳥籠のように、グリフォンを囲もうとする。
グリフォンはそれを真正面から迎えた。
「受けて立つ――!!」
「……からの影穿と。」
――――激しい衝突。
空が、割れた。
轟音。閃光。衝撃。
やがて――
天翔王の巨体が、大地へと墜ちた。
***
砂煙の中。天翔王は、静かに伏した。
「……見事だ。……『対等』な戦いと思っていたが……それは我の自惚れであったようだ。我の領域である空中での戦いでありながら、貴殿は一度も本気を出していなかったのだから……。」
黄金の瞳が、俺を真正面から見据える。
「貴殿こそ、この空の王者、そして荒野の主に相応しい。」
そして、ゆっくりと、巨大な翼が畳まれた。
「天翔王カイザーグリフォンとその配下、これより貴殿の軍門に降る。」
その瞬間、風が変わった。
空を支配していた圧迫感のような重みが消え、荒野全体に自然な気流が戻る。
飛行系魔物の群れが一斉に翼を折り、ひざまずく。
そして、固唾をのんで行く末を見守っていたミニアが俺に静かに近づく。
「……クロ様」
俺はそっと微笑んだ。
「これで……終わったな。」
「……はい。この獣骸荒野を支配していた王位種、すべてに完全な勝利です……!」
俺はもう一度、蒼天を仰いだ。
(……ほんと、毎日毎日押しかけてきやがって……。けど、これでようやく終われる……。しばらくは巣でゆっくり過ごそう……。)
こうして、獣骸荒野のすべての勢力がクロに帰属した。
しかし―――
クロの願った、落ち着いた生活はまだまだ訪れないのであった……。
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