第7話
【トリス視点】
目覚めると、そこにいるはずのユウトの姿がない…。
慌てて寝室を見渡すと、畳んでおいたユウトの服もないのじゃ。
まさか、我をおいて出ていった!?
それとも、昨夜の出来事全てが夢だった?
激しくなる動悸も気にする余裕がなく、我はユウトを探すために寝室を飛び出した。
リビングのテーブルにはペアのタンブラーと火酒の瓶が置かれたままで、昨夜の婚儀が夢ではなかったことを知ることはできた。
でも、ユウトがいないのじゃ…。
我は騙されたのか?遊ばれたのか?
酷いのじゃ。神様なんておらんのじゃ。
ボロボロと零れる涙を止めることもできず、その場で立ち尽くしていると、玄関の扉が開きユウトが入ってきた。
騙されていなかったのじゃ。疑って悪かったのじゃ。
「どうしたの!?」
我の涙に驚いたのか、ユウトが掛けよってきて片膝をつき、目線を合わせて心配そうに覗き込んでくる。
「我を一人にして出ていったと思ったのじゃ!」
そう叫びながら我はユウトの胸に飛び込んで泣いた。
ユウトは優しく抱き留め、我の背中を優しく撫でてくれたのじゃ。
「トリスを一人にしないって約束しただろ。置いていったりしないよ。」
ユウトは底抜けに優しい最高の旦那様なのじゃ。
「ユウトを疑って悪かったのじゃ。」
「僕のほうこそ、昨日はごめん…。」
新妻を残して寝てしまったことを後悔しておるようじゃな。
「気にしていないのじゃ。ユウトがずっと一緒にいてくれるだけで十分なのじゃ。」
我の言葉を聞いても、ユウトは沈痛な表情を崩さなかった。
「いや、ちゃんと責任をとりたいんだ。もしトリスが同意してくれるなら、僕はトリスと結婚し、ずっと支え合って生きていきたい。トリス、返事を聞かせてくれないか。」
ん?ユウトのなかでは、まだ結婚したことになっていない?
ドワーフ流だったから婚姻の儀と気付いていなかったのか…。
我だけが結婚した気になっていたのかと思うと、猛烈に恥ずかしくなってきたのじゃ。
ユウトからすれば、結婚もしていないのに勝手に服を脱がされ夜着で添い寝していた我はどう映っていたのじゃ?
どう考えてもハレンチな女じゃ…。
急激に顔が熱くなって逃げ出したくなる。
唯一の救いは、ユウトからプロポーズしてくれたことじゃ。
我の痴態を見ても、結婚に前向きでいてくれた。
もう我にはユウト以外考えられないのじゃ。
「同意するのじゃ。我もユウトと結婚したいのじゃ。」
ユウトは安堵したようで、真剣な表情を崩した。
「誓いのキスをしてもいいかな?」
そういえば聞いたことがあるのじゃ。人間は教会で婚姻を誓うときキスをすると…。
「の、望むところなのじゃ。キスするのじゃ!」
初めてのキスに緊張が最高潮となる。
目を閉じ唇を突き出して待つ間も鼓動がうるさくて集中できないのじゃ。
長く感じた待ち時間も、額への柔らかい感触で現実に引き戻される。
何故に額?口と口ではないのか?
「唇を重ねるのは、トリスがもう少し大きくなってからにしよう。」
ユウトは優しく笑いかけてくれたが、我はこれ以上大きくならないのじゃ…。
かといって、今から口へのキスをせがむのは恥ずかしい。
まぁ、我の成長期がとっくに終わっていることにユウトもすぐ気付くはずなのじゃ。
「我らは夫婦となったのだし、町の者たちにユウトを紹介したいのじゃ。町を案内しながら、日用品なども買い足さねばならぬ。」
町の皆は祝福してくれるだろう。
祝福されるのも照れくさくはあるが、ユウトにも町に馴染んでもらいたいのじゃ。
「助かるよ。本当に自分の名前以外の記憶がないから、いろいろ教えてほしかったんだ。」
そうじゃった、記憶を無くしてユウトは不安な常態なのに、浮かれている場合ではないのじゃ。
「よし、すぐに出るのじゃ!」
「えっと、その格好で行くの?」
あぅ、夜着のままであった…。またハレンチな女だと思われたかもしれぬ…。




