なんやこの世界!
「疲れた〜!こんな日は酒飲んで帰んべ!」
深夜、仕事帰り、眠気と怒りで、俺はでけえ声で叫んだ。
「あーあ!パソコンカタカタするんじゃなくて、ゲームでモンスターを倒すみたいに嫌いな上司をぶちころしてお金が手に入ったらな〜!……なんやこの世界!こんな世界もうええて!」
正子を過ぎた真夜中の静寂を、俺の近所迷惑がつんざいた。
「でも居酒屋もうしまっててワロタ!」
でけえ声で叫んだ。
今度も、真夜中の静寂を俺の近所迷惑が……つんざくはずだった。
「まあええわ!帰ってふかふかのベッドで寝──」
キキーッ!ドンッ!
俺の身体は1億キロマンメートルくらい跳ね飛んで、そして死んだ。
「たいしょうおあいそ!」
俺はでけー声で叫んで飛び起きた。
知らない天井。めっちゃファンシーな雲の壁紙……いや、天井紙。
「起きてください、起きてください!」
ギリシャ神話にいそうな服を着た美女が俺を力強く譲っていた。
「うわあっ!?」
「うひゃあっ!?」
お互いに驚いた。
そして見つめ合った。
誰?ここ何?天井も床も同じ壁紙!意味がわからん!
数秒ののち、俺は口をついた。
「ここは……どこですか?」
「そんなことはどうでもよいのです。」
「は?」
数秒ののち、また聞いた。
「いや、ここは、どこですか?」
「そんなことはどうでもよいのです。」
「は?」
俺は訳が分からず当たりを見回した。
「……意味がわからん。………………意味がわからんって!!」
俺はつい怒鳴った。
「いや、どうでもよいのです。」
「どうでも良くないわ!」
「あなたは異世界転生します。」
「異世界転生?何?」
「安心してください。チート能力をあげますから、特に困ったりはしないと思いますよ。」
「チート?は!?なに!?」
「それじゃ、行ってらっしゃーい!」
突然床がパカっと割れて、俺は落下していった。
「いや、なっ、うわああああああああっ!?」
しばらく混乱したまま、はるか上空から落下しているかのような風圧を感じていると、突如として頭をぶつけた。
「いたあああああああっ!痛いわあっ!!」
怒りながら起き上がってあたりを見回すと、周りで人々が俺を見ていた。
かやぶき屋根の家、茶色い麻袋みたいな服。ロールプレイングゲームに出てくる村みたいな場所だった。
「ああっ……ああっ……!」
老人が突然近づいてきた。
「なになになになになに!?」
俺は怖くて後ずさった。
「勇者さまじゃ……!」
「は?」
「勇者さまが来臨なさったぞ!」
老人が声高らかに言った。
「勇者さま……?」
「勇者さま……」
「本当にあの勇者さまが……?」
他の村人たちが口々に小声で呟いた。
「え、は?……なに?」
俺は困惑した。
老人は俺の背後を指さしながら言った。俺は振り返った。そこには緑に覆われつつも天頂は雪のように白い、立派な山があった。山には蛇みたいなものがおどろおどろしく蠢いていた。遠いが、それなのにはっきりと見える。だから、それがおそろしく巨大であることがわかった。
「勇者さま、我が村は向こうに見えます霊山に住まう、タタリオロチさまと密接な関係にあります。」
「は、はあ。」
「我が村は毎年この時期になると、若い娘を生贄としてあの霊山に向かわせることになっているのです。」
老人がそう話すと、奥から巫女服を着た幸薄そうな美少女がやってきた。透き通る陶器のような肌、艶やかな髪。はっきり言って俺の好みの顔をしていた。今すぐちゅーしたい。でも、状況が意味わからんすぎて今すぐアタックを実行する気にはなれんかった。疲れてる。俺は今すぐ帰って寝たいの。だるすぎる。
「我が孫娘エリシアは次の生贄に選ばれました。でもわしは……エリシアを手放したくない!」
「ほな手放さんかったらええやないですか。その……なんや、タタ……」
「タタリオロチさま」
「そうそう、タルタルおろしさんも、生贄の一人や二人忘れとっても見逃してくれるんちゃうの?」
「そうは言っても、村のしきたりなのです。タタリオロチさまがいらっしゃる限り、村から生贄を出さなければいけない。」
「そうですか。」
俺はどうでもよかった。あまりにも眠すぎて。
「勇者さま、お願いです。タタリオロチさまを……いや、あの憎きタタリオロチを討ち取ってはいただけないでしょうか。」
「……いや、俺勇者ちゃうし。」
「勇者さま!」
「勇者さま」
「勇者さま……!」
村人たちは口々に呟いた。
「どうか、どうか、娘を……」
老人は俺の手に縋りついてきた。
俺はそれを振り払った。
「いや!いややいやや!俺は疲れとんねん!」
「そうだ!タタリオロチを討ち取った暁には、我が娘エリシアを勇者さまの嫁に差し上げましょう!」
「ああ、それはいい!」
「ええ、それがいいわね!」
村人たちは口々に呟いた!
