第15話 リザードロードの降伏
オーガキング及びオーガ族・オーク族を従えた翌日――――――
巣の前の荒野が、静かすぎるほど静かだった。ミニアが巣の外で地表を撫でながら言った。
「クロ様……。昨日から、この辺りの匂いの流れが変わっています。荒野中の魔物が……新たな強者の誕生を感じ取っていますね……。」
「強者、ねぇ……。それって……やっぱり、俺のことだったりする……?」
ミニアは嬉しそうに頷いた。
「もちろんです!クロ様はもう、この荒野の新しい支配者の一人です!」
(いや、支配者って言われても、全然実感ないんだが……)
昨日、オーガキングが従属したその後――
軍門に降ったことで、オーガキングが支配していた荒野の南西部(主にオーガ族やオーク族、そしてそれに従う小型の魔物たち)を俺が治めることになったのだ。これが一番驚いた。オーガキングの口から説明はあったが、混乱しているのか、終始「ギャア!ギャア!」と騒いでいたため、【蠅王威圧】を発動して無理やり黙らせた。
そんなふうに会話していた時――
ミニアの複合魔瞳がぱちりと見開かれた。
「クロ様……!とても鋭く、冷たい匂いが近づいてきます……!?」
「……王位種か?」
「……はい。匂いの鋭さ……温度……間隔の狭い呼気……これは……リザードロードです」
***
ズリ……ズリ……ズリ……
地を這うような、砂の擦れる音。乾いた風が巻き起こり、巣の前の砂地に、細長い影が伸びる。
やがて――
「……ふむ。ここが噂の『黒と紅の巣』か……。」
静かな声が、鋼のような響きを持って届いた。
身長は二メートルを超え、鱗は鋭い光沢を放ち、尻尾は槍のように太く長い。
その目は常に細められ、常に獲物と死角を分析しているようだった。
ミニアが小声で言った。
「クロ様……あれが荒野の南東部に位置する乾砂帯の支配者、魔爬王リザードロードです。頭の回転も速い上に、単独戦ではオーガキング以上の強者だと言われています……!」
(うんまぁ、見た目からして、強そうだもんな……進化前なら瞬殺されてたな……)
「……あの脳筋のオーガキングが屈服したと聞いて、その原因を確かめに来たのだが……」
リザードロードは、巣の入口で佇む俺たちを見て、その目が鋭く変わった。
「人……?いや、虫……蠅の魔物……?……いや、魔物が完全な人型に進化しているのか……?だが、そんな魔物など、聞いたこともないが……。」
「俺たちに何か用か、リザードロード。」
俺の言葉を聞いたリザードロードは、一歩前に進む。
「我は見極めにきた。貴様が荒野の新たな支配者として君臨するのに相応しいのか……。その実力、試させてもらうぞ。」
砂が舞い、リザードロードが投げた砂槍が、音もなく俺の頸動脈を狙ってきた。
だが――
(よく見える)
複演視界によって、槍の軌道が「赤い線」として浮かび上がる。ある意味、未来予測に近い能力だ。
クロは半歩横にずれるだけで回避した。
「……なっ……!?」
リザードロードの目が、初めて大きく見開かれた。
「次は……これだ!」
リザードロードは高速で砂を蹴り、毒爪を振るい、影に潜り、何度も死角から攻撃を繰り返す。
だがどれも――
(全部、見えてるぞ)
俺はすべて最小限の動きで躱した。数分経っただろうか、結局リザードロードの爪も牙も尻尾も、俺の身体には一切届いていなかった。
「……馬鹿な。我の速さを……完全に捉えているだと……!?」
「次は、俺の番だ。」
俺は静かに手をかざす。その瞬間、影が揺れた。
「影縛。」
リザードロードの足元から黒い影が立ち上がり、四肢を締め上げた。
リザードロードは歯を食いしばり、そして――――ガタリ、と膝をついた。
(一応、コイツにもしておくか)
「――動くな」
俺は昨日と同様に、【蠅王威圧】を発動した。ドス黒い魔力が周囲の空気を歪め、リザードロードに強烈な重圧が放たれた。
「ぐッ……!?ぬ……動けぬ……!」
リザードロードは苦しそうに言葉を紡いだ。
「……ま、負けた……。これほどの差が……あるとは……。それにこの圧倒的な威圧感……『魔物の王』たる素質に他ならない………」
ミニアは気迫と誇らしさを混ぜた声で言った。
「クロ様に挑むなど……百万年早いですよ……!」
(何でミニアがドヤ顔なんだ?)
リザードロードは微かに口角を上げ、頭を垂れた。
「……リザードマンを含めた乾砂帯の魔物すべて……今より主様に従う。」
「……えっ、そんな簡単に決めていいのか?」
「主様ほどの強者に仕えるのだ。歓喜こそすれ、嫌がるはずがない。」
魔物の世界も弱肉強食、生存競争が激しい。であれば、強者に従うことが生存の基本となりうる。
(……まぁ、魔物たちがそれを望むなら、俺は受け入れるしかないか)
俺は深く頷いた。
「分かった、乾砂帯の魔物たちを俺の配下に加える。」
「ありがたきお言葉、身命を賭してお仕えいたします。」
ミニアは胸に手を当て、嬉しそうに笑う。
「これで、獣骸荒野の南部すべてがクロ様の支配下になりましたね!!」
こうして――――
リザードロードが俺の軍門に降ったことで、獣骸荒野の勢力図は大きく塗り替えられていった。
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