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第14話 オーガキングの来襲

巣――いや、城が形を帯びてきてから数日が経った。

薄闇の洞窟には紅蓮魔術の光が灯り、骨で補強された壁は堅牢だ。迎撃路はどれも鋭い角度にねじれ、外敵を確実に迷わせる。


「クロ様、こちらの通路は第二迎撃路として設計しました。敵が数で押してきても、狭さで詰まるはずです!」


ミニアが誇らしげに胸を張る。紅い複合魔瞳が嬉しそうに揺れていた。

(……すごいな。もう完全にそっちのプロだろ、これ)


「それと――――――見てください、ここです!」

ミニアは魔紋翅でふわりと跳び、天井の岩を叩いた。


「ここに、私の魔力を通す巣紋を描いておきました。侵入者が通れば、私のところへ匂いとして届きます!」

(えっ、監視システムまで自作!?)

「おぉ……!ミニア、すごすぎるぞ……!」

「えへへ……」


そんなふうに巣づくりの確認をしていた時、俺はふと、洞窟の外に広がる荒野を見渡しながら言った。

「……そういや、この荒野って名前とかあるのか?」

ミニアは一瞬きょとんと目を丸くし――

次いで、困惑したように小首を傾げた。

「え……?あの、クロ様……ご存知ないのですか……?」

「ん、あ、ああ…………俺、そういうの全然詳しくなくて…………失望したか?」

ミニアはほんの少しだけ不思議そうな顔をした後、ふわりと微笑んだ。

「いえ、私がクロ様に失望することなど、決してありません!そうだったのですね。では、僭越ながらご説明いたします!」


ミニアは姿勢を正し、丁寧な口調で話し始めた。

「ここは――『獣骸荒野』と呼ばれています」

「じゅうがい……?」

ミニアはゆっくり、慎重に言葉を続けた。

「獣の骸が積み重なる荒野という意味です。この地では……弱い魔物はすぐに倒れ、倒れた死体はすぐに別の魔物の餌となり、一部の骨や肉片しか残りません。そうして、層のように死骸が積み重なっていく場所なのです……。また、強者同士、特に種族の長同士の戦いや縄張り争いの末に、死体の山ができるのも珍しくありません。」

(そうか、俺が最初に目覚めたあの「死体の山」、この荒野ではよくある普通の場所だったのか……)


ミニアは一瞬、寂しそうに目を伏せた。

「実は……私も、かつてはその骸の一つになるはずでした」

俺の視線が向けられると、ミニアは小さく語り始めた。

「私は……生まれた時から一番弱い蟻でした。他の小蟻の誰よりも足が遅く、顎も弱く、群れの足をいつも引っ張っていました…………だから、あるとき、突然群れから追放されたのです……」

その声には、過去の痛みや悲しみが滲んでいた。


「大きな魔物に捕食されそうになり…………死ぬのを覚悟したとき…………クロ様が助けてくださいました……!そして、初めて……私のことを一匹の魔物として『見てくれた』存在が……他でもない、クロ様でした……!」

紅い複合魔瞳が震える。そして、一筋の涙が美しい頬を伝った。

「だから私は……主であるクロ様のために生きていたいのです……!」

俺の胸がじんと熱くなった。

(そんなこと言われたら……守るしかないだろ……)

俺はそっと、全身全霊をかけてミニアを守護することを改めて決意した。


***


翌日、ミニアから巣(城)の具体的な内部構造を聞いている、その時だった。

ゴゴゴゴ……ッ!!

巣全体に、地鳴りの振動が走った。ミニアの複合魔瞳が鋭く光る。


「クロ様……!来ます……!途轍もない強い魔力………大型の魔物、いやそれ以上です……!」

「よし、迎撃するぞ!」

「はい!」

俺とミニアは急いで、第一迎撃路に移動した。


ズシン……ズシン……!

洞窟の入口から現れたのは、オーガのような魔物。

けれど、筋肉の塊のような巨体、身の丈4メートル、背に巨大な骨斧。

普通のオーガとは桁違いの存在感。


ミニアが息を飲む。

「クロ様……!コイツはオーガやオーク、牛魔などを率いるリーダー、『王位種』の魔鬼王オーガキングです……!知能が非常に高く、凶暴性も桁違いです!」

(……ん、王位種?何それ?)

「……この洞、一体誰の縄張りだ~!!」

オーガキングは咆哮し、洞窟に響き渡る声で吠えた。


「俺たちの巣だ。何か用か?」

オーガキングは眉をひそめ、俺たちを凝視した。その目に宿ったのは、理解不能なものを見た時の純粋な恐怖と困惑。

「配下どもが世話になったn…………ん、な、ん……だ……?人間……?いや、虫……蠅……?人型の蠅……?見たことがない……何者だ……貴様らは……!?」

(まあ確かに俺たちって、見た目はかなり特殊だよな……。)

「……まぁいい。この巣は、なかなか居心地が良さそうだ!我らの新たな縄張りに決めたぞ!」

オーガキングが斧を構えた瞬間―――

(魔物の長に聞くか分からないが、試してみる価値はありそうだ)

「――動くな」

俺は声と同時に、【蠅王威圧】を発動した。

ドス黒い魔力が空気を歪め、洞窟全体を圧する重圧が放たれた。


「ぐッ……!? ぬ……動けぬ……!」

オーガキングの膝が床にめり込み、ドゴッと巨大な斧が落ちる。

「クロ様の威圧に……魔物の長すら屈する……!」


オーガキングは苦しげに叫んだ。

「こ……これは……我の本能が……逆らうなと言っている……『魔物の王』の力……!!」

そして、バンッと頭を地面に叩きつけた。

「我は……今より貴殿を主と認める……!どうか、配下に加えていただきたい……!」


ミニアが困惑している俺の耳元でつぶやく。

「クロ様、魔物の各種族には、進化を遂げて『王位種』と呼ばれる存在が出現する場合があります。その王位種が負けを認めると……その種族や配下ごと従属します……!これは、獣骸荒野の掟なのです……!」

(……えぇ、俺は別に配下とかを増やしたいわけじゃないんだけどな……)

「早速、クロ様の臣下が増えましたね!しかも、豪腕なオーガ族やオーク族、さすがです……!」

ミニアの紅い複合魔瞳が歓喜と尊敬でキラキラと輝いていた。

(主とかって柄じゃないんだけど……。まぁ、仕方ないか……。なるようになるだろう、きっと)


俺は静かに答えた。

「…………分かった。今日からお前らは俺の配下とする。ついてこい。」


オーガキングの体が震えた。

「我が主よ……!」

ミニアは誇らしげに微笑む。

「クロ様、これからこの荒野の『統一』が始まりますね……!」

(統一って、戦国時代じゃあるまいし……。)

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