「え、ほんまに!?あ、いや……」
俺つい喜んだが、踏みとどまった。
「俺は勇者じゃないからタルタルを倒せる保証はないし、それより今めっちゃ疲れてて眠いねん!だからそれは無理や!なによりエリシアちゃんの気持ちもあるしな。じゃあ」
ピキーンッ!
突如頭痛がした。直後頭の中に直接、声が聞こえた。
(聞こえますか……?)
「ぎゃあっ!?」
頭の中で選挙カーみたいに声が響いて、うるさい。
(からあげください……じゃなくて、今あなたの脳みそに直接話しかけています……)
お前は……さっきのよくわからん破廉恥な格好をしていた女!
(しっ、失礼ですね!そんなことより、あなた、帰りたいんですってね?)
当たり前や!ここはどこや!?はやくうちに帰せや!
(あなたは死んで、異世界転生したんです。うちに帰る術は、もう……)
えっ……俺は帰れないってことなんか……?は…?最悪や!最悪最悪最悪!ふざけんなや!
(えっ、あー……いや、まあ……あるっちゃ……いや、ないっ。ないですよ。ないってことで、はい。)
あるってことやんか!!あるんならはやく帰せや!
(異世界転生者は元の世界に帰りたくないものなんです。普通は。あなただって、こんな世界もうええて!って言ってたじゃないですか。だから異世界転生したんですよ。)
いや、ええやろ言ったって!言葉のあややろそんなん!俺が望む世界はずっと寝ててもよくてA5ランク和牛サーロインステーキが毎食食える世界やねん!俺は今はとにかく眠たい!寝たいんや!はやく寝かせてください!
(わがままですね……そんなんで社会人としてやっていけるんですか?)
やってるわ!絶賛やってるわ!あんた俺が会社でどんな仕事ぶりしてるか知らんやろ!熱意があって優秀な上に、品位の塊やぞ!今の様子からは想像できんか知らんけどな!!
(はあ……とにかく、あなたはこの世界では勇者なんですから、一面のボスくらいさっさと倒して次に進んでください。そしたら元の世界に帰してあげるのも考えてあげなくもないです。それじゃあ。)
ブチッ
「うわっ、こいつテレパシー切りよったわ!逃げんなあああああ!!」
俺は大声で叫んだ。
「勇者さま?大丈夫ですか?」
「あっ、いや……大丈夫です。」
「もしお疲れでしたら、母屋が空いていますからそこでお眠りください。寝床を用意してございます。」
「ほんまに!?ありがとぉございます。そんじゃ甘えさせてもらいますわ!」
「勇者さま、ありがとうございます。どうかタタリオロチを倒し、この村をお救いください。」
「勇者さま!」
「勇者さま……!」
「いや……うんうん、わかったわかった。」
なんか勝手に倒すって言ったことにされてるけど、まあええわ。ぐっすり眠ってから逃げればええ。
そして俺は母屋に案内され、寝転んだ。ふかふかのベッド……そう。カチカチに硬い木の床に敷かれた、ふかふかならぬチクチクのワラのベッドに。
「いや、寝れるかー!背中にワラがチクチク刺さって痛いわ!!」
俺は怒鳴った。けど、次の瞬間涙が溢れてきた。
「もう、最悪や……」
シクシク泣いていると、コンコンとふすまをノックする音が聞こえた。
ふすまなのにノックするんかい。
「エリシアでございます。入ってもよろしいでしょうか。」
「ええよー」
俺は投げやりに返事をした。
「失礼します。」
ほとんどが僅かな衣擦れだけの繊細な足音で、エリシアが部屋に入ってきた。
するりと良い香りの風が頬を撫でた。俺は目を瞑っているけれど、それでエリシアちゃんが近くに座ったことがわかった。
「無理なお願いでしたのに、引き受けてくださってありがとうございます。」
「いや……」
もう疲れが限界で、言い返す気にもならなかった。
「生贄に決まった日から私は、村のためだと言い聞かせてきました。でも…….本当は怖かったのです。ですから、勇者さまには本当に感謝しています。ありがとうございます。」
「………………そうなんや。」
次の瞬間、エリシアちゃんは俺の耳元で囁いた。
「楽しみなのです。村長である祖父が強引に取り付けた約束でしたけれど、これから勇気あるあなたと共にいられる日々を夢想すると……。えと。」
ばっと慌てて立ち上がる音を立てて、彼女は上擦った声で言った。「ごっ、ごめんなさい。はしたないですよね、出会ったばかりだと言うのに、こんな想いを……。勇者さまは、もしかすると、私と結婚しなければならないのは、嫌でしょうか……?」
「……いや、嫌やないよ。あんたみたいな可愛いコと結婚できるんなら、死んでもかまわへんわ。」
嘘はついてない。本当にそう思ってる。……俺はなぜだか、罪悪感で胸を締め付けられた。
「……ふふっ、そうですか。そ、それでは。」
ちょっと嬉しそうにそう言うと、エリシアちゃんはふすまをしめた。
あんな顔とか可愛くて性格も可愛い、しかも出会ったばかりの俺と過ごす日々を妄想して楽しみだなんて言う。こんな都合の良い子他におらへん。少なくとも、元の世界には。それにその都合の良さは危うさでもある。俺がここにおらんと彼女は大変な目に遭うに違いない。そうや、俺は決めた。タルタルおろしなんかさっさとくったばして、エリシアちゃんと幸せな結婚生活をおくる。俺はこの世界に残るんや。元の世界とかどうでもええねん。
「ふっ、ふふっ、ふははははっ!……ぐかーっ」
俺はつい吹き出すと、多幸感に包まれて気が抜けたのか硬かったはずの床で眠りについた。
そして夜が明け……なかった。
「きゃーっ!」
俺は飛び起きた。
母屋から出ると、元の世界の基準ではありえないサイズの大蛇が村を闊歩していた。
「くそ……村を壊されてたまるか!」
勇敢な村人が大蛇に槍をぶつける。
しかし、槍は全く刺さっていなかった。
「っ……!」
次の瞬間、大蛇は尻尾で村人を払い除けた。
その後村の家に巻きつき、バキバキに砕いていた。その様子を見て、俺は青ざめた。
「やばい……こんなん倒せるわけない常識的に考えて……逃げるんや!」
小声でそう言って俺が踵を返した途端だった。
「エ、エリシア〜っ!」
エリシアの祖父である老人……村長が叫んだ。
俺は足を止めて、振り返った。
「なんか村のうぬらが我のことを裏切って倒そうとしてるような気がしたから、先手を打ちに来たわ。契約だったのに、それを破ろうとしたうぬらが悪いんだからな。」
タルタルおろしは流暢に人の言葉でそう言った。
「生贄は戴く。安心せい。腹に入れたら帰るでの。」
タルタルおろしは尻尾を掲げ、口に入れようとする。
「……」
エリシアは悲鳴ひとつ上げていなかった。だが、その時一粒の涙を流した。
「待て!」
「ん?」
「待てと、言っとるやろ!」
タルタルおろしは俺に気づくと一瞥し、嘲笑った。
「何かと思えば、なんじゃ。うぬ、足がガタガタ震えとるではないか。ひゃっひゃっひゃっひゃっ。」
「う、うっさい!人間には、どんなに嫌だろうとどんなに怖かろうと、その先に待ってる人のために立ち向かわにゃならん時があんねん!」
ピキーンッ!
頭痛とともに頭に声が響いてきた。
(良いことを言いましたね、それでこそ勇者です。あなたにはチート能力を授けていますから、そんなやつ簡単に倒せるんですよ。これは消化イベントです。大した問題ではありません。)
どこがやねん!こっちは今にもおしっこ大量にちびって泣き出しそうやねん!具体的にはどうすりゃええんや!
(こう叫ぶのです。スキル発動─)
俺はその声に合わせて言った。
「スキル発動、タスキルノハバキリ!」
(スキル発動、タスキルノハバキリ!)
周囲に吹き抜ける竜巻のような風を巻き起こし、髪と服がはためき、腕に稲妻が走り、それは、機械的なニュアンスと幻想的なニュアンスの入り混じった、独特の造形の宝剣となっていた。
流石の状況にタルタルおろしも口を開けて唖然とした。
「その剣はっ……まさか!?」
村長は言った。
「この地に伝わる伝承……シャチークの使徒にしか扱えぬ伝説の宝剣、タスキルノハバキリ。やつれた目のクマからして彼が伝説のその人で間違いないと、見抜いておったのよ。」
「来ていたのか、勇者が……っ!」
タルタルおろしは慌てふためいて言う。
「そうや、俺は……勇者や!」
「小癪な!」
大蛇は巨大な鋼鉄の尻尾を、重たい空気と共にこちらに振ってくる。それをその剣で払った。
すると、いとも簡単に大蛇の尻尾は切り身になり、エリシアは落下する。
「きゃーっ!」
俺は叫ぶエリシアを抱き止めた。
「……!」
「もう大丈夫や、待っててな。」
俺は彼女の身体を地面に下ろした。
「ただでは済まさんぞ小童、貴様に過ぎた力、それを持った化け物が!」
牙を剥いてくるタルタルおろしを、俺は剣で迎え打ち、力一杯切り払った。
「ぐわああああっ!?」
「別に持ったってええやん、過ぎた力。なんも困らんよ。」
そう余裕そうにカッコつけて言って、汗を拭う。
疲れるなあ、剣振るのって。
瀕死で地面に打ち果てる大蛇。俺と同じようにぜえはあと息を切らしながら、言った。
「これで勝ったと思うなよ……我はこれでは……終わらん!いずれ復活し、貴様の末代を締め殺してやるわ!……ぐふっ!!」
そう言うと、紫色の煙となってタルタルおろしは霧散した。
それを見て、俺は片膝をついた。
「はあっ……はあっ……やった、倒した……!!」
そう呟いた途端、抱きしめられた。
「勇者さま……!」
「苦しいて、エリシアちゃん」
「もっ、申し訳ありません!」
「いや、ごめん。ええんよ、苦しくしてくれて。君が生きとって、嬉しいから。」
「……はい!……ありがとう、ございます……!」
彼女は俺を強く抱きしめた。
そして耳元で囁いた。
「昨日はああ言いましたけど、その時点では少し嫌だったんです。父が勝手に私をあなたの嫁に行かせるって行ったこと。」
「っ!……いや、そりゃ当然よ。誰だって嫌でしょ。」
そう聞いて一瞬だけショックを受けたが、そりゃそうよと思った。
「さっき大蛇に食べられそうになっていた時だって、もうこのまま死んでいいと思っていました。でも……あなたが怖くても助けに来てくれた時、私あなたと一緒にいたいって思いました。すごい力を持っていましたけど……たとえあなたが勇者じゃなかったとしても、あなたとどこまでも行ってしまいたいって。」
「……そ、そか。」
そんなふうに言われて、照れてしまう。
「はいっ!」
エリシアは、俺を強く強く抱きしめた。その力自体はあの大蛇に比べたらずっとずっとかよわい。けれど、強く強く抱きしめられているのがわかった。
俺は幸せに満ち足りた。
「エリシア……」
そしてその多幸感からか力が抜けて、俺を強い眠気が包んだ。
「この世界には恐ろしいことがたくさんあります。それを討ち倒すために勇者さまはこの世界にやって来たんですよね。私、あなたと一緒にこの村を出て、一緒に旅がしたいです。連れて行って……くれますか?」
「もちろんだよ。僕も……君と一緒に旅がしたい。エリシア……」
ほとんど眠りながら、そう言っていた。
「エリシア愛してるッ!」
がばっと上体を起こした。
「うわお起きたっ!大丈夫ですかー?」
そこには警察官がいた。
スズメが鳴いている。朝だ。
俺は電柱に背をつけて眠ってしまっていたみたいだった。
「エリシアってなんだ?」
「さあ……」
俺に話しかけているのとは別の警察官たちが、俺を冷ややかな目線で見ながらそう話していた。
「飲んでたの?こんなところで寝ちゃダメだよ。気をつけてくださいねー」
「あ、あー、すみません。」
俺は寝ぼけた頭をごちゃつかせやがら歩いて、駅に着いた。改札にshachicaをタッチし、そのまま電車に乗りこんだ。今日は日曜。珍しく休日出勤はなかった。胸がしめつけられるような気持ちだ。きっと最初からなかったんだと思う。冷静に考えたら、そうに決まっている。それなのに、何かを失ってしまったような、そんな気持ちに苛まれた。
俺は吊り革を掴んだ。
電車が発車した。
俺はつい、ぼそっと口をついていた。
「夢だったんや、夢だったんやろうなあ」
ピキーンッ!
(夢じゃないですよ)
「うわあっ!?」
周りの視線が僕に一瞬集まった。
「す、すみません……!」
人々の視線は瞬時にスマホへと戻っていった。
(夢じゃないですよ。)
は?嘘、夢じゃない?どういうことや!?
(あなたは戻ってきたんです、この世界に。)
なんで戻したんや!俺はあの世界でエリシアと暮らすつもりで……あっ
(あなたが早く帰せっていうから戻したんじゃないですか。)
……くそっ!
(願いを叶えてあげたのに、くそとはなんですか!)
悪いか!ああ、もう、くそっ……
(こっちだって、あなたの元の世界に戻りたいって願望を叶えてあげるために、大変な根回しをしたんですよ!死んだ肉体を修復して……って、そんなに落ち込まなくたって良いじゃないですか。)
俺は電車を降りた。
駅前の牛丼チェーン店で、納豆、オクラ、鰹節、焼き海苔、卵、ご飯、味噌汁、牛皿のついた朝定食を注文。
そうそう、これだよこれ。この豪華さでワンコイン以内なんだから最高なんだよな。
オクラと卵と鰹節をご飯に乗せ、醤油を回しかける。
美味い。けど、エリシアに抱きしめられた時、あの時は今よりほんのちょっとだけ、もっと幸福な気持ちだった。
(そんなにあの異世界に行きたいっていうんなら、戻してあげなくもないですよ。)
「ごほっごほっ!?」
俺はむせた。
水を飲んだ。
えっ!?ほんま!?ほんまに!?
(は、はい。もう、特別なんですからね。)
「おっしゃあああああああ!!!」
つい立ち上がって叫んでいた。
店内の人々の目線が、俺に向いていた。
「……す、すみません。」
(そんなに嬉しいんですか。)
ええ。そりゃあもちろん。
(それなら頑張った甲斐があるというものです。えっへん。とはいえ、異世界とこの世界では時間軸がずれていますから、ちょっと年月が経ってるかもしれません。)
エリシアちゃん、俺に比べちゃ少し幼いくらい若かったからな。それがナイスなお姉さんになってるってんなら、むしろ最高や。いやでも、会ってすぐの男を好きになるくらい危なっかしいコや、俺がおらん間に別の男ができとったら……最悪や!はあっ!……いや、まあ、そやったらそやったで正々堂々そいつより俺のがナイスガイやでって伝えるだけやでな。
そんなことを考えながら、セルフ精算機で会計を済ませていた。
(その扉を開けたらまた異世界転生できますよ。)
おっ、仕事が早い!よっ!しごできウーマン!
(えへへっ、それほどでも……ありますかねぇえへえへえへへ)
俺は扉に手をかけた。
「そんじゃ、行ってきま─」
外に出た途端、強い衝撃が身体の前面にぶつかってきた。
キキーッ!ドンッ!
俺はトラックに轢かれた。
「がはっ!」
目が覚めると、俺は右手に何かを握っていた。それはドアノブではない。宝剣タスキルノハバキリだった。
「戻ってきた……のか!」
そう思ったのも束の間。
プーーーーーッ!
「うわあっ!」
俺はやたら流線型のデザインの車を避けた。
はあっ、危ねえっ……。
「えっ?」
………………車?
黒いビルが聳え立ち、ネオンの光る街並み。
「え、見てよ」
「あれって……」
何やらひそひそ声が聴こえる。
見ると、周りの人々はこっちを指さして噂話をしている。
「おい、見てみろよ、あそこに勇者さまのコスプレしてるやつがいるぜ。」
「えっ、クオリティ高っ、もはや本物じゃん!」
後ろを向くと、そこには銅像があった。
「嘘だろ……」
2000年前にこの街を救った英雄、勇者の銅像。
台座にはそう刻まれていた。
そして、その銅像の姿には見覚えがあった。
「俺だ……」
大きな路上スクリーンにCMが流れる。
「歩んできた2000年の歴史、更なる次の2000年を見据えて。住みやすい、平和な街づくり。勇者の街、ハバキリシティ。」
「…………2000……ねん………………は?」
最悪の想像が浮かんだ。
この状況から推察するに、俺がエリシアと出会った時、タルタルおろしを倒したあの時から……2000年が経った……?
「は?……は?…………は?意味がわからん……」
俺は頭を掻きむしった。
「なんやこの世界!なんや、なんや!……意味がわからん!意味がわからん!」
そして、喉が枯れるまで叫んだ。